□「宮崎駿」の「風立ちぬ」
ジブリの宮崎駿監督の最新作「風立ちぬ」。実在の人物、「ゼロ戦の設計
者」として高名な堀越二郎をモデルに、その半生を描いた作品。主人公の
堀越二郎に声優でも俳優でもない「エヴァンゲリオン」の庵野秀明監督を
起用したり、宮崎監督が「自分の作品をみて初めて泣いた」とコメントし
たりとか公開前にすでに大きな話題になっていました。
これまでのジブリ作品とは一線を画す、およそ子供向きでないタイトルに
もかかわらず「風たちぬ」は、話題が話題を呼び公開直後から大ヒット。
すでに450万人を動員、興行収入は50億円を突破(8/13現在)。この勢い
なら興収100億円もかたいでしょう。
とはいえ、作品の評価は分かれているようで、絶賛する意見がある一方で
最低の評価も多く、Yahoo!の平均評価3.4(5点満点、8/18現在)と「並」
のレベルになっています。
□「震災」の「鳴動」
低評価の多くは庵野秀明氏の起用への批判。。たしかに他のキャラを演じ
る俳優陣が素晴らしいできなので庵野秀明氏の主人公は棒読みで感情の起
伏も感じられない。そのとおりだと思います。
それ以外にも夢のエピソードが冗長だったり、ヒロインとの出会いが都合
よすぎたり目につくところはありました。しかし、そんな些事の批判は
チャンチャラおかしい。
関東大震災の大地の動き、生きて鳴動しているかのような表現を宮崎駿以
外の誰ができる?空を飛ぶ飛行機の美しさを誰がここまで表現できる?
CGが発達し、リアルな絵、精緻な表現は珍しくなくなりました。それに比
べてジブリの宮崎駿の絵は一時代前のもののようです。でもその「絵」の
「演技力」は段違い。「演技をつけている」監督の力に天と地の差がある。
□「美しい夢」の「お裾分け」
作中、堀越次郎の夢の中にイタリアの高名な設計家、カペローニが何度も
登場します。曰く「飛行機は美しい夢」「創造的人生の持ち時間は10年」
その思想に共鳴し「美しい夢」を追う次郎のひたむきな生き様に胸をうた
れずにはおれません。
そしてこの物語に彩を与えているのが次郎の妻になった菜穂子との出会い。
当時不治の病だった結核をわずらいながらも「美しい夢」を追う次郎を愛
し支える彼女の姿に目がしらが熱くなりました。宮崎監督の「演技指導」
はここでもすばらしく、ことに寝起きの彼女が目を覚ますシーンはすごい
の一言。
「美しい夢」を追う次郎の姿が私には宮崎監督の姿に重なってみえました。
飛行機の設計でもアニメの制作でも、「美しい夢」を追求しそれをな万人
を揺さぶる水準の「形」にできるのは一握りの天才のみですから。
ただ私のような凡人でもその「お裾分け」にあずかることはできる。
「風立ちぬ」をみて宮崎駿と同時代に生きる幸せを味わえる。
特に年齢と経験を重ねた年代の方にお勧めしたい。傑作です。
※「おとゲー」2013/8/18号掲載

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