■登場人物
・少年 主人公、高校2年、都会から稲葉市に転校してくる
・堂島遼太郎 主人公の叔父。稲羽市警の刑事
・堂島菜々子 堂島遼太郎の娘、小学1年生。
・花村陽介 主人公の同級生。「ジュネス八十稲羽店」店長の息子
・里中千枝 主人公の同級生。元気いっぱいの女の子。
・天城雪子 主人公の同級生で千枝の親友。老舗高級旅館の一人娘
■「八十稲羽駅」で
日本海へ向かう列車は山間に差し掛かっていた。「次は、八十稲羽、やそ
いなばぁ〜」。ボンヤリと車窓の景色をみていた少年は網棚から手荷物を
おろした。海外に両親が赴任するので、八十稲羽に住む叔父の堂島の世話
になるのだ。
鄙びた駅だ。改札を出ると精悍な顔つきの男性と小さな女の子が待ってい
た。堂島と娘の菜々子が少年に手をふった。
そのとき、すれちがったショートヘアーの女の子が声をかけてきた。
「ねえ。落ちたよこれ。」堂島の家の連絡先を書いたメモだった。無愛想
な、でも可愛いその声が妙に印象に残った。
■八十神高校2年2組
堂島の家は古い木造の2階建てだった。堂島は稲葉市警の刑事。奥さんを
交通事故で亡くし小学1年生の菜々子と二人ぐらし。「これからはしばら
く家族どうし。自分ちと思って気楽にやってくれ。」
あくる日、テクテクと長い道を歩いて小高い丘の上にある八十神高校に向
かった。木造3階建ての小さな古びた高校だった。八十神高校2年2組、こ
れから1年通うことなる。うまくなじめるかな?
「よう、都会からきたんだって」。茶髪でロン毛のちょっと軽そうな男子
だった。「花村陽介だ、おれも去年転校してきたんだ。よろしく。」
放課後「よかったらいっしょに帰んない?」となりの席の里中千枝が声を
かけてくれた。彼女の友達、長い黒髪の美少女・天城雪子もいっしょだ。
こいつは幸先いいぜ、思わず心の中でニンマリする少年だった。
■「天城旅館」の「若女将」
週末、花村に八十稲羽を案内してもらった。昔懐かしい商店街には雑貨屋、
本屋、惣菜店に豆腐屋...「田舎だろ、なんもないよなぁ」花村がぼや
いた。花村の父親は郊外にある大型スーパー「ジュネス」の店長で
「しょっちゅう手伝わされてるよ。」花村は苦笑しながら話してくれた。
帰り道、町の中央を流れる鮫川の河川敷で雨に降られた。ふとみるとあず
まやで和服の女性が雨宿りをしている。「あっ。」同じクラスの天城雪子
だった。彼女は「天城屋」という老舗の旅館の一人娘で「若女将」と呼ば
れているらしい。
「この町とか、学校にはもう慣れた?」薄いピンクの和服がよく似合って
いる。「私はこの町から出たことないから、転校ってどんな気分かわから
ないけど...」
「また学校でね。」雪子を後ろ姿を見送りながら余韻に浸る少年だった。
■「ベルベットルーム」のマリー」
その晩、妙な夢をみた。ぼんやりした青い光の部屋だった。「ベルベット
ルームにようこそ」、イゴールと名乗る鼻が異常に長い男が、少年には特
別な力があるとしきりに話していた。
イゴールの右に座っていた金髪のクールな美女が「私はマーガレットを申
します。そしてこちらが...」
「マリー。よろしく。」少年が八十稲羽駅で出会った無愛想な女の子だっ
た。青いキャップがよく似合っている。
「この部屋、退屈。」マリーはイゴールたちにきかれたくないのか小さな
声で少年にささやいた。「外の世界のこと何もしらないから案内してよ。」
美少女には優しい少年は思わず大きくうなづくのだった。
(八十神高校のハイスクールライフは続く)
※「おとゲー」2012/9/2号掲載

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