桜風呂  

復刻シリーズ・えろバージョンも、いよいよこれでおしまいです。
最後は風呂ネタか(笑)







『桜風呂』



先に入っていい?と、進藤が訊くから、どうぞと答えた。二人で出掛けて帰宅して、部屋に入るなりだった。

浴室に消えていく進藤を見送って、一息つく。
ジャケットを放り投げ、ネクタイを緩め、どかっとソファに身を投げ出した。

進藤が見ていたら、お前らしくねーじゃん?俺にはいっつも皺になるからさっさとハンガーにかけろーって怒るくせに……とか何とか言いそうだ。

……うん、確かに僕らしくない。

更に僕らしくないことに、ワインをあけて先に一杯やり出した。
風呂から上がってきた進藤が、本当に目を剥いて驚きそうだな……なんて思いながら、だらしない格好のままソファに片足を乗せて、グラスを煽った。






二人で、夜桜を見に行った。

僅かだが盛りを過ぎていたのか、思ったよりも美しいと感じられなかった。
もっと、華やかで圧倒的な光景を期待していたのに。
足元に踏みしだかれた無数の花びらの方が目に付いて、物寂しい気分になった。

いつか……

いつか、この花のように盛りを過ぎて、僕らの情熱も散ってしまうのだろうか……

この花びらたちのように、ゴミみたいに誰かに踏みつけられて、薄汚れて、消え去ってしまうのだろうか……

幸せそうに寄り添って、携帯のカメラを自分たちに向けて撮影する恋人たち。
その姿も、僕の心を逆撫でした。

満開でなくても。
ただ寄り添っていられるのなら、堂々とそう出来るのなら、どんな恋人たちだって満足なんだろう。






僕が何杯目かのグラスをあけた時、浴室から僕を呼ぶ声がした。

最初は無視していたが、あんまりしつこく呼ぶのでグラスを持ったまま彼の元へ向かう。
飲んでいることを知ったら、何て言うかな?ははは……

脱衣所に入ると、全裸で待ち受けていた進藤が案の定、お前勝手に飲んでんの!?信じらんねーっ!と叫ぶ。

うるさい、僕の家だ、僕の勝手だろうとふざけた口調で返すと、仕方ねーなぁ、この酔っ払い……と、甘やかすように笑われた。

グラスを奪われて、どこかに置かれた。一緒に入ろうと囁かれ、服を脱がされる。されるがままだ。

全部脱がされ一糸纏わぬ姿になったら、開放感があった。

飲んでるんなら足元、気を付けて、気分悪くなったら言えよ、と、優しいことばかり言われたが。
僕はフワフワと夢の中にいるようで、進藤に手を引かれて浴室に入った。

その途端。
ふわり、と。微かだが花の香りがして、鼻の奥がくすぐったくなった。
決して派手ではないけれど、柔らかくて甘い香りが浴室中に満ち始めている。

これは……



「ほら、見て。湯船の中。」

湯気の向うに。
湯の表面にゆらゆら浮かんでいる、小さなピンク色の欠片たちが見えた。

「もっと一杯拾ってくれば良かったけどさ〜、お前、何となく不機嫌だったし、感激薄そうだったし。こっそりこれだけ集めんのが精一杯だったわ、ちょっと淋しいけど、匂いは悪くねーよな?」

リサイクルみたいだろ〜、だって勿体無いもんな、散った花びらでもまだ凄く綺麗で、生き生きしてるのに……と言う進藤に、抱きついた。

胸が一杯で言葉にならない。
まるで僕の気持ちが伝染したかのように、散った花びらの命を惜しむ進藤の深さに、密かに感動していた……



二人で一緒に、湯につかる。そっと、そっと。

男二人で入れば殆どの湯は流れてしまうから、ゆっくりと入る。

桜の花びらを失わないように手で集めながら。細心の注意を払いながら。



背中から、愛しい人に抱かれ。

体も心も温めてくれる湯の中で、最後の命を放つ花びらと一緒に、僕も幸せな気分で揺れていた―――



「お前さ……どうして不機嫌だったの?綺麗なもの見てんのに、幸せそうな顔じゃなかったぜ。」

僕は答えない。

黙ったまま……両手で湯を掬って、その中に花びらをいくつか泳がせる。

ゆらゆらと揺らして楽しんでいたら、背後の進藤が僕の肩越しに、ふーっと息を吹きかけた。

花びらが、湯と一緒に僕の手の中から零れ落ちる……

「意地悪め。」
「どっちが?無視しやがって。……いいけど。答えたくないなら。」

小さく鼻を鳴らして、進藤の手がいたずらを始める。

湯の中で、僕のあちこちを撫でさすり、敏感な部分をわざと避けるようにして動いた。

進藤の手の動きに合わせて、波が起きた。
その波に翻弄されて、花びらが躍る。

僕の体に寄せては離れるピンク色の花びらを見ていると、少し朦朧としてくるようだった……

「俺は幸せだったよ。お前と一緒に世の中の綺麗なもんを見られるのって―――俺には凄く幸せ。大切な時間だぜ。」

うなじの上で、囁かれた。息が熱い……

進藤……と囁き返すのが、やっとだった。彼がもっと深く抱きこんでくる。

進藤の頬と、僕の頬がピタリと重なった。どちらも熱を帯びている。
最初は甘えるように、徐々に強く擦り付けられる……

「俺だってお前とほっぺたこーんなにくっ付けて、桜と一緒に写真撮りたかったよ……。」
「痛いよ……進藤……。」



―――なんだ。知ってるんじゃないか。

それならどうして訊いたりするんだと、進藤が憎たらしくなった。

片手を伸ばして進藤の頭を引き寄せる。首を斜め後ろに仰け反らせ、彼の唇を僕のそれでとらえた―――これは罰だ。



浴室の中に、濡れた水音が響く。

喉が苦しくなって唇を離すと、駄目……と言われ、追い掛けて塞がれた。また深く探られる。探られると、僕もじっとはしていられない。

指を進藤の濡れた頭に差し入れて、舌と指を同じリズムで動かすことで彼を味わい、自らを悦ばせた。

熱い。全身が熱くて、息苦しい……
湯の中で、進藤のものも僕のもの反応し出しているのがわかった。
やがて。掠れた声が、遠ざかりそうになる意識を引き戻した。
 
「このまんまここで、する?」

それには首を振った。

「恥ずかしいよ。花びらが見てる……。」

「今更。」

くくく……と笑う進藤に、軽く肘鉄を食らわした。






その夜は。
ベッドの上でも、互いの体に張り付いたままの花びらを見つけ出しては、夢中になってその場所に口付けて、吸った。

お前、こんなところにもくっ付けてる……あ、ここにも……ちゅ。

君こそ間抜けだ……ほら、二つも……ふふ……

ん、くすぐってぇ……塔矢、遠慮がちにキスすんの、止めて?
かえってくすぐったいからさ、もっと強く吸ってよ、歯、立ててもいいからさ……こんな風に。

あっ!……っは……ふ……ん……止せ……そこは……痕が残ったら、困る……

だったらここは?……うん、いいんだな、この辺……
何だかこいつら、かくれんぼしてるみてえ……俺らの体のあっちこっちに張り付いてさ、ちょっと可愛いじゃん……

いい加減に拭いてすぐにベッドに入るから、だ……あ、君、まるで鳥みたい……っ……口を尖らせて、花びらをついばんでる……

んじゃ、もっと食っちゃおう……お前の肌、美味いんだもん……ああ、お前、誘ってんの?こんなやーらしいとこにまで……ほら、この裏側……舐めて欲しいんだな、俺に……

……んー……っ……あ、あ、あ……しんど…………

喉、渇かない?お前、声が声が枯れてる……そういうのも色っぽくて好きだけどさ……

進藤が裸のまま、さっき僕があけたワインのビンを片手で掴んで、豪快にラッパのみしているのが見えた。野性的で、男くさい仕草だ。

……それだけでも、十分感じたのに。

それから彼は、僕にも口移しで飲ませてくれた。
甘い液体が、口中を、喉を、そして全身を、じわじわと潤していくかのようだ。
それを余すところなく吸い上げて、全てを味わった。

僕も何か仕掛けたくて、進藤の耳の後ろに隠れていた花びらを舌先に乗せると、彼の口内に差し入れた。
母鳥がヒナに餌を与えるように、優しく、愛しげに…… 



進藤……君と愛し合うと僕は、胸の奥に咲き乱れる満開の桜を抱えるんだ。
君が見せてくれる、幻だろうか…………



その芳しい香りに包まれて、僕はその夜、深く、果てしない幸せを感じていた―――いつまでも。












最後までお付き合い下さいまして、ありがとうございました!
来年は新作を書きたいです(^^)
1

花嵐  

桜ネタ、サイトからの復刻シリーズです。







『花嵐』

アキラの中に、ヒカルが挿って来る。
いや、押し入ってくるという方が正しいかもしれない。

どんなに体全体の強張りを解かれ
心を緩められ
入り口付近を丁寧に丁寧に解されたとしても

その瞬間に体も心も反射的に抵抗するのを、止めようがなかった。



始まりはまだいい。

腕の中に囲い込まれるように抱き締められて
塔矢、好き好き、大好き、死ぬほど好き…
ヤラせてくれないと俺、マジで死んじゃいそう…と、赤面するようなことを囁かれ

口の中のどこも触れてないところがないくらい執拗に舐められ
舌を絡めとられ、何度も強弱をつけて吸われ
腰が砕けそうにいい想いをさせられる。

一方的に快感を与えられるばかりかと思えば
ヒカルの方もいつも服を脱ぐ前から反応していることを伝えて来る。
…いや、むしろヒカルは知らせたいようだ。

布越しに何度も腰を重ねては揺さぶられる。
濡れ過ぎて衣服の表まで滲ませては、短い逢瀬の時など帰り道に
困ったことになるほどだ。



しかし。
いざ挿って来られると、受け取る感覚の種類がガラリと変わる。
体表面や口内の粘膜で受け取るのとは全く違う快感を呼び覚まされるのだ。



どうしてこんなことを許しているのだろうと毎回過ぎる。
毎回、性懲りもなく思う。



カエルのようにひしゃげた格好で足を開かされ
或いは
動物の交尾のように後ろから攻め立てられ
体位はどうだって、結局は

ヒカルが―――

アキラに―――

挿れているという事実は変わらない。



どんなに愛してる、最高、幸せ、誰より綺麗と馬鹿らしい睦言を囁かれても

ヒカルのものが―――

アキラの中に―――

巻き散らかされるという事実は変わらない。



最後にはどんなに気持ち良くなっても
どんなに愛していても

その関係性の僅かないびつさと危うさに、否応なく心が揺れ動く。









アキラは最初から決めていた。

ヒカルから告白されたら受け入れる。
ヒカルが他の人を選ぶのなら、自分からは一生言わない。

何年もそういう覚悟を秘めてヒカルの傍にいたせいか
本当にヒカルに求められた時は驚きと戸惑いで
最初の晩は、ヒカルに最後まで許さなかった。
…というよりも、気持ちも体も準備が整っておらず、出来なかったのだ。

自分でも、現実にはこんな反応をしてしまうなんて予想外だった。
ヒカルから求められたら嬉しさのあまりどんなことでもしてしまいそうだと
そんな風に己のヒカルに対する愛情を過信していただけに。

ヒカルに向かって
お願いだ、待ってくれ、そういうことはもう少し時間をかけてからと懇願する自分が
不思議に情けなくもあった。

それも本当に、時間の流れがいい方へと導いてくれたというか
ヒカルが我慢強くアキラを開かせて行ったというか…

結局そうやって二人は時間をかけることで、濃い営みにも踏み出して行った。







「どした…今日は、なんか…かたいよ…やっぱ、外はイヤ?」

「ん…ぁ、あっ…待って、もっと馴染むまでは…突き上げる、な…っは!あ、あ…。」

「駄目だよ、そんな顔見せちゃ…お前のその顔で、俺、腰が反応するように
出来ちゃってるの…………あ、ん、とうやぁ…ど?感じる?いい?いつもみたいに…。」

いっぱい濡れてる…お前のアソコ…俺の指がヌルヌル滑るぜ?
それにお前の口元、だらしなく開いて…ほら…キラキラ光ってる…

アキラの唇ではなく、その端から本能的に零しているものをヒカルの舌先が辿った。
同時に、アキラのものにゆっくりと焦らすような手付きで指先を絡めた。



―――夜桜を見ている最中だった。
夜中も二時を回ると、ご同輩しかいなくなることで有名なこのスポットを選んだのは
勿論、ヒカルだ。

おそらく、あちこちの木の下で
同じように睦み合う恋人たちが喘ぎ声を必死で押し殺しては
そのことにすら感じて昂まっているのだろう。



いつでもその場から逃げられるように、春の夜の寒さを感じないように
中途半端に胸元や下半身など、局所だけをくつろげ
木の幹に押し付けられては、立ったまま穿たれていた。

片方の足が、器用にヒカルの太ももを支えにして持ち上げられ
アキラの爪先は自然とヒカルに絡み付くようになっている。
その様子は、大木に蔦やつる草が這うのにも似ていた。

「どしって…っ…しんど…こんな無茶…っはっは…や、ぁ…ぅ…――っ…。」

ヒカルは、アキラの尻を木の幹から浮かせるとそこに手を入れ
己を埋め込んだ場所の回りをなぞっていく。
アキラの先走りをたっぷりと掬った指先で、そうする。

「大丈夫…時間かかったけど、お前ん中…いつもみたいになって来たよ…ほら…。」

とろりとした輪郭の曖昧な声で囁かれ、腰を回転させられ
達したのではと思うくらいに強く反応した。

ヒカルの衣服に庇われるようにして上向いている自分のものが
ビクビクと跳ね一層堅く膨らんだのを感じ、アキラは呻き声を上げそうになる。

察したヒカルが口を塞いだ。

キスで塞ぎたかったが、それでは体勢が苦しい。
ヒカルは、アキラの手に重ねて木に縫い止めていた方の手を解き
それでアキラの口を塞いだのだ。

…こういう時のヒカルはとても素早く、また判断がいい。



キスではなく手で塞がれると、一方的にされている感が大きくなる。
まるで、犯されているような気がする…

それがイヤでアキラは頭を振って訴えるが、かえってヒカルは昂奮を募らせるばかりだ。
抑えた手に力をこめると、アキラの目尻から生理的な涙が伝い落ち
口を塞いでいるヒカルの手まで濡らす。

「と、やっ…ごめ…とまんな…ぁ、あ、ああっ…んくっ…おま、すげぇ…。」

ヒカルはアキラの腰をがっちりと掴んではいいように揺さぶり
感じるだろう場所に幾度も幾度も熱芯を叩き付け
溢れ出るアキラの歓喜を誘った。

アキラももう何も考えられなくなり
ひたすらヒカルの首裏に爪を立てて縋り付く。背中でもがく。

情交の激しさゆえに、大地に着いていた筈の片足すらも
ほとんど浮きかけているのを感じていた。

ヒカルが思ったよりも力があるのか
セックス時特有の昂奮状態でそこまで出来てしまうのか…

いずれにしろ、繋がったままの状態で
大の男一人の体をそこまで翻弄出来る情熱が、ヒカルにはあるのだ。



こんな外で…

こんな恥ずかしい格好で…

ああぁ…それなのに…

どうしてこんなに感じるのだろう…

気が遠くなるくらい、いいんだろう…



木の幹に預けた二人の体が激しく動くたびに
頭上からは桜の花びらが、二人を嘲笑うかのように降りかかって来る。

視界を薄ピンク色に染め、息すらも苦しくさせる、風なき花吹雪の中―――

ヒカルもアキラも昇り詰めて行った…………









「どうして、って…さっき訊いたよな?塔矢…
だってさ、お前、最初からイヤイヤだったから…。」

「え?…なに、を…。」

整わない息のまま、震える声で問う。
いきなり始まった会話に、まだぼんやりした頭が、余韻に疼く体が付いて行けない。

「そうだろ?今だって俺が言わなきゃ、お前から求めることないもんな。
最初は絶対駄目そうな感じで…やっとさせてくれたと思ってもその気、なさそうで…
ホントはさ、俺に流されてる――だけ?」

だから不安になる…危ない状況でも、強引に抱くことで不安を消したくなる…
最近、俺、ちょっとそういうヤバい感じが暴走しそうで…困ってる…
ホント、困ってるんだ…



甘い手付きで頭を撫でられ、髪を梳かれながら
耳朶に唇が触れるか触れないかの距離で囁かれた。

驚いてヒカルの目を見ると、潤んだ瞳が言葉に違わず不安気に揺れていた。

寄せられた眉。
腫れぼったくなった紅い唇。

アキラは事後のヒカルを見るのがたまらなく好きだったが
今日はもっと違う雰囲気が漂っていた。



―――ヒカルの意に添いたかっただけなのに。
自分を欲しいと言われれば応えるし、そういう意味ではいらないのだったら
ヒカルの幸せを祝福した。…するつもりだった。

アキラにとってそれは
受身に徹するという悲壮な決意でも、消極的な選択でもなかった筈だ。
自分なりに尊い、ヒカルへの愛情の形―――そのものだった。



その気持ちを、不意に思い出した。
体を繋げることに気を取られるあまりに忘れかけていた
最初にアキラが愛を自覚した時から胸に刻んでいた、その気持ちを。

さりとて、それを言葉にして伝えたいとは思わない。
そんなことをするのは無粋というか、アキラの美学に反することでもある。

だから、次にアキラが取った行動は
アキラ本人の中では矛盾するものではなかった。



さっき自分の中から出て行ったままで
まだ濡れそぼっているヒカル自身に触れた。

もう片方の手で、自分の萎えかけたものを取り出し添わせる。ぎゅっと握り込む。

そして、ヒカルの唇を求めた―――表情だけで。
両手は下半身に吸い付いているから、そうするしかないのだ。



「とうや…もっと、いいの?俺、もっと、お前を欲しがって…いい?」


泣きそうな声が、アキラの耳を優しく嬲った。

うっすらと微笑んだアキラは
一度達した後だということを差し引いたとしても、壮絶に美しかった―――



ヒカルは今度こそ唇を重ねて来る。
それはアキラのではなく、己の悲鳴を閉じ込める為の唯一の方法だった。



何度も角度を変え
舌を深く差し込むがゆえに離れそうになる唇を合わせ直し
息遣いも激しいキスを交わす。

合間合間にアキラも告げた。

「もっと、したい…足りない…行こう、どこか二人きりになれるところへ…っふ…
ぁ、ああっ…しんど、っ…外ではとても出来ないことを…した、い…。」

…今夜は僕が君を寝かせないから、覚悟しろ…



それを聞いたヒカルは

愛しい者の名前を高い声で呼んだが



それは



突然巻き起こった花風によって

たちまち掻き消された―――――










初出は、何かのオマケSSだったような?それとも、ペーパーだったかな?
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桜色探し  

↓の夕陽と桜に続き、エロい桜話(笑)の復刻、短編3本です。










   『桜色探し』



「お帰り〜、遅かったな!待ちくたびれたぞ〜!」
「進藤?なあんだ…君、もう酔ってるのか?」

見ると、進藤はソファにだらしなく寝そべっている。
テーブルの上には、ワインのボトルとグラスと、それからつまみが少々。

僕は上着を脱いで椅子の背にかけると、ネクタイを緩めた。
疲れているせいもあるが、着替えるよりも、このまましばらくは進藤の傍にいたい気分だった。

ソファの背越しに身を乗り出し、彼の柔らかい髪を撫ぜる…

「お土産があるのに。いただきものなんだけど…ほら、君、甘いもの好きだろう?」
「わーっ、プリン?ムース?これ、いちごが乗ってる!このピンクの四角いツブツブは?」
「さくらゼリーだって。綺麗だよね。」
「ふんわりさくらの香りがする…容器もピンク色だし、さくらの模様が入ってて可愛いじゃん。」
「いかにもこの季節の限定だな。」
「何か…食べるのもったいない…。」

子供みたいなこと言うなと、僕は小さく笑ってその場を離れようとした。
すると、予想外の力で腕を掴まれる。

「お前…今日のシャツ、綺麗なさくら色だ…スッゲエ似合ってる…美人…。」

僕は今日、本当に薄いピンク色系のシャツを着ていた。
さくらの時期に合わせた訳ではないが、自然とこの色を選び、この色に合うネクタイを選んでいた。


―――さくら色、もう一個みっけ。


そう囁いた彼はそっと目を伏せ、僕のシャツの襟に唇を寄せた。
彼の温かい息が僕の首筋にかかり、震えが起きる…
思わず僕は彼の頬に手を置き、包むように、愛しむように、手を滑らせた。


―――ここも、さくら色。


次に、彼は頬に置かれた僕の指を取ると口に運び、軽く爪を噛んだ。
体の奥に灯った火が、少しずつ大きくなる…


―――君だって、さくら色のほっぺをして。…この、酔っ払い。


まだ湿った口内で弄ばれている指を動かし、進藤のいたずらな舌を突っついた。

「この前二人で花見会をぶっち切ったからさ、代わりにさくら色探ししよっか。」
「部屋の中で?どこにさくら色なんて…。」
「もっとあるよ。お前の体には、もっといっぱいあるもん…。」

さくら色の場所が、と…意味深に、淫靡に、囁かれる。

そのまま口から引き抜かれた僕の指は、進藤のさくら色した場所をなぞるため、誘われるように動いたのだった。

「見つからなければ、作ってもいいね。さくら色…。」

この、熱い熱い肌の上に―――


顎から首、そして胸元へと静かに降りた僕の指に、今度は進藤の方が体を震わせ、目を細め…
彼からの答は、切ない溜め息で返された。











出張先で、進藤に似合いそうなネクタイを見つけた。

それは薄いピンク色と、やっぱり薄い紫色が入り混じった複雑な織りだが、光沢があって上品なものだった。
さくら色…と言えば、そうかもしれない。

…どうしよう。進藤は気に入るだろうか。
それ以前に、誕生日やお祝いでもないのにネクタイなんて送っても、変に思われないだろうか。

僕らは、付き合い始めて日が浅い。
友達同士の頃も、恋人同士になってからも、モノをあげたりもらったりしたことはなかった。
男同士でそんなことをするのは、どうにもそぐわないというか慣れないというか…
素っ気無いくらいで丁度いいんだ、みたいな雰囲気が僕らの間にはあった。


一度はその店を出て、でも、再び戻って。
また離れてカフェでコーヒーを飲みながら考えているところに、進藤から電話がかかった。
既に、悩み始めてからゆうに三十分は経っていた。

「よう、塔矢。元気か?仕事、無事に終わった?」
「うん、明日には帰るよ。君はどう?」
「俺は…俺は、ちくしょーって気分!」
「…は?」
「さっきさ、テレビ見ててすげえ面白い場面があって…俺、何気に後ろ振り向いて『なあ、塔矢』って…いもしねーお前に話し掛けちゃったよ…。」

だってお前、俺がテレビ観てる時、いつも斜め後ろに座ってるじゃんか…と、拗ねた声が言った。

「そうか…。」
「あーーーっ!どうしてお前、三日も出張なんだよ!?俺、休みもあったのに!付き合い始めてからこんなに離れたの初めてだから、どうしていいかわかんない…いつもお前が傍にいるような気がして、俺…バカみたいに独り言ばっか言ってる…。」
「進藤…。」
「やっぱちくしょーだぜ。こんな予定組みやがった事務局にちくしょー…。」

胸の奥が、まるで桜の枝が春風に揺さぶられるみたいに、ザワザワと動く…

「でも、もっとちくちょーなのはさ、こんなくだらねえ電話一本お前にするのに、三十分も悩んでるオトメな俺だぜ。…じゃあなっ!早く帰って来いよっ!」

そして電話はブツリと切れた。
突然のことで、さよならを言う暇もない。

最初は呆気にとられ、それからゆっくりと彼の言った言葉を反芻し…

何だ…そうか…
僕が悩んでいた三十分間、進藤も僕のことを考えていたんだ。
二人とも、同じ時間、同じだけ、相手のことを考えていたんだ。

そう思うと僕は浮かれた気分になってしまい、気付いたら凄い勢いで駆け出していた―――あの店で、進藤に似合うさくら色のネクタイを買うために。


…恋する気持ちは春風に似ていると、ふと思った。











「やっぱり、お前の体で一番綺麗なさくら色は、ここかも…。」
「ちがっ!やっ…や、だっ…しんど…。」
「だめ。いつも見せてくれないじゃん…今日はちゃんと、見る。」
「ぁあ…いやだって…恥ずかしい…も、だめ…。」

四つん這いにされ、腰を高く持ち上げられる。
そこを進藤に向かって突き出すような格好は、眩暈がしそうなほど、羞恥の極みだ。
…けれど。
逃げたくても太ももを両手でガッチリと掴まれているから、僕は上半身を仰け反らせ、もがくばかりだ。

ピチャ…ピチャ…グチャリ…ピチャ…ジュ…

進藤が、その場所を舐めている。
広げた舌で周辺を濡らし、僕に羞恥と快感を同時に与え、その合間にはふうふうと荒い、動物的な息を漏らしている。

「恥ずかしいなんてないよ…っはぁ…ここ、綺麗なさくら色だもん…蕾なんて言うけど、ホントに花の蕾みたいだ…んは…小っちゃなシワが寄って、すぼまってる…可愛い…すっげえ可愛いよ、塔矢…。」
「…あ、あ…も、やぁ…離せ…。」
「だめだってば。今夜はここのさくら、咲かせるの。」
「っ!君、まるで…オヤジみたいな…。」

ナンとでも言えばと嘲笑うような声が聞こえ、すぐにまた、そこに濡れた舌を感じる。
今度は、舌先でこじ開けるようにしつこく突付かれた。
力を入れて抵抗を試みるが、前を刺激されると呆気なく脱力してしまう。

「お願い…そこは、もう…っ…ん、ん…。」

しかし進藤は浅く差込んだ舌先を内部でヒラヒラとうごめかせ、唇全体を使って入り口の皮膚に吸い付いた。
時に強く。時に優しく。
初めて与えられる「屈辱」と紙一重の愛撫に、もう僕の下半身は溶け出して崩れ落ちてしまいそうだ…

「ああ、お前…前もトロトロに濡らしてるけど…ほら、ここだってもっと濃いさくら色に染まって…綺麗に、開き、始めてる…。」

もう一度、浅ましい音を立ててそこを吸われた。
舌先が、周辺をザラリと掃いていく。
余りの刺激に思わずそこをヒクヒクさせてしまい、もう僕の理性は焼き切れそうだった。

「もう、待てない…しんど…っん…ぁ…。」
「わかった。最高のさくら色見せてもらったから、俺も満足。…幸せ。」

ヌルリ…と前を指先で弄られ、皮を斜めにひねるようにしてすかれ、強烈な快感にあられもない声をあげた時―――
進藤が押し挿って来た。

散々辱められ、解されたそこは、彼を受け入れてやっぱり、内壁の襞全部で悲鳴を上げて悦んでいる。

そのことをまた、僕は新たな羞恥と陶酔感とともに感じていた………









桜って深いっすね・・・
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夕陽と桜  

サイトからサルベージ再録。
後書きには「19歳頃、やっと本音で語り合えるようになった二人」みたいなことを書いてます。







『夕陽と桜』



まどろみの底からゆっくりと、意識が浮上する。眩しいと感じた次の瞬間には、広い背中がアキラの目に飛び込んで来た。

「目、覚めた?」
「ご免…寝てしまったのか、僕は…」
「ヤリ過ぎた?俺…」

声音は柔らかいが、そこには濃い交わりの余韻が隠しようもなく滲んでいる。
振り向いた恋人は、何も身につけていなかった。肩の曲線が光を弾いて輝く。そこには、胸が詰まるような十代の終わりの危うい若さがあった。

「いや、僕もちょっと…夢中になり過ぎた…」

正直に言えば、ヒカルが驚いた顔をした。

「嬉しいかも…お前がそんなこと…」
「そう?」

アキラはベッドから降りようとしたが、腰のだるさはハンパではない。つけられたばかりの赤い痕が胸や腰にも点々と散っているのが目に入ると、甘い疼きがアキラの体を揺さぶった。

大丈夫?と言いながらヒカルはアキラの肩を抱いて立ち上がらせ、春の暖かさに少しだけ汗ばんだ肌を重ねる。
啄ばむようなキス。髪に差し込まれた指。鼻に抜ける息遣い。
足首から角度をつけて折ったヒカルは、その足先でアキラのすねを往復するように撫で擦り、項垂れた二つの塊は当然のように二人の間で捏ね合わされた。

体に火が灯るその直前に、アキラが顔を離した。

「…えっ…もう、夕方?」

すっかり傾いた春の陽光は、トロリとしたオレンジ色に部屋を染めあげていた。

「だぜ。…なあ、外、見てみる?川沿いの桜並木がスゲエ綺麗」

体を無理に絡ませ合ったまま、窓辺に移動する。一時も相手の熱を手放したくない。歩き辛くても、そんなことは一向にかまわない。

窓のカーテンを少しだけ開け、下半身をそのカーテンで隠すようにすると、二人は裸のままで眼下を見下ろした。人に見られたらとんでもないが、一瞬の冒険だと割り切れば恥ずかしさも背徳感も消えた。

「綺麗だろ?」
「そうだね」
「?…なぁんだ、あんまり感動してねえの?桜並木をこーーーんな高いところから見下ろせるんだぜ?このホテルのこの部屋空いてたの、絶対にラッキーだぜ?」

アキラは無言で窓外を見下ろし、それからヒカルの手を軽く振り払った。ベッドへと戻ろうとするアキラの背中を、ヒカルが引き止める。

言葉はなく、うなじに吸い付いたヒカルは粘った音を立てながら愛撫を繰り返し、前に回した手でアキラの乳首を摘んだ。指先で捻りあげるようにすると、アキラの腰がゆらめく。
胸への愛撫に弱いアキラは、服の上からヒカルに撫でられるだけでも腰砕けを起こしそうになるのだから、ダイレクトに弄られれば感度が振り切れるのも無理はなかった。

「どうし、て…」
「ん?」
「どうして桜は毎年咲くんだろう…どうして…」
「………なに?」

ヒカルは鼓動が早まるのを感じつつ、訊ねる。

「桜の下で君に拒絶された…あの、春…中学生になったばかりの…」
「あっ…まさか、お前………葉瀬中の………理科室………」

―――あれから幾度も巡って来た桜の季節。
どうしても思い出さずにはいられなかった、初めて他人によって与えられた傷であり、胸の痛みであり。

そしてその傷をつけた張本人に惹かれ、反発し、また魅せられ、その繰り返しの中で次第に覚悟を固めて―――今は二人、ともにある。

「忘れられなかった…あの日の怒り、悔しさ、焦り…混乱…桜の季節が来るたびに、僕を言葉に出来ない息苦しさに、突き落とした…」
「アキラ…」

ヒカルの愛撫が止む。その代わり、もっと強く抱き締められた。

「桜が嫌い?俺が、お前を『桜嫌い』にしたの?」

アキラの肩に乗った金色の前髪の頭が、甘えるようにグリグリと肌を押す。その痛みよりも羽毛のような前髪のくすぐったさの方が勝り、アキラは身震いした。

「…っ…昔のこと、だ…今日はこうして、真っ裸で桜を見下ろすことが、快感でもある…」
「そう?じゃあ…俺もちょっと言わせてもらうぜ?」
「えっ…」
「桜くらいでナンだよ…」

言うが早いか、ヒカルはアキラを半ば強引に窓辺へと、もう一度向き直らせる。そして背後から両肩を掴む、「見てみろ、この夕陽」と、強い口調で言った。

「夕陽?」

部屋の中にまで長く伸びた光は、外の風景もオレンジ色の海の底に沈めていた。

「お前に今から打とうかと挑発されてさ、だけど俺はそうしようって答えられなかった…あの時、悔しくて情けなくて…俺がどんだけ打ちのめされたか…」
「あの時…」
「夕陽が世界を真赤に染めて、お前の後姿に圧倒された。その光景がずっと…ずっと胸に焼き付いて…思い出すたんびに、体が震えたっ…」

それはヒカルの逆襲だった。

「いいか。春は一年に一回だ。桜もすぐ散る。だけど夕暮れ時は毎日毎日、やって来る。…俺は毎日毎日、お前に答えられなかった自分自身の影に…谷底まで突き落とされて―――そして毎日毎日、這い上がるしかなかった」
「毎日………」

アキラはヒカルに真正面から向き合った。二人の目と目がしっかりと合う。

「僕らはどうして今、こうしているんだろう―――今の話みたいに、子どもの時から何度もぶつかったし、すれ違った。互いを憎いのではと思うくらい反発し合っていた…もう、二度と会わないかもしれないと思ったことだって、あった筈だ」
「そうだな。お前は俺にとって、出会った日から絶対に忘れられない相手になった。負けたくない…お前だけには負けたくない…頭がおかしくなるんじゃないかって思うくらい意識するのは、今でもお前だけだ…」
「それなのに、こんなことをする仲になった…」

視線を外さないまま、アキラの指先がツーッとヒカルの滑らかな胸をはいた。切なげな溜息が、ヒカルの口からアキラの手元へと零れ落ちる。

「…不思議だ」
「不思議でいいんだよ。人の心なんて不思議の塊じゃんか。俺はお前とこうなってみて、やっとわかった。昨日は睨み付けたいくらい憎ったらしい相手が、今日は愛しくて愛しくてたまんない…そんなことが起こってもいいじゃんか…」

ヒカルの胸の上で悪戯を繰り返していたアキラの指はやがてヒカルに絡め取られ、温かい口に含まれた。ねぶるようにされれば、その指先から毒を塗りこまれたみたいに痺れが広がってゆく…

「どうして…」
「うん、どうしてだろ…」
「どうしてこんなに君なんかを愛してしまったんだろう―――」
「っふ………お前さ、さっき俺の下で腰、使ってたぜ?声もデッカイの…隣に聞えたんじゃないかってくらい…」
「君だって今日は早かったよ?馬鹿みたいに、イイ、気持ちイイ、お前最高って、いつもと同じ言葉を繰り返してた…」
「だーっ、すぐに張り合う!」
「君こそ」
「俺ら、いくつになってもこうだな」
「きっと死ぬまで変わらない」
「じゃあ死ぬまで言いたい放題でいこうぜ。そんで、セックスもイッパイしような?」

指の代わりに今度はこれを吸ってくれと強請るように、舌を差し出すアキラ。すぐに応えるヒカル。

命を散らしゆく、壮絶に美しい桜吹雪―――
夏の終わりの、胸を甘酸っぱく満たす夕陽―――

互いの胸に過去の傷跡を探りながらする抱擁と口付けには、痛みに変わる寸前の刹那的甘さがあった。

「…なあ、今夜、泊まっていける?」
「いや、帰るよ。母が夕飯を用意してくれている」
「中坊か、お前は」
「君も来ればいい」
「いや…おふくろさんが望んでいるのは、息子と夫と、家族水入らずの時間だろ」
「じゃあ、帰してくれるのか?」
「帰れるうちは帰るって、お前は言った」
「ん…僕はいくつになってもあの人たちの子どもだ」
「それでいいさ」

そしてヒカルは少しだけ逡巡した様子を見せた後、低い声で言った。
「…だけどさ、帰る前にもう一回だけしよう?」と、寂しげな微笑みがアキラを包み込み、腰の奥がズン…と重たくなる。

「それから」
「…それから?」
「帰るのはすっかり日が暮れてからにしてくれ。また、夕陽の中にお前の背中を見送るのは―――今日は嫌だ」
「わかった。僕も桜並木は通りたくないかな」

ほーら、また張り合う!やっぱお前はガキだ!と、ヒカルが明るく言えば、アキラも「同じく君も」と笑った。







書いたことすら忘れているので、新鮮です(笑)

1

バレンタイン復刻〜HEAVENLY KISS〜  

「断琴」の後編はひとつ↓にあります。
これはまた別のバレンタインSSです、どんどん甘ったるくなる〜(笑)







『HEAVENLY KISS』



ドアを開けると、微かな匂いがした。

ヒカルは鼻をくんくんさせると、ああ、塔矢が来てるっ!・・・と、本当に声に出してしまってから、転がるようにリビングへと入った。

そこには、ソファに寝そべってくつろいでいるアキラがいた。



「お帰り。」
「わ〜、来てたの?お前今夜は大阪でどうしても断れない接待って言うからさ。」
「その接待はキャンセルになった。君、僕の靴を見てわかったのか?」
「ううん、匂い・・・あ、そっか〜、靴もあったな、そう言えば。でも匂いの方が先にわかった!」
「相変わらず犬みたいだな。僕の匂いでもするのか?」
「するよ〜、するする、塔矢の匂い・・・なーんつーのか・・・。」



言葉で説明することを放棄したヒカルが近寄って来て、そっとアキラの髪を掬ってサラリと落とす。甘えたような仕草だ。

ふ〜ん、髪の毛の匂いか?と、アキラが呟くと、いや〜、それだけじゃねーの・・・と、今度は首筋に流れる。しつこく首筋、うなじ、耳たぶ辺りをさすらうヒカルの手。

冷たさと際どい触れ方の両方で、くすぐったそうに身をよじりながらアキラは、再び問う。

じゃあ、襟足の辺は汗をかきやすいから、その匂いかな?・・・と。アキラ自身も自らの体臭を嗅ごうと、鼻をすん・・・と鳴らした。

いつも清潔で折り目正しいイメージのアキラがそういう動物的な仕草をするだけで、ヒカルの中の何かにスイッチが入る。



「今夜、泊まってけるんだろ?なあ・・・。」
「・・・んふ・・・っ・・・あ・・・しんど・・・。」



返事を聞く前に、ヒカルは手にした荷物の全てを床に放り出して、ソファに王様のように泰然と横座りしているアキラに圧し掛かった。

・・・すぐに、キス。

ヒカルが外から連れてきた冷たい唇も、冷たい手も髪の毛も、冷たい服の感触も。

あっという間に甘ったるくて温もりのある色に塗り替えられていく。

二人は、待ちかねたように絡みだした互いの舌を味わい、心ゆくまで貪った。



「・・・も、風呂入った?石鹸の匂いする・・・髪、ちょっと湿ってる・・・。」
「うん、電車が混んでてヒーター効きすぎてて・・・あれは壊れてたんじゃないかなぁ・・・それで汗かいたから。・・・シャワー借りた。」
「あ、じゃあ俺も浴びてきた方がいいよな?それからゆっくりアッチで・・・。」
「別にいいよ。今すぐでも。・・・おいで。」
「え?いいの?マジ?」
「マジマジ。」



使い慣れない言葉に自分でおかしくなったアキラが、照れくさそうに笑った。こういう風にふざけてヒカルの口調を真似してくれるのも、二人きりの時だけだ。―――決して外では見せない、『ヒカルだけのアキラ』だ。

お許しが出たらもうなりふりかまわないのが、ヒカルらしさでもある。

上半身を起こして、慌てて自分の服を脱ぎにかかる。軽いカットソー一枚のアキラは、その様子を薄笑いを浮かべて見上げていた。

・・・が、やがて。

ヒカルのネクタイの結び目に、まるで碁石を掴む時のように綺麗に伸ばした人差し指を挿し入れて、ぐいと引く。

ヒカルはその力に引かれて、あ・・・と声を上げて揺れた。少しだけかぶさる格好になったまま、アキラが解いていくのに任せる。



「どして?今日は気味ワリイくらい親切じゃん?」
「君からはチョコの匂いがしたよ。食べたのか?」
「へ?・・・ああ・・・チョコ・・・さっき腹減ったから一個だけ開けてつまんだ・・・って、お前、それ気にして?」
「ふ〜ん、あの紙袋がそう?棋院に来てたのはもっとじゃないのか?」
「棋院のヤツは送ってもらう。お前だってそうだろ?この袋の分はさっきの指導碁先でさ。」
「今年はいくつだろうね。去年はダブルスコアだったから。少しはいい勝負になってきたかな?」
「ダブル・・・・・・くっそ、そうだった!俺が50個くらいで、お前が・・・三桁超えて・・・。」
「まあ、そんなのはどうでもいいけど・・・大昔にタイムカプセルを埋めた時に、いつか塔矢のチョコの数を越えてやるって書いてたの、思い出したよ。」
「ああ、それそれっ!お正月にカプセル埋める予定がさ、伸び伸びになっちゃって結局バレンタインの後だったんだよな〜、それでお前のチョコの数見て、むちゃくちゃ頭にキて・・・。」
「君、いきなり手紙に書き加えるとか言い出して。まあ、他にもたいしたこと書いてなかったよね。君の十年後なんて、この程度の予想かっておかしかったよ。」
「だーって・・・18歳くらいで何が考えられるんだよ?俺たち碁漬けの毎日で・・・あの頃はお前ともどうにもなれなくて、かったるくてさ・・・。」
「塔矢の勝率を抜く・・・とか、本因坊を防衛し続けている・・・とか、マトモなこともあったけど、身長が180センチを超えて、ブラピみたいに格好よくなってモテまくって、バレンタインのチョコは塔矢の三倍くらいもらって・・・だったっけ?」
「お前〜、それは思いっきり脚色してるだろっ!?テキトーなこと言うな!」
「あははは・・・適当だってバレたか!でも大体はそんなことばっかりだったよ。」
「な〜、タイムカプセルって人に覚えられてて、意味があるのかよ?十年後に読み返してさ、おお、昔の俺ってば、こ〜んなにカワイイこと書いちゃって・・・とか恥ずかしさにモジモジしちゃうもんだろ?」
「モジモジなんかするもんか!君が。気持ち悪いぞ。」



そんな可愛らしい男か・・・と、すっかり裸になったヒカルを満足気に見上げて、囁いた。

そういや・・・お前は何を書いたか、徹底的に隠し通したな?何を書いたんだ・・・俺に読まれたらマズイことだろ?

いたずらっぽくウィンクすると、今度はアキラの胸に手を入れる。

アキラは両足を開いてヒカルの体を入れてあげると、背中を反らしてため息を漏らした。その白い喉が、そこに息づく筋肉が、ひくりとうごめいたのが目に入って。

ヒカルは一気に体中の血が沸き立つような感覚を覚える。口を開けて舌をひらめかせ、思い切りアキラの咽元に吸い付いた。

そうする間もヒカルの手は止まらない。アキラの下半身をくつろげ、抜け殻のように溜まっている二人分の服を蹴りやった。こういう一連の流れは、荒々しいほど、切羽詰っているほど、快感を強くする。



「塔矢・・・抱かせて。このまま、ここで。愛して、いい?めちゃくちゃ愛したい・・・。」
「ああぁ・・・か、ってに・・・しろ・・・っ・・・。」



悦びの声と同時に、体もそれを表現する。アキラの足が、たまりかねたようにヒカルに絡み付き、そのまま引き付けてきた―――逃がさないとでも言うかのように。

二人の腰が重なり合って、たっぷりした外国製のソファのクッションに沈む。グイグイと押し付けながら、硬くなりつつある欲望の徴を煽った。二人とも、紛れもなく若い男の健やかな体をしている。

みるみるうちに育ってしまったヒカルとアキラの欲望の塊が、芽を出すように弾けて割れ目を現したその先端から、ジワリ・・・と潤み始めていた・・・。



「ほら・・・言ってみろよ・・・何書いたんだ?俺のこと、愛してるって?将来、進藤も僕のことを好きになってくれますようにーっ・・・て?」
「んっ!馬鹿っ!」



開かれた服の中から覗く、アキラの男にしてはスベスベした胸をと、そこに色を添える場所を手のひらで撫でる。

かするだけの愛撫はさざ波のような快感を与え、アキラはもどかしさのあまりヒカルの二つの丸みに爪を立てた。ヒカルの弾力のある若い肌が、そこを揉みしだくアキラの指の形に姿を変える。

イタ・・・と小さく呻いたヒカルは、仕返しとばかりにアキラの胸の感じる部分を、爪先で引っ掻く。続けて今度は、両手の親指を使ってそこをなぶった。潰して。こねて。周りの薄い皮膚をぐるりとなぞって。

親指の方が、人差し指ほど繊細でなくとも自由が利く。親指の無骨な動きで感じさせながら、他の四本の指は胸の脇の方を撫でて、快感を更に大きくさせることが出来るのだ。それは、アキラがより好むやり方でもある。

ヒカルが手と口でアキラを確かめている最中、アキラも黙ってされているだけではない。アキラだって、男だ。されるだけでなく、したい。

自分が下になっている時は、かかとや足のつま先でヒカルの膝から下を器用になぞってくすぐって、刺激する。ヒカルよりもアキラの足の指の方が神経が行き届いているらしく、細やかな動きで膝裏の柔らかい部分やくるぶし周りを突付いた。

ヒカルの背中とお尻とをさすらっていた手も、やがて二人の腰の間に滑り込んでくる。これはヒカルの好きなやり方でもあり、受け入れる側であるアキラが優位に立つ瞬間でもあった。

ヒカルのものを、自分の腹と自分のものの間に挟むようにして擦り合わせる。指先では、ヒカルの先端から溢れるぬめるものを掬っては広げるようにして、皮膚が張り詰めた敏感な部分を愛した。



「んあ・・・今日は、挿れたい・・・お前ん中、いっぱい突いて、いっぱい出しまくりたい・・・。」

目をぎゅっと瞑って訴えるヒカルは、言葉のいやらしさとは裏腹に幼くて可愛い。

「このまま・・・っ・・・一回一緒にイっても・・・いいけど?・・・はぁ・・・どうする?」



・・・そんなに僕が欲しいか?僕の手や唇だけじゃなくて、僕の体、全部が欲しい?僕の全部で愛されたいのか?



耳元で。何度も言葉を変えて囁かれて。吐息を一緒に吹き込まれて。

ヒカルはガクガクとうなづく。前髪から汗がほとばしって、アキラの胸に、顔に、降りかかった。

その一粒が、偶然にもアキラの開かれた口の中に飛び込んできて、それを舌と唇で味わうように、アキラは自分の薄い唇のラインを舐めた。ほのかな塩気が、ピリ・・・と舌先に乗って、目をうっとりと細める。

その姿が扇情的で、ヒカルは傷付いた動物のように低く唸ると、放ちそうになるのをやっとのことで耐えた。アキラがとっさにそれまで握りこんでいた指を離してくれたのにも、助けられた。

こういう我慢するヒカルが、またアキラの好みだった。簡単にイかせてもいいけれど、最後には自分がヒカルに貫かれて感じてしまうことを隠せない今となっては、せめて受け入れるまではヒカルの快感を自分が支配したい。

時にはためらわずに、ヒカルのものを含んで口で感じさせることもする。でも、それは毎回じゃない。感度が鈍くなっている時や、自分がもっともっとこの男を悦ばせたいと興奮している時の為にとってある。

今日はもう十分に感じているらしい。ほとんど裸の肌を重ねてから時間が経っていないのに、ヒカルが頂点に達してしまいそうになるから、アキラも慌てて手を離してやったのだ。



「今日、つけなくていい?ちゃんと洗ってあげるから、もう挿れさせて。我慢出来ないっ!」



ソファから半分ずり落ちているアキラの右足を膝裏から支えて開かせると、背もたれの方にかかっていた左足は肩に担ぐ。中途半端に斜めに座る格好になったアキラを、全身で背もたれに押し付けるようにして、ヒカルは進入を試みた。

一気に突き入れる方がかえってアキラには楽かもしれないが、ヒカルは一度開けたワインのコルクを捩じ込む時のように、ゆっくりと馴染ませながら繋がっていくのが好きだ。

それは、欲望を搾り取られるような強烈だけれどもひとときの快楽よりも、長い時間をかけてジワジワと頭と心を侵食していく、愛情に裏打ちされた快楽だった。

最初の頃は、貫くことが征服欲にも似た男の本能を満たすようでもあったが、今では一つになってからしばらくは動かないで、ただ抱きしめ合って、その部分からジン・・・と甘い熱が広がっていく感覚を楽しむ。これは―――二人ともの好みだった。



「あ、あ、あ・・・奥まで、届いてる?足りなく、ない?俺、お前をいっぱいにしてる?」
「うん・・・感じるよ・・・全部飲み込んでる・・・隙間なんて、ない・・・あぁ・・・また、膨らんだ・・・。」
「だって凄い・・・お前の中・・・動けない・・・も、入ってるだけで・・・出る・・・出ちゃう・・・どうしよう・・・。」

いいよ、おいで・・・と。

さっきはソファの上から声で招かれたみたいに、今度はアキラが体でヒカルを呼んだのがわかる。入り口が絞まり、中がぐん・・・と熱さを増した。ヒカルの汗ばんだ双丘を、アキラの手が揉むようにして一層引き寄せたのが、決定的だった。



「はあぁっ!と、やっ!ん、ん、んー・・・―――っ・・・・・・・っ・・・・・・・。」



歯を食いしばってまで押し殺す、本能のままの声が。それでも自分が放つ瞬間はアキラにも感じて欲しいと、必死で手を伸ばしてアキラ自身を握り込む手つきが。

ヒカルの達する瞬間の全てが、切ないほどに愛しくて―――



熱い手に包まれたところから、自分も耐え切れずに堰を切らせた。リズミカルに飛び出して来るらしい液体が、ヒカルの手と自分たちの腹を濡らしていくのを、皮膚感覚で知る。

アキラはとても自分の射精の様子など直視出来ないが、ヒカルの方はゆとりがある時は、アキラのその瞬間をじっと見ている。無理な体勢でも、首をひねって見ている・・・。

ヒカルは、好きなのだった。

男であるアキラが、自分を受け入れたまま達してしまうなんて、壮絶に色っぽくて感動的だから・・・。そんな瞬間を見られるなんて、どうしたらいい?ってくらいに幸せだから・・・。



ふう〜と息を吐き出しながら、アキラの痙攣するそこを見ていたヒカルも、やがて脱力してアキラに抱きつく。

アキラも心と体の両方を弛緩させて、荒れる息のまま言った。夢を見ているように・・・どこか遠い目で・・・。



「君が欲しいって、書いたよ。タイムカプセルに入れた手紙に。進藤ヒカルが僕だけを見るように・・・僕だけに肌を見せて、触らせて・・・僕だけにキスをさせて・・・されて・・・僕のものになっていますように・・・未来の進藤ヒカルが、全部僕のものに・・・って。」
「ええっ!?本当に?本当にそんなこと、書いたの?あの手紙に・・・。」
「そう・・・十年後の進藤ヒカルが勃つのは僕にだけ・・・挿れたいって思うのも、僕にだけ・・・僕以外とは寝られないようになっていますよう・・・。」
「ひゃ〜、マ、マジですかっ!?そんな際どい・・・っつかエロエロをお前が、18歳のお前が・・・。」
「・・・書く訳ないだろうっ!・・・信じるか?普通!はっはっは・・・。」



ちぇ〜、なーんだぁ・・・やっぱそうだよな・・・塔矢アキラがそんなどっかのエロ小説みたいなダイレクトなこと、書かないよなぁ・・・あったりまえかー・・・・・・



ヒカルのぼやき声は大きくて、まだ繋がっているアキラの芯奥に響いた。抗議しようとしたがただの喘ぎ声になってしまって、そういうのはコトがすんだ後は少しばかり恥ずかしい。

その色っぽい喘ぎ声と、それから同時に体を堅くしたアキラによって、ヒカルはまた刺激を受けて下半身が充血するのを感じる。

このまんまだとすぐにもう一回とか言い出だしてしまいそうで、ヒカルは気を散らそうと話に戻った。



「なあ、あのカプセル・・・十年なんて待たなくていいじゃん?だって俺たち、こうしてるんだし、もういいだろう?時効ってヤツ?・・・明日・・・一緒に掘り出しに行こうぜ。」
「もう?だって、まだ何年あると思ってる・・・。」
「思い出した時が、掘り出し時期って言わねえ?・・・だって二人きりのカプセルなんだもん。誰にも遠慮はいらねえ。俺、もうお前の手紙を想像したら我慢出来なくなったっ!」



・・・じゃあ、あの海に行こうか・・・何年ぶりだろうな・・・君と初めての遠出だった・・・・・



懐かしそうに喋るアキラの黒目が、キラキラと光っているように見える。ヒカルはゆっくりとアキラの中から出て行くと、身を震わせたアキラを再び抱きしめて、言った。



・・・俺も本当は書きたくて、たまらなかった・・・塔矢が俺のことをずっと好きでいてくれますように・・・十年後も一緒にいられますように・・・・・



あの頃は、二人ともが最も苦しい辛抱の時期だった。一番傍にいるのに、手を出してはいけない、まだ早過ぎて駄目だという気持ちと、いっそ触れてしまおう、進んでしまおうという気持ちとが、天秤秤のように左右で揺れていた。

互いの好意は感じていても、それをどういう種類のものへと育てていっていいものか―――迷いの中にいた。



そんな時に、たぎる想いを抑えて書いた手紙と、それからそれを埋めに出掛けた、二人きりの冬の海―――。

遠い日の記憶が二人を襲って、それが切なさと歓喜とない交ぜの空気を作り出した。不意に涙が滲みそうになって鼻を鳴らしたのは、ヒカルの方だった。

達した後のだるさもあってか、体の芯と心の奥が一緒の場所に存在しているようで、そこが熱に疼いている。それは両方が感じていることだった。



ヒカルに密かに好意を寄せる女の子からの本命チョコが混じっているかもしれない紙袋を、横目で見ながら。・・・アキラはそっとヒカルにキスをした。ヒカルも食むように唇を動かして、アキラからのキスを静かに受け止める。



明日、あの場所へ、昔の僕たちに逢いに行こうと―――それは約束の優しいキスだった。







これは多分、センチメンタルというSSの続編だと思うんだけど・・・


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