「Sweet, Sweet, Lovers II」
短編
※某巨大掲示板に投稿したものを改訂したものです。
「ん……」
小さく身じろぎをして、直斗は目を覚ます。
すぐ近くにあるのは、愛しい人の顔。これは夢か、うつつか。
そしてようやく、気付く。自分が、彼に腕枕をされて眠っていたことに。
フラッシュバックする記憶。今の自分は、一糸まとわぬ姿。彼もまた、同じ。
ああ、そうか。そうだった。
僕は……この人に、抱かれたんだった。
くすぐったい程の幸せに、自然と浮かび上がる笑い。声を出さないようにするのが精一杯。
ようやく衝動が過ぎ去った後、また、彼の顔を見つめる。
胸の内に生れた欲望にかられて、そっと唇を近づける。
眠りに落ちる前に、何度も何度も重ねたはずなのに、やっぱり慣れなくて、ぎこちないキスになってしまう。
それでも、十分過ぎる程に直斗は満たされる。他に何もいらないと思える程に。
心の内側に生まれたぬくもりと、彼の体温に、また眠気が襲って来て。
直斗は猫のように彼のたくましい胸に身を寄せて、瞳を閉じたのだった。
Sweet, Sweet, Lovers II
次に直斗が目を覚ますと、彼の姿は側になかった。
体を起こし、部屋の中を見回すが、気配はない。電気の消えた部屋は真っ暗で、ただ秒針が時を刻む音だけが響く。見えないその時計も、きっと夕刻過ぎを指し示していることだろう。
ベッドに置いた手に感じる暖かさ。少し失われかけたそれは、自分のものではない。そんなに時間は経っていないのだろう、と推理する。
起き上がろうとして、自分が裸だったことに気付く。ようやく闇に慣れてきた目であたりを見回すと、ベッドの脇に彼女の服が散らばっていた。
彼の手でそれを脱がされた時の気持ちを思い出して、直斗は赤面する。自然と高鳴る鼓動。胸の奥は熱く、心が焼かれて。
一つ深呼吸して、落ち着きを取り戻そうとする。完全に成功はしなかったけれど、それでもどうにか、直斗は立ち上がって服を着始めたのだった。
「先輩」
階下に下りると、彼は台所に立って料理の準備をしているところだった。
「ん? もう起きたのか」
振り返った顔は、少し残念そう。不思議に思って、すぐに答えを導き出す。
「僕が起きた時に、出来上がった料理で驚かせようと思ってたんですか」
「さすがだな、名探偵」
苦笑して、彼は直斗にソファを指差す。
「座ってテレビでも見てな。出来上がったら呼ぶから」
「そんな。僕も手伝いますよ」
「いいから今日は、俺に任せとけ」
強く言われてしまう。手伝うとは言ったものの、料理に自信があるわけではないので、直斗は彼の言葉に従うことにした。
もっとも、ソファではなく、食卓の椅子を一つ引いて、そこに腰掛けたのだけど。
「――――? 何でそんなとこに? テレビ、見れないだろ」
「いいんですよ、ここで」
少しでもあなたの近くにいたいから。
そんな恥ずかしい言葉を、彼女は飲み込む。代わりに、
「テレビよりも、あなたと話してる方が楽しいですから」
口にしてから、直斗はわずかに赤面する。その台詞も、十分に恥ずかしいことに気付いたから。
「そりゃ光栄だな。で、何を話す?」
幸い、背を向けていた彼は、そんな彼女の様子に気付かなかったようだ。冷蔵庫の中から、キャベツを取り出しながら、問いかけてくる。
少し考えた後、直斗は言った。
「あなたのことなら、何でも」
「俺のこと?」
「ええ。子供の頃のこととか、ここに来る前の話とか――――僕に会うまでのあなたのこと、聞かせて下さい」
知りたいから。あなたの全てを。
こんなにも、一人の人間のことを知りたいと思ったことは、かつて無かった。それだけでも、彼の存在は、直斗にとって特別だったのだ。
「そうだな。じゃあ、何から話すか」
手際良く、とはとても言えないけれど、着実に料理を進めながら彼は。
彼女の問いかけ全てに、答えを返してくれたのだった。
「明日は、学校ですね」
ポツン、と言ったのは、彼に振舞われた料理を食べた後のこと。
テレビの時報が指す時刻は、すでに深夜と言っていい時間。
そして直斗は、ソファに並んで座った彼に抱きしめられている。
始めはやはり、恥ずかしさが先にたったものの、今ではここがずっと自分の場所だったように思えて。
「そだな」
少し経ってから、返ってくる答え。その合間の沈黙の意味を、直斗は知っている。自分も同じことを思っていたから。
離れたくない。
そう、思う。
アナウンサーの話すニュースの内容は、まるで頭に入ってこない。
このまま時が止まればいいのに。生れて初めて、心の底から直斗はそう願った。
あまりに幸せな、この時間。
「……どうする?」
耳元で、そう囁かれる。
心揺さぶる、誘惑。今、彼がペルソナを呼び出したのなら、一体、どんな姿をしているのだろう。そんなことを直斗は思う。
今、この家にいるのは二人だけ。改めて確認する、事実。
このまま朝まで時を共に過ごすことだって出来る。一度、家に寄ってから学校に行っても、十分に間に合う。
熱い頬、胸、心。体中を甘美な炎に焼かれながら、冴え渡る頭。
アリバイなら、いくらでも作れる。証拠を残さない方法だって、無数に思いつくことが出来た。
「一緒に……いたいです」
小さな声で、想いを言葉にして、体を寄せる。二人の間の距離を、縮めるために。
「俺もだ」
耳朶を揺るがす甘い響き。そっと顎を掴まれて、顔を上げさせられる。
間近に見る顔、その瞳に映る自分は虜。心の全てを奪われて、もうこの人しか見えない。見ることが出来ない。
そっと、目を閉じて、軽く唇を突き出す。
「ん……」
溶け合う唇。最初は優しく、徐々に激しく。
互いに舌を絡めあって、深く深く求め合う。
いつまでも続く幸せ。満ちることも飽きることもなど無く、ずっと、ずっと続く。
真白に染められた意識の片隅で、直斗は想う。
僕は――――私は、この人無しでは生きてはいけない。
もしもこれが堕ちるということなのならば。
天に昇る気持ちで、私は堕ちていこう。
この人と共にならば、どこへだって。
「あなたのこと――――大好きです」
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サルベージ&結末改変。
甘いもの模索中。

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