□「宝町」の「ライブ感」
アニメ「鉄コン筋クリート」の冒頭、舞台となる「宝町」が圧倒的な「ラ
イブ感」をもって画面に出現。初っ端からやられてしまいました。
「スチームボーイ」で19世紀のロンドンを見事に再現した美術監督の木村
真二、やはりただものでありません。原作のコミックではシンプルなそれ
でいて満ち足りた線で描かれているこの町の雑駁で猥雑で、そして懐かし
い風景をスクリーン上に造りだしてくれました。
街を彩るドギツイ広告の数々、主人公のシロとクロがネグラにしている古
びたスバル、そこに暮らす人々の息遣い...「至芸」としかいいようが
ありません。
□「声優」蒼井優の「天才」
「宝町」に負けず劣らず個性的なキャラクターは原作よりかなりカワイイ
感じに造形されています。「初めて、マンガを読んで泣きました」という
くらい原作に思い入れをもっていた嵐の二宮和成。声優初挑戦でクロを
熱演。脇を固める伊勢谷友介、宮藤官九郎、本木雅弘たちもいい感じ。
ヤクザの「ネズミ」を演じる田中泯、実に渋いです。
しかし何よりもブッ飛んだのがやはり声優初挑戦の蒼井優。まさにシロ、
どこを切ってもシロ。「安心、安心」という彼女の声は、天真爛漫で「ネ
ジが何本も外れている」シロそのものでした。「天才」の一言。蒼井優の
シロを「聞く」だけでこの映画をみる価値が十分あります。
□シロート監督の「情熱」
残念だったのが物語りの終盤、自らのもつ暴力性に押しつぶされたそうに
なるクロの心理描写がクド過ぎること。がんばっているのはよくわかりま
すが、中盤までの「ライブ感」が消えてしまってます。もっとも原作のコ
ミックでも終盤の描写はいただけませんが...
それにしても驚かされるのは、アニメ経験ゼロで絵コンテも描けない一人
CG作家、マイケル・アリアスが原作と出会ってから、10年以上もその感動
を持ち続け、これほどのアニメを完成させてしまったこと。「アジアのカ
オス的な風景が大好き」というアリアスの愛情と情熱が映画の隅々までに
溢れている、映画館を後にしてもそう感じてなんだか嬉しくなってしまい
ました。「人生、思い続ければ通じる」そんな気分になりました。
※「おとゲー」2007/1/26号掲載

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