2007/10/29
友藤(??×あかね)
※この話は『友雅×藤姫』というマイナーなCPの話です。「友さまの相手はあかねちゃんよ!!」って方は回れー右っ!!
■桂花■
――現世に生を受けて三十といくとせ余り。
初めて『居た堪れない』という思いを味わったかもしれない。
「今日は本当に良いお天気ですね、友雅殿」
「ええ、本当に。澄み切った青空が天高くまで抜けていて、今ならどこへでも手が伸ばせそうですよ」
御簾の内で、しゃらりと玉のこすれる音がする。「本当」合いの手と同じく御簾に映った影が小さく首を傾げた。その声は頭上に広がる秋空のように穏やかであった。友雅もそれに、平素と同じ艶やかな笑みを返す。
しかし友雅の心中は嵐に荒れ狂う海のようであった。
(おかしい…何故、何も言ってこない?)
この耳聡い姫君があの噂を聞いていないわけがない。友雅は目を伏せ、ぱちり、と扇を広げた。口元を隠しつつ、その扇縁から細めた視線で御簾内の様子を伺う。
――後に伝説となって語られる、鬼との戦いからしばらく。
八葉、天の白虎である友雅がいつともなしに恋心を抱くようになった相手は、年が自分と二回りも違う、まだいたいけな幼姫。名前を藤姫といい、彼女自身も『星の一族』として鬼との戦いに貢献した一人だ。
鬼との戦いの以前から親交があった者同士であり、その頃から妹のように可愛がってきた相手とまさか恋仲になろうとは、さしもの友雅も予想の範疇を超えていたようだが、開き直ってしまえば年下の恋人が可愛くて仕方ないのが現状である。
尤も、まだ幼い少女に無体なことは働けず、こうして日の高いうちの逢瀬を楽しんでいるだけだが。しかしそれでも友雅の変化は周囲が驚くほどであった。龍神の神子であり、昨日とある筋に嫁ぐことが決まったあかね曰く、「友雅さんから夜の香りがしなくなった」と。
だがそんな友雅に最近、不本意な噂が立ち始めたのだ。
噂の花曰く「あの橘少将殿が北の方を迎えられる」、「しかもそれはあな美しやと噂される何某の娘御殿とか」と。
ちなみにその何某とは藤原ではない。
女性との色恋話が絶えなかった友雅故に、その噂が広まるのは、火事の炎よりも早かった。今では宮中を歩くと物見高い視線が注がれる。
もちろん、根も葉もない噂である。噂の女性とは、確かに以前交流があった。しかし文をいくらか交わし一二度御簾越しに話した程度である。鬼との戦い以降、女性関係を改めた友雅にとって非常に不本意な噂なのだ。
だが、噂とは光陰よりも早いもの。その噂はこの藤原邸仕えの女房達でさえ知っていた。と言うことは、目の前の姫の耳にも入っているということである。
以前「まるで私に姉でも出来たようだ」と称した藤姫は、育った場所柄もあるが、こうした類の話をその耳に入れるのは早い。そして幼さに比例しない頭の切れの良さで友雅を窘めるのが得意な少女だった。
今日もそれを覚悟で通ってきたのだ。いや、寧ろ窘められるを待っている。
しかし、面通りをしてから此の方まで、藤姫までその噂について一切口にしない。もしや機嫌を損ねているのかと思ったが、御簾の中から聞こえる声はいつも以上に穏やかだった。小さな鈴が転がるような声はいつもと全く変わらない。
それが逆に友雅を不安にさせた。今まで女性との駆け引きはそれこそ星の数ほど行ってきたが、ここまで相手の気持ちが読めないのは初めてだ。
(さて…どう出たものか)
せめて詰って責め立てて泣き叫んでくれさえすれば慰めの言葉をかけることも言い訳をすることも出来るものの。友雅はひっそりと扇の影で息を吐く。
自分から話も持ちかけるのは、簡単だ。しかしそれではこちらの立つ瀬がない。身の潔白は明らかであるし、不本意な思いをしているのは誰でもない自分なのだ、それなのに何故言い訳がましいことを自分からしないといけないのか。勝っているのは男の矜持心というものだ。
友雅は再度息を吐いた。
そのとき、ふと鼻についた香りに、おやと顔を上げた。ぱちり、と扇を閉じ、視線を巡らせる。
「藤姫。香を変えられましたか」
「いいえ。どうしてですか?」
「いえ、いつもとは違う香りがどこからか薫ってきたものですから。甘くて、優しい香りだ」
「ああ、それならこれですわ」
御簾に映った影が少し身じろぎをした。す、と御簾が少しだけ持ち上がり、そこから覗いた小さな掌から差し出されたのは一枝の花枝であった。
友雅はほう、と感嘆の息を漏らす。
「桂花ですか。これは珍しい」
「先日、神子様が散策にお出掛けになった際持って帰ってきて下さったのです」
友雅は差し出された枝を受け取った。枝を渡すと同時にさっと御簾内に仕舞われた手を残念に思いながら、金色の小花がたわわとついた枝を鼻に近づける。
「いい香りですね…どこか高貴さを装いながらも心が安らぐ、そんな薫りだ。しかしこの高貴さに気後れをして、蝶などは近づけないと言います」
まるで今の貴女のようだ、と友雅は心中で呟く。
しゃらん、と涼やかな音が鳴った。
「…しかし、不思議なものですね」
「何がですか?」
「物言わぬ花でさえ、こうして匂い立って己の心を呼びかけているのに、言の葉を持っている人は何故ご自分からは何も仰らないのでしょうね」
友雅はぴくり、と肩を揺らした。枝を下ろし、目を見張り、御簾の影を凝視する。冠の鎖が擦れる音はしない。小柄な影は身じろぎもしない。
友雅は遠くで、以前にあかねと交わした会話を思い出していた。
「友雅さん、最近『夜の香り』がしなくなりましたね」
「おや。中々艶やかな物言いを覚えましたね、神子殿。さすがつれづれ人妻になられる御方だ」
「もう、からかわないで下さいっ! …でも、藤姫ちゃんの香りもしませんね」
「…それはどういう意味かな?」
「ねえ、友雅さん。藤姫ちゃんに自分から気持ちを伝えたことってありますか?」
――言葉にしないと分からないこともあるんですよ?
なるほど。これは一本とられた。
友雅は可笑しげにくつくつと笑い始めた。「友雅殿?」突然笑い出した友雅を不審に思ったのか、藤姫が声を掛けた。しゃらん、と音が鳴る。影が小首を傾げる。その声音と仕草にいつもの可愛らしさと幼さが戻ってきているのに気付いて、友雅はふ、と微笑む。
今まで虚勢を張っていたのか。何といじらしい。
笑いを止めた友雅は、瞳を細めた。
「お返し致しますよ」
友雅は御簾へ枝を差し出した。また御簾が少しだけ持ち上がり、そこから小さな掌が差し出される。
友雅はその手首を、彼らしからぬ乱暴な手つきで握った。
「あ…!」御簾内の影が慌てて手を引き込もうとするが、友雅は細い手首を強く握った。
元は薄い簾。これだけ間近に近付けば相手の顔色も分かる。
友雅は頬を真赤に染めた藤姫を見止め、唇を綻ばせた。
――花にさえ劣ると言われたら黙っていられるわけがない。それこそ男の矜持が廃るというものだ。
「その御簾内に入れて頂いてもよろしいですか、藤姫」
藤姫が息を呑んだのが分かった。大きな瞳が零れんばかりに見開かれる。友雅は何も言わず、ただ握った手の力を強く、しかし柔らかくした。
どれだけ見詰め合っていただろう。不意に藤姫が俯いた。
しゃらん、と音が鳴った。
友雅は瞳と口元の笑みを深くして「ありがとうございます」と囁き、御簾を持ち上げた。
ぱさり、と落ちた御簾の微風で、その場に置き去りにされた桂花の枝が仄かに薫った。
後日。
「――あれは貴方の入れ知恵でございましょう、深泉殿」
友雅は目の前に座す青年を直に見つめた。
友雅の視線の先で穏やかに微笑んでいるのは、落ち着いた色合いの袍を着、冠を被る青年である。
「永泉、で構いませんよ友雅殿。知らぬ仲でもないのですから」
青年は友雅の視線に臆することなく笑みと似た穏やかな言葉を返す。
青年の名前は源深泉。以前の法名を『永泉』と名乗っていた八葉、天の玄武である。現在は還俗し、臣下へと下ったが、元は法親王の位であった青年である。
友雅はふう、と息をついた。
「まだこちらの世界に疎い神子殿や、幼い藤姫にあれだけのことを思いつけるはずがありません。ならば誰かの助言があったと考えるのが筋」
「ええ。神子に請われたので少しだけ知恵をお貸し致しました」
悪びれもなく、永泉は素直に肯定する。友雅は少しだけ眉間に皺を寄せて、先ほどよりも深く息を吐いた。
永泉の話によると、友雅の噂を聞きつけたのはまずあかねだったと言う。藤姫の耳に入れたのもあかねであった。だがあかねに悪意はなく、ただ真実の次第を藤姫ならば知っているだろうと踏んで問いただけであった。しかしそれが初耳だった藤姫はひどく落ち込んだのだという。こうなったら友雅に事の次第を問い質そうと提案したのはあかねだった。しかし藤姫は頭を横に振った。いつもこちらから何かを問わない限り自分の事を話してくれない友雅に、藤姫は最近不安を感じていたのだという。もしかして自分はただ友雅に遊ばれているだけではないかと。
そんな藤姫の力になりたくて、あかねは永泉に相談をしたのだ。それに永泉は件の知恵を授けたのだという。
友雅は永泉の話を聞いて苦笑した。
「今回のことばかりは私の責です。永泉さまや神子殿を責めるのは不条理というものですね」
「その御言葉、神子にも伝えておきましょう」
「ええ。あの友雅が不肖にも礼を言っていたと伝えて下さい」
多分今頃藤姫にも礼を言われているだろうと思いながら、友雅は肩を竦めた。
「それで、藤姫の誤解は解けたのですか?」
永泉が穏やかに尋ねる。友雅はにっこりと微笑んで「ええ、おかげさまで」と答えた。
「それはよかった」永泉も微笑み返す。
「私にとってもこれからご縁近くなる方ですから、やはり笑っていて頂きたいのです。ただでさえあれだけ慕っている神子をお側から引き離してしまい、寂しい思いをさせてしまいます。藤姫のことはお頼みしましたよ、友雅殿」
「ええ、もちろん。しかし永泉さまには先を越されました。神子殿と次いで藤姫をも攫ってしまったら、さすがの大臣も鬼の目に泪でしょうから、私は少し時を見なければならなくなりました」
友雅と永泉、将来の義兄弟は二人揃って笑い合った。
爽やかな秋風が二人の間を流れていった。
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言っておきますが、友さまはまだ藤姫ちゃんに手は出してしませんよ(笑) まあその他のことは色々やってるでしょうが(爆)
そんなこんなで、ヒワ書房初の友藤でした。…難しかったです(没) 困ったのは友さまの藤姫ちゃんに対する口調。確か漫画では始終敬語だったよなぁでも何かなぁ…と悶々しながら書きました。以前はあんなにてろてろ(?)書けてたのになぁ。てか友さまの書き方を忘れてる自分に気付きました。ひぃぃぃぃ昔はあんなに書いてたのにっ!
ちなみにワトが友藤を書くと何故か永あか前提になります。…何故?(訊くな)
この話中のあかねちゃんは、藤原家に養子に入って近日永ちゃんに嫁ぐことになってます。てことは将来藤姫ちゃんを娶るつもりの友さまと義兄弟になるんだよね!! えらく見目麗しい義兄弟だなぁ( ̄▽ ̄〃)
うっし、これでよろしいだろうかクールビューティー(私信)
…そして最後に謝ります。実は金木犀(桂花)は江戸時代に中国から渡来してきました…!!!(爆) あはは桂花茶は美味しいですよーあははははー!!!(逃亡)
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■桂花■
――現世に生を受けて三十といくとせ余り。
初めて『居た堪れない』という思いを味わったかもしれない。
「今日は本当に良いお天気ですね、友雅殿」
「ええ、本当に。澄み切った青空が天高くまで抜けていて、今ならどこへでも手が伸ばせそうですよ」
御簾の内で、しゃらりと玉のこすれる音がする。「本当」合いの手と同じく御簾に映った影が小さく首を傾げた。その声は頭上に広がる秋空のように穏やかであった。友雅もそれに、平素と同じ艶やかな笑みを返す。
しかし友雅の心中は嵐に荒れ狂う海のようであった。
(おかしい…何故、何も言ってこない?)
この耳聡い姫君があの噂を聞いていないわけがない。友雅は目を伏せ、ぱちり、と扇を広げた。口元を隠しつつ、その扇縁から細めた視線で御簾内の様子を伺う。
――後に伝説となって語られる、鬼との戦いからしばらく。
八葉、天の白虎である友雅がいつともなしに恋心を抱くようになった相手は、年が自分と二回りも違う、まだいたいけな幼姫。名前を藤姫といい、彼女自身も『星の一族』として鬼との戦いに貢献した一人だ。
鬼との戦いの以前から親交があった者同士であり、その頃から妹のように可愛がってきた相手とまさか恋仲になろうとは、さしもの友雅も予想の範疇を超えていたようだが、開き直ってしまえば年下の恋人が可愛くて仕方ないのが現状である。
尤も、まだ幼い少女に無体なことは働けず、こうして日の高いうちの逢瀬を楽しんでいるだけだが。しかしそれでも友雅の変化は周囲が驚くほどであった。龍神の神子であり、昨日とある筋に嫁ぐことが決まったあかね曰く、「友雅さんから夜の香りがしなくなった」と。
だがそんな友雅に最近、不本意な噂が立ち始めたのだ。
噂の花曰く「あの橘少将殿が北の方を迎えられる」、「しかもそれはあな美しやと噂される何某の娘御殿とか」と。
ちなみにその何某とは藤原ではない。
女性との色恋話が絶えなかった友雅故に、その噂が広まるのは、火事の炎よりも早かった。今では宮中を歩くと物見高い視線が注がれる。
もちろん、根も葉もない噂である。噂の女性とは、確かに以前交流があった。しかし文をいくらか交わし一二度御簾越しに話した程度である。鬼との戦い以降、女性関係を改めた友雅にとって非常に不本意な噂なのだ。
だが、噂とは光陰よりも早いもの。その噂はこの藤原邸仕えの女房達でさえ知っていた。と言うことは、目の前の姫の耳にも入っているということである。
以前「まるで私に姉でも出来たようだ」と称した藤姫は、育った場所柄もあるが、こうした類の話をその耳に入れるのは早い。そして幼さに比例しない頭の切れの良さで友雅を窘めるのが得意な少女だった。
今日もそれを覚悟で通ってきたのだ。いや、寧ろ窘められるを待っている。
しかし、面通りをしてから此の方まで、藤姫までその噂について一切口にしない。もしや機嫌を損ねているのかと思ったが、御簾の中から聞こえる声はいつも以上に穏やかだった。小さな鈴が転がるような声はいつもと全く変わらない。
それが逆に友雅を不安にさせた。今まで女性との駆け引きはそれこそ星の数ほど行ってきたが、ここまで相手の気持ちが読めないのは初めてだ。
(さて…どう出たものか)
せめて詰って責め立てて泣き叫んでくれさえすれば慰めの言葉をかけることも言い訳をすることも出来るものの。友雅はひっそりと扇の影で息を吐く。
自分から話も持ちかけるのは、簡単だ。しかしそれではこちらの立つ瀬がない。身の潔白は明らかであるし、不本意な思いをしているのは誰でもない自分なのだ、それなのに何故言い訳がましいことを自分からしないといけないのか。勝っているのは男の矜持心というものだ。
友雅は再度息を吐いた。
そのとき、ふと鼻についた香りに、おやと顔を上げた。ぱちり、と扇を閉じ、視線を巡らせる。
「藤姫。香を変えられましたか」
「いいえ。どうしてですか?」
「いえ、いつもとは違う香りがどこからか薫ってきたものですから。甘くて、優しい香りだ」
「ああ、それならこれですわ」
御簾に映った影が少し身じろぎをした。す、と御簾が少しだけ持ち上がり、そこから覗いた小さな掌から差し出されたのは一枝の花枝であった。
友雅はほう、と感嘆の息を漏らす。
「桂花ですか。これは珍しい」
「先日、神子様が散策にお出掛けになった際持って帰ってきて下さったのです」
友雅は差し出された枝を受け取った。枝を渡すと同時にさっと御簾内に仕舞われた手を残念に思いながら、金色の小花がたわわとついた枝を鼻に近づける。
「いい香りですね…どこか高貴さを装いながらも心が安らぐ、そんな薫りだ。しかしこの高貴さに気後れをして、蝶などは近づけないと言います」
まるで今の貴女のようだ、と友雅は心中で呟く。
しゃらん、と涼やかな音が鳴った。
「…しかし、不思議なものですね」
「何がですか?」
「物言わぬ花でさえ、こうして匂い立って己の心を呼びかけているのに、言の葉を持っている人は何故ご自分からは何も仰らないのでしょうね」
友雅はぴくり、と肩を揺らした。枝を下ろし、目を見張り、御簾の影を凝視する。冠の鎖が擦れる音はしない。小柄な影は身じろぎもしない。
友雅は遠くで、以前にあかねと交わした会話を思い出していた。
「友雅さん、最近『夜の香り』がしなくなりましたね」
「おや。中々艶やかな物言いを覚えましたね、神子殿。さすがつれづれ人妻になられる御方だ」
「もう、からかわないで下さいっ! …でも、藤姫ちゃんの香りもしませんね」
「…それはどういう意味かな?」
「ねえ、友雅さん。藤姫ちゃんに自分から気持ちを伝えたことってありますか?」
――言葉にしないと分からないこともあるんですよ?
なるほど。これは一本とられた。
友雅は可笑しげにくつくつと笑い始めた。「友雅殿?」突然笑い出した友雅を不審に思ったのか、藤姫が声を掛けた。しゃらん、と音が鳴る。影が小首を傾げる。その声音と仕草にいつもの可愛らしさと幼さが戻ってきているのに気付いて、友雅はふ、と微笑む。
今まで虚勢を張っていたのか。何といじらしい。
笑いを止めた友雅は、瞳を細めた。
「お返し致しますよ」
友雅は御簾へ枝を差し出した。また御簾が少しだけ持ち上がり、そこから小さな掌が差し出される。
友雅はその手首を、彼らしからぬ乱暴な手つきで握った。
「あ…!」御簾内の影が慌てて手を引き込もうとするが、友雅は細い手首を強く握った。
元は薄い簾。これだけ間近に近付けば相手の顔色も分かる。
友雅は頬を真赤に染めた藤姫を見止め、唇を綻ばせた。
――花にさえ劣ると言われたら黙っていられるわけがない。それこそ男の矜持が廃るというものだ。
「その御簾内に入れて頂いてもよろしいですか、藤姫」
藤姫が息を呑んだのが分かった。大きな瞳が零れんばかりに見開かれる。友雅は何も言わず、ただ握った手の力を強く、しかし柔らかくした。
どれだけ見詰め合っていただろう。不意に藤姫が俯いた。
しゃらん、と音が鳴った。
友雅は瞳と口元の笑みを深くして「ありがとうございます」と囁き、御簾を持ち上げた。
ぱさり、と落ちた御簾の微風で、その場に置き去りにされた桂花の枝が仄かに薫った。
後日。
「――あれは貴方の入れ知恵でございましょう、深泉殿」
友雅は目の前に座す青年を直に見つめた。
友雅の視線の先で穏やかに微笑んでいるのは、落ち着いた色合いの袍を着、冠を被る青年である。
「永泉、で構いませんよ友雅殿。知らぬ仲でもないのですから」
青年は友雅の視線に臆することなく笑みと似た穏やかな言葉を返す。
青年の名前は源深泉。以前の法名を『永泉』と名乗っていた八葉、天の玄武である。現在は還俗し、臣下へと下ったが、元は法親王の位であった青年である。
友雅はふう、と息をついた。
「まだこちらの世界に疎い神子殿や、幼い藤姫にあれだけのことを思いつけるはずがありません。ならば誰かの助言があったと考えるのが筋」
「ええ。神子に請われたので少しだけ知恵をお貸し致しました」
悪びれもなく、永泉は素直に肯定する。友雅は少しだけ眉間に皺を寄せて、先ほどよりも深く息を吐いた。
永泉の話によると、友雅の噂を聞きつけたのはまずあかねだったと言う。藤姫の耳に入れたのもあかねであった。だがあかねに悪意はなく、ただ真実の次第を藤姫ならば知っているだろうと踏んで問いただけであった。しかしそれが初耳だった藤姫はひどく落ち込んだのだという。こうなったら友雅に事の次第を問い質そうと提案したのはあかねだった。しかし藤姫は頭を横に振った。いつもこちらから何かを問わない限り自分の事を話してくれない友雅に、藤姫は最近不安を感じていたのだという。もしかして自分はただ友雅に遊ばれているだけではないかと。
そんな藤姫の力になりたくて、あかねは永泉に相談をしたのだ。それに永泉は件の知恵を授けたのだという。
友雅は永泉の話を聞いて苦笑した。
「今回のことばかりは私の責です。永泉さまや神子殿を責めるのは不条理というものですね」
「その御言葉、神子にも伝えておきましょう」
「ええ。あの友雅が不肖にも礼を言っていたと伝えて下さい」
多分今頃藤姫にも礼を言われているだろうと思いながら、友雅は肩を竦めた。
「それで、藤姫の誤解は解けたのですか?」
永泉が穏やかに尋ねる。友雅はにっこりと微笑んで「ええ、おかげさまで」と答えた。
「それはよかった」永泉も微笑み返す。
「私にとってもこれからご縁近くなる方ですから、やはり笑っていて頂きたいのです。ただでさえあれだけ慕っている神子をお側から引き離してしまい、寂しい思いをさせてしまいます。藤姫のことはお頼みしましたよ、友雅殿」
「ええ、もちろん。しかし永泉さまには先を越されました。神子殿と次いで藤姫をも攫ってしまったら、さすがの大臣も鬼の目に泪でしょうから、私は少し時を見なければならなくなりました」
友雅と永泉、将来の義兄弟は二人揃って笑い合った。
爽やかな秋風が二人の間を流れていった。
〜終〜
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言っておきますが、友さまはまだ藤姫ちゃんに手は出してしませんよ(笑) まあその他のことは色々やってるでしょうが(爆)
そんなこんなで、ヒワ書房初の友藤でした。…難しかったです(没) 困ったのは友さまの藤姫ちゃんに対する口調。確か漫画では始終敬語だったよなぁでも何かなぁ…と悶々しながら書きました。以前はあんなにてろてろ(?)書けてたのになぁ。てか友さまの書き方を忘れてる自分に気付きました。ひぃぃぃぃ昔はあんなに書いてたのにっ!
ちなみにワトが友藤を書くと何故か永あか前提になります。…何故?(訊くな)
この話中のあかねちゃんは、藤原家に養子に入って近日永ちゃんに嫁ぐことになってます。てことは将来藤姫ちゃんを娶るつもりの友さまと義兄弟になるんだよね!! えらく見目麗しい義兄弟だなぁ( ̄▽ ̄〃)
うっし、これでよろしいだろうかクールビューティー(私信)
…そして最後に謝ります。実は金木犀(桂花)は江戸時代に中国から渡来してきました…!!!(爆) あはは桂花茶は美味しいですよーあははははー!!!(逃亡)
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