5月24日土曜日。再び振り出した雨の中、久しぶりに「寄席」を見た。
吉本興業が今年の秋にオープンする京橋花月の為のプレ・イベント『Go!Go!京橋花月 』である。
場所は大阪ビジネスパーク内の円形劇場。雨にも拘らず500程の席はほぼ満席。吉本の集客力と大阪人のお笑い好きに感心するばかりであった。
公演は13時と16時の2回で、16時の部に遅れて入った。当日券4000円であったが、仕事の打ち合わせも兼ねていたので、ふたりの塾生共々タダで入れて頂いた。恐縮なり。
で、十数年ぶりの「寄席鑑賞記」である。
■京橋コメデイ■
席に座るとやっていたのがコレ。
出演は、川畑康史、宇都宮まき、おーい!久馬、ヤナギブソン、野生爆弾(川島・城野)他〜
川畑康史がメインの「刑事モノ」。二つの芝居が一つの舞台で重なって進行するなど、NGKでの新喜劇には見られない演出があり、何か新しいものをと企てる京橋花月のプレ・イベントの意義を垣間見る事が出来た。
ところで、以前から思っていたのだが、何故吉本新喜劇の芝居は下半身を全く使わないのだろう。容れモノを変え、演出を変えるのもありだが、役者の肉体を変えるのも新しい何かの為に有効ではなかろうか。吉本の役者に肉体訓練を!
〜休憩を挟んで漫才の部〜
■スマイル(瀬戸洋祐・ウーイェイよしたか)■
登場、いきなり「僕達の年齢判りますか?」とタブーと言われている‘客触り’。客席も答える。だが、僕は漫才は客に話しかける芸だと思っているから、‘客触り’に反対ではない。只上手くやって欲しいだけだ。この日のスマイルは残念なり。
ネタはご存じ「桜坂〜ウーイェイ」「ドラえもん〜コーンポタージュ」など十八番ネタを繋いだもので、客席の笑いは十分。7分ほどの持ち時間を、テレビの中や賞レースとは違う間で楽しませてくれた。寄席での彼らを見る事が出来たと言う感慨だ。
敢えて言うなら新ネタを見たかったが、初めての劇場では致し方ないことだろう。
■中山功太■
舞台上に譜面台と数十枚のフリップが用意される。そしてくたびれたT−シャツとG−パンで登場。もう少し見た目をきれいにして欲しい、いきなりそう思わされた。
本ネタの前に「こんな奴おるモノマネ」。(電車の中、友達が降りた後、段々表情が戻る奴)(朝例で貰ったプリントをこんな風にして教室へ戻る奴)・・・的なあるあるネタを4本ほどこなして、本ネタ「対義語」へ。
ところで、本ネタの前にそんなつかみをやるのに、最初からフリップが出ていたのが気になった。
さて「対義語」。全部で20個ぐらい。一発目は、
(ババシャツ ⇒ ジジーンズ)
結構な受け。その後に受けていたネタは、
(テニスの王子様 ⇒ 卓球の奴隷)
(母さんが夜鍋をして手袋編んでくれた
⇒ 父さんが早起きして手袋ほどいてた)
(チャーリーとチョコレート工場
⇒ 島木とガム工場)
(酒と泪と男と女
⇒ 水と鼻水とオカマとオナベ)
など。
僕が一番気に入ったのは、
(信じる者は救われる
⇒ 教祖に壺を買わされる)
だった。
彼は何故あんなにネタを急ぐのだろう。時間の短いR−1ならともかく、対義語を見せた後の彼のコメントは鋭くて面白いのだし、今日のような場では、それも聞かすつもりでじっくりやってもと思った次第だ。
■ダイアン(西澤裕介・津田篤宏)■
とりネタは「彼女のお父さん(津田)に娘さんを下さいと西澤が言いに行く」ミニコントだ。
「お父さん!」「娘さんを下さい!」。これをとにかく繰り返す西澤。それが後半では何故か「中華取って下さい!」に。持ち時間が長いせいだろう、これが良い間で繰り返される。爆笑と言って良い受け方だった。僕も相当笑った。
去年のM−1決勝進出は彼らに大いに自信になったと言うことであろうか。
■海原やすよ・ともこ■
ともこ、太った?衣装のせいか?
それはともかく、相変わらず(東京の人間はきつい、むかつく。それに比べ大阪は)というここ5、6年ずーっとのネタ。無論初めての劇場だし、年齢層も結構幅広かったから致し方ないかもしれないが、いや、(東京と大阪)のネタでもいいが、せめて観点は変えて欲しかった。
只、笑いは取っていた。
■まるむし商店(磯部公彦・東村雅夫)■
あんなに何を言ってるか判らない漫才だったろうか!少しは聞き慣れている僕でも相当不明瞭だった。お客さんはどうであったろう。それだけが気になった舞台だった。残念。
■大木こだま・ひびき■
本日のトリ。こだまがどんどん話題を変え、「夢やがな」「それはそんんでええがな」「腕上げたな」「チッチキチー」もあり。12分ぐらいの高座、お客さんを満足させての退場だった。
「そんな奴おらんやろう」が無かったのは、彼ら自身も飽きて来たのか?
久しぶりにじっくり見てひとつ発見。つっこみのひびきがこだまのボケに突っ込むのは2割。8割は顔を抑えたり、のけぞったりと体で反応するだけ。これが妙に面白かった。是非一度お確かめを。
これにて公演終了。
円形劇場は寄席小屋ではない、だが、新喜劇はともかく今日の漫才は日頃劇場で見られる悠長で、たっぷりした、恐らく芸人さんも楽しみながらの漫才だったのではないか。この処不勉強で劇場へ足を運ばなくなった僕にすれば相当久しぶりに味わった「寄席」の空気だった。
そうなのだ、昔は本当に頻繁に「なんば花月」へ、「うめだ花月」へ、「京都花月」へ、「角座」へ、「新花月」へ、「神戸松竹座」へ行っていたものだ。
今、僕の手元に『客の陰から(三)』と書かれた大学ノートがある。昭和51年に岐阜から大阪へ漫才作家になろうと出て来た頃、縁あって当時の多くの寄席、演芸場へタダで出入りさせて貰い、その時見たモノの感想を書いた何冊かのノートの内の一冊だ。拠って、そのタイトルは僕が命名したものだ。
ところが今回読み返して驚いた。こんなにきつい事を書いていたのかと。何の権利があってそんな事を書いたのだと。だがそれは思い上りなどでは決してない。上阪して2年、結婚はしていたもののバイトもしながらの素人同然の身分で何を思いあがる事が出来ようか。畢竟、芸も、芸人も、寄席も、舞台も、何も判らないまま、判らないが故に、傲慢に書きなぐったモノなのだ。実際、公表するのが憚られる腹蔵の無さ、歯に衣着せ無さ、失礼千万さである。
だがそれをここに書き写す。当時の演芸場の雰囲気が伝われば、そして僕自身の初心を確かめる為に。
因みに(※〜)は今回僕が付けた筆者注である。
★うめだ花月六月上席★
(1978年6月3、4、5、7、9、10日)
〜10日間の内6日顔を出した。勿論、目的は小ずえ・みどり。一席に6日も行ったのは金の助・銀の助の新花月以来、怠慢の証だ。
6回も行ったのは小ずえ・みどりが僕の台本を演っていて――特別に何度も話をして一つの漫才を仕上げてみようと思ったからである――10日間を終えて、初日が今日ぐらいの出来であって本当ではないかと思う。つまり、客は仕上がっていない稽古を金を払って見ている訳でおかしな話だ――作家もそうだが、漫才師も怠慢だ。
舞台終り、何度か小ずえさんと話をした。それもおかしなは話でみどりさんも加わるべき――更に残念な事は、まだまだ言いたい事が言えない事。だがそれは台本の上達と共に拡大されていくだろう。希望的観測!
■紳助・竜介と枝織■(※枝織は現在の桂小枝)
〜西部劇のコント。ガン捌き、早撃ち競争、それに弾を手で取ったり、口で取ったりで、オリジナルギャグは無し。唯一面白かったのは、馬に見立てた事務椅子に乗って滑り出て来た紳助の衣装。ヘルメットに旗を立て、腹巻き、長靴、ライフルを刀の如く脇に差し。彼らしかった。その他はテンポはのろいし、台詞は聞き取りにくいし
■いくよ・くるよ■
〜小ずえさん曰く、18番のネタだそうである。だから錬られているし纏まっていた。そしてくるよの面白さも出ていた。けど、これ以上望めない気がする。その点は、小ずえ・みどりに軍配が上がるように思う。それは店なぞに時間と目を奪われないで漫才一本でやっている、芸に臨む態度の当然の違いかもしれない。完全に身内贔屓!(※しかもこの3年後いくよくるよは漫才ブームに乗る!)
■ザ・パンチャーズ■
〜東野の髪の毛を吹き飛ばすギャグ(※海原はるか・かなたのあのギャグと全く同じ)、オクレのギャグ、そして「勝手にしやがれ」「憎みきれないろくでなし」の混合演奏。僕が音楽ショーに期待するのは洗練されてる事だが、大阪で、あのメンバー!それは高望みではなく僕が判っていないのかも。
■ニューコメッツ■(※男性3人のアクロバットチーム)
〜今年の初め頃から、帽子を投げ合い頭で受け取ると言う技をやっているが、如何せんチャチ。如何ほどの稽古をしたと言うのか。
■小ずえ・みどり■
〜やっぱり雑だ。舞台が練習になっている。そして8日目頃になって「大分まとまって来た」と言う。全く客をどう思っているのか。そのくせ笑いは気になると見える。台本は筋だけを覚えれば良いのではない。一言一言計算されているのだ。だから細かいニュアンスが掴めていない。スランプだと小ずえさんは言い、「基本に戻ることだ」と友達に言われたそうだが、では基本をどう考えているのか。何度も台本を読んで欲しい。少なくとも本番前に20回は。
(※小ずえ・みどりさんはこの時点で経歴12年、大先輩だ。顔から火が出る思いだ。僕こそが基本を問われる話だ。傍若無人なる若さだ。因みにこの時の漫才は『ピラミッドを作ったのは誰』、今手元にあるが原稿用紙31枚もある事に僕が驚く。そして次のようにも書いて入る。ほっ。)
〜しかし、僕の台本のせいもある。そして小ずえさんと話す中で勉強になることもあるし、こうした話が出来るだけでも恵まれた台本書きかもしれない。だがそれ(※芸人と台本の事で話をする事)は当り前のことなのだ。もっと話し合う事が必要だ。
■ポケットミュージカルス■(※名物企画コーナーである)
出演=木村進、室谷信夫、桂木甲介等
(※「玄冶店」「番場の忠太郎」「駒形茂兵衛」の3本立てコント。その内容と配役も書いているが、割愛。最後に)
〜木村と室谷のやり取りが面白い。花紀京と原哲夫とは違うが、あのくらいの域まで行けば、きっとまた味が出てくるだろう。
(※恐すぎて笑うしかない)
■月亭八方■
〜三度ほど見たが、「青菜」であった。(※花月で)落語をやるのは珍しい。だが何とも●●。いやいや致し方ない。落語をやったというだけでも●●●ておこう。
(※●印は余りに恐れ多くて伏せ字に!八方さんがこれを読むことは無いだろうが、冷や汗)
■阪神・巨人■
〜ネタは、阪神の理想の女性が山口百恵から下がって行って淡谷のり子になり、更に・・・途中阪神が迫力ある声で支離滅裂な長台詞を言い、その間巨人は馬鹿にしたような眼で聞いているのだが、その時こちらの方が恥ずかしいというか、白けるというか、僕は全くいやになった。
(※僕は何者、何様、何神?)
■桂小文枝■(※現・桂文枝)
〜落語の時もあったが小噺だけの時もあった。この師にして●●●●●。あ●●●ものだ。
(※伏せるしかない!只、普段の花月での落語家さんは殆どが、今で言うエピソードトークのようなものだった)
■チャンバラトリオ■
〜火つけ盗賊と長谷川平蔵のコント。「引き上げ」から「シベリア帰り」。そして十手が八手、五手。最後は伊吹が赤い布を巻いて火になって登場。ハリ扇のおしおきを食らうという旧作。新しい所もあったが、何よりの不満は殺陣が全く同じパターンであること。ひと踏ん張り欲しい。
自己弁護するしかないからそうするが、お笑い作家になろうとして2年、笑いへの熱だけがあったのだ。しかし、笑いの場の実践と理論を全く判っていなかった。あれから30年!場が違えば芸の在り方が違う事を、今は少しは判った。その途上、いや歩き出した処だったのだ・・・と言う事で、ご容赦とご理解を。
そして今回ゆっくりとした漫才を楽しんでふと思った、持ち時間20分の漫才コンテストはどうだと。若手には与えられた時間を持たすことさえが困難だろう。芸人の力量が露呈する厳しいレースになる事間違いない。現存のそれらとは随分様相の変わった、しかし芸人自身が漫才を楽しんでいるコンテストになるのではないだろうか。面白そうだ!
10分でもいいか。