雑誌『団塊パンチ』を見つけたのは去年の5月、梅田紀伊国屋だった。創刊号と2、3号の3冊を一挙に買った。
そして、今年の4月、もっと面白い本を見つけた。
ミナミのど真ん中のTSUTAYA・戎橋店。24時間営業。若者をターゲットとした今時の書店だ。
僕が見つけたのはそんな本屋には似つかわしくない本だったのである。無論、偏見です。
その本とは『冤罪File』
A5版。128ページ。創刊特別定価380円。出版元:キューブリック。季刊である。
名前だけで飛びつくように買った。
創刊号だった。発売は2月1日で、既にふた月以上が経っていた。確かもう一冊棚にあった。売れ残っていたと言っていい。何せミナミのど真ん中、若者しかやって来ない本屋である。
しかしこの先売れるかどうか判らない雑誌を2カ月も店頭に置いていたTSUTAYAさんも嬉しい。これがたまたま見逃していたとかではなく、書店としての意志であって欲しい!
犯罪、裁判、まして冤罪は、僕が結構アンテナを張っているジャンルなのだが、僕のそれにはこの本は引っかからず、偶然見つけた次第であった。僥倖である。
創刊号には次号の予告も有り、6月に入って第2号を新大阪駅のdanで購入した。
その名の通り中は「冤罪」満載である。
因みに創刊号の目次から抜粋すると、
◆巻頭インタビュー・映画監督 周防正行
「裁判そのものを描きたかった」
◆特集・痴漢冤罪
CASE1「西武新宿線事件」
CASE2「西武新宿線第3事件」
◆『左手の証明』著者 小澤実さんインタビュー
◆〔海外情報〕
大詰めを迎える米・黒人死刑囚の再審請求
◆現役テレビプロデューサーの激白
「冤罪報道の客観性を問う!
『袴田被告』が『袴田さん』に変るまで」
◆〔総力取材〕福岡・引野口事件
〜獄中のスパイが聞いた「告白」〜
◆スリ未遂!?
サラリーマンを襲う新たな“電車内冤罪”
◆10年目の東電OL殺人事件
〜無罪なのに勾留されたゴビンダさん〜
◆<裁判官の品格>
「名張毒ぶどう酒事件」再審開始決定を取り消した門野裁判長ってどんな人?
◆さ〜て、みんなで考えよう!「裁判員制度」
・裁判員PRビデオ概要
・裁判員PRビデオ上映会 法曹三者の姿勢
◆ずさんな捜査で誤認逮捕!
「野洲殺人事件顛末記」
◆無実の袴田死刑囚を救え!!
◆冤罪関連ブックレビュー
◆編集後記・次号予告
斯くの如しである。如何せん相当読者を絞った、専門雑誌というより、最早オタク雑誌と言ってもいい本である。ご存じの事件名や、人物、或いは用語はありましたでしょうか。
詳しくは実物を読んで頂くに如かないが、2号も含め、殺人、強盗など冤罪事件の主流から、今時の痴漢、そして交通事故まで、世の中に、そして僕らの周りにいつ現れ、いつその被害者となるかも知れぬ冤罪に関して、広く、細かく取材、報告している。
編集人は長井ひろし氏。その編集後記にこうある。
「〜もちろん我が国が、長時間の違法な取り調べ、代用監獄、検察側の証拠非開示、裁判の根本的なあり方など、冤罪を生み易い土壌にあることは確かです〜
しかし、私たちはひとつの冤罪事件を大きな問題に転換し、ひいては冒頭で述べたような「国家権力の暴力」であるかの如きイデオロギーには反対する立場をとり、あくまでも個々の事件をリベラルにとらえ解決していくことが望ましいと考えています。むしろ、そのイデオロギーこそが、素朴に「裁判の在り方がおかしい」と感じている人々の関心を失わせるだけで無く、個々の事件を検証していくうえでも非常な障害になるとの見解を持っているのです〜」
声高で、高邁な権力批判ではなく、あくまで個人の視点から冤罪を考えて行こうという、権力があからさまな暴力を振るっていた70年代ではない、皮肉めくが、個人への関心が膨大した21世紀の日本に即応した視点だと言える。
では、6月発売の第2号の目次から、目ぼしいところを。
◆〔巻頭インタビュー〕ヤメ検弁護士・田中森一が激白
「これが検察のオトシの手口だ!!」
◆〔総力第1特集〕仙台・北陸クリニック事件
〜筋弛緩剤のまぼろし〜
〜守大助氏独占手記!
◆冤罪事件の経済学
◆〔取材現場発〕現役テレビプロデューサー
〜ウソで固められた147人の自白調書〜
大阪・高槻選挙事件
◆〔ザ・交通裁判〕
「愛媛・高知白バイ事件」
◆〔第2特集〕
38年目の真実―――布川事件
(再審請求人インタビュー)
杉山卓男・桜井昌司
◆北九州・引野口殺人・放火事件 全判決詳報
◆〔シリーズ裁判官の品格〕
◆〔シリーズ痴漢冤罪〕
横浜線 町田駅痴漢冤罪事件
如何か。目次だけだが、この本に興味を持った方はおられようか。もしおられたなら、是非、次号第3号からでもご購読願いたい。随分、この本の宣伝、後押しをしているが、編集部から頼まれた訳ではない。
僕は心配しているのだ。
嘗て、1992年、『ワトソン』という雑誌を購読したことがあった。
雑誌にはキャッチフレーズのようなものがあって、「法律で世間を探偵する知的娯楽誌」というのがそれだ。
その扱う範囲は広い。
「自己破産」(2号)
「実録・鬼平犯科帳」(2号)
「性の研究」(3号)
「ゴルフ会員権」(3号)
「立法シミュレーション・自衛隊分割民営化」(4号)
「文部省の罪と罰」(4号)
「よど号事件と法律」(5号)
「法律問答・死んだらどうなる」(5号)
「平成のカウンセラーみのもんた」(6号)
「不思議な法律・時効」(6号)
「いしかわじゅんの鉄槌」(1〜8号)
「火葬場で働く人のこと」(7号)
「キム・ミョンガンの愛の法律」(8号)
「豊田商事事件と金塊商法」(8号)
一言でいうなら法律を‘遊んでる’雑誌だ。それもその筈、本家はUK、つまり英国の雑誌で、その日本版なのだ。僕には、今に至るもその栄光ある業績に陰りひとつ見えない英国産おバカバラエティテレビ番組「モンティ・パイソン」を彷彿とさせる。
ちょっと言い過ぎか。
しかしこれが8号で休刊となる。残念だが今に至るも復刊はしていない。
だが僕はこっちの方が好きだ。『冤罪File』は真面目だ。それは悪くないが、事実をその事実に限定する事無く見る⇒事実の裏や向こうに想像を巡らす⇒事実を換骨奪胎、もしくは曲解することに依り事実の本質を暴くところにモノ作りの精神と醍醐味があるように思うからだ。『ワトソン』はそういう意欲と臭いのする格好の読み物だった。
『冤罪File』が硬骨漢なら、『ワトソン』は破廉恥漢だ。絶対破廉恥の方が面白いに決まってる!
休刊の真の理由や原因は知らないが、殆どはやはりお金であろう。儲からなかったのであろう。
難しいと思うが、その二の舞を折角の『冤罪File』にして欲しくないのだ。
ところが『ワトソン』は1冊480円。『冤罪File』は2号からは通常値段で450円!
10年以上の時を経て、後者『冤罪File』が選択したこの事実をどう捉えるか!採算度外視?そんな訳はない。だが『冤罪File』がひたすら厳しい現実の中に身を置いた事は間違いない。
大丈夫か『冤罪File』!
只、裁判というか、日本の硬直した司法の状況は変わりつつあり、こうした雑誌が今出るのもそれを受けてでもあり、それを見越してでもあろう。
硬直した司法の変化。勿論、十分柔軟になったという訳ではない。
その変化が日本の司法界に起こり始めたのは1980年代、家族や近隣、つまり血縁、地縁といったことが磁場となって起こる犯罪や事件が増大し、それらの裁判に関わらざるを得なくなった人々、特に犯罪被害者の遺族たちが裁判の現実に不満を訴え出した頃からだった筈だ。
例えば、
▼予備校生金属バット殺人事件(1980)
▼横浜浮浪者襲撃殺人事件(1983)
▼中野富士見中学いじめ自殺事件(1986)
▼宮崎勤幼女連続殺人事件(1988)
▼女子高生コンクリート詰め殺人事件(1989)
▼つくば母子殺人事件(1994)
▼月ヶ瀬村拉致撲殺事件(1997)
▼神戸須磨児童連続殺傷事件(1997)
▼和歌山毒物カレー殺人事件(1998)
▼光市母子殺人事件(1999)
▼京都日野小児童殺害事件(1999)
▼西鉄バスジャック事件(2000)
▼世田谷一家惨殺事件(2000)
などなど。
彼らの裁判の実感とは、加害者の顔も見えず、犯罪の原因も理由も教えられず、自らモノを言うこともならず、全く他人事のように頭の上を通り過ぎて行く裁判への不信と憤慨であった。
それを原動力に闘いは続けられた。
――その間の事情は、それを書くだけの力量が僕には無いことを理由に大幅に割愛――
そして、その動きが「全国犯罪被害者の会」として結実するのは漸く2000年になってからのことだった。
そうした、裁判所という現場の変容の中で、時代も変わって行く。裁判オタク、傍聴オタクと言われる人種の登場。それに拍車をかけたのが北尾トロ氏による『裁判長!ここは懲役4年でどうですか』に始まる一連の裁判傍聴記の出版。
更に、何故か国家指導による「裁判員制度」の目論みと実施。
無論、この制度に無条件賛成でも条件付き反対でもないが、国民に裁判を考えさせたという事実は認めてあげよう。
そして、元「週刊現代」編集長元木昌彦責任編集の『裁判傍聴マガジン』なるものまで出た。
そうした変化の中で『冤罪File』は生まれた。
ネットニュースなどにも発売直後の事が出た。
「発売日前には取次店に難色を示され、大返品覚悟で迎えた2月1日の発売日だったのに、会社から連絡があって、書店の電話が鳴りやまないからすぐに帰って来てくれというんですよ。追加注文です。長年出版の仕事してますけど、経験したことがない。不思議な感じでした」
と、発行人の高崎優氏が語るほどの好スタート。
そして、当初発行分は数日で完売。重版が決まった。
果たして2号の売れ行きはどうだったのか、今のところ、僕が見た範囲だけだが、ネットにも2号も完売といったニュースは見つかっていない。
実際は完売していても、創刊号ほどのニュースバリューが無く、ニュースになっていないだけかもしれないが。
事ほど左様にテーマや目指すところといった点では個性バリバリの『冤罪File』だが、一見して別の特徴がある。
それは広告が極めて少ない事だ。
創刊号で1本。第2号でも2本だけだ。
売れそうにない媒体に企業が金を出すわけはない。それは企業として正しい。
それにプラス、この雑誌の色(=主旨)も影響していると憂慮する。
「冤罪」は権力の仕業で、特権だ。警察と法廷を持たない市民は法権力を恣にする事はできない。『冤罪File』はそうは大言壮語していないが、それと対峙する処に拠った。警察と検察と裁判所に喧嘩を売ったのだ。
そんな怖くて危ない雑誌にわが社のコマーシャルを載せる事はとんでもない。誰がやるか。得せえへん。睨まれる。イメージ悪なる。企業がそう考えたとしても仕方がない。
挙句の広告2本!
それも1本は裏表紙に、周防正行監督の映画「それでもぼくはやっていない」のDVD絶賛販売中、好評レンタル中の広告。
そしてもう1本はその裏(内)側に、現代人文社刊、今井恭平氏の小説「クロカミ」の広告。因みに「クロカミ」とは召集令状のアカガミになぞらえた作者の創作物で、死刑執行員としての召集令状のことである。
創刊号にはこちらの広告は無く、そのページは見事に白紙のままだ。
そうなると、創刊、2号と連続して載った周防監督のDVDの広告だが、発売して半年以上にもなろうかという3号では、どうなっているかとても危うい。
だが売り上げがピークを過ぎたのに、更に広告を載せる企業などあるものではない。第3号の裏表紙が白紙になっていなければいいが・・・心配は募る。
けれど決然3号予告はある!
■巻頭インタビュー!亀井静香
■果たして集団レイプはあったのか!?
御殿場少年事件
■5度目の審理へ
大阪地裁所長襲撃事件
〜警察が隠し続けた証拠ビデオ〜
■再審棄却徹底検証!
「袴田事件・足利事件」
■シリーズ「痴漢冤罪事件」
もう一度!興味を持たれた方は、是非ご購読を!
もう5000字超!
何だか今回は思いっきりの宣伝になってしまいました。
只、『冤罪File』という名前は如何?マトモ過ぎやあしませんか。
僕なら、『冤罪・えんざい・ENZAI』
か、いっそ、『ENZAI』
それとも、『HERO』
それはキムタクのドラマだって。勿論判ってます。そこを敢えて!その訳は、またの機会に!