□映画「岸辺の旅」の「終婚旅行」
三年前に失踪した夫が唐突に妻の元に戻ってきた。そして「俺、
死んだよ。」と告げる。見た目もその肉体も生前となんの変わり
もない夫。「いっしょに来ないか」という亡き夫との最後の
旅行、「岸辺の旅」が始まった。。。
カンヌ映画祭で絶賛を博した黒沢清監督の映画「岸辺の旅」。
深津絵里と浅野忠信の二人が織りなす「新婚旅行」ならぬ
「終婚旅行」。「旅」の途中で出会う人々とのからみがすば
らしく、特に新聞配達の店主(小松政夫)と夫と関係のあった
女(蒼井優)の姿が印象に残ります。
「岸辺の旅」は「ラブストーリー」だとか「夫婦愛」だとかそん
な安直な言葉で語れない深くて、重い余韻を残してくれました。
。
□「毎日」が「岸辺の旅」
それでも夫婦を演じる深津絵里と浅野忠信の二人が四十台前半
なのが救いですね。夫は成仏し、妻は新しい人生を生きること
ができるように思えます。
彼らより一回り以上年上で、とっくに人生の折り返し地点を過
ぎた私の場合はそうはいきません。まだまだ働き盛りで子供も
小さい四十台と定年が迫り、子供も社会人になった五十台後半
とでは「人生の見え方」に大差があります。
若いころは遥か彼方だった「彼岸」は眼に見える距離になり
言ってみれば毎日が「岸辺の旅」。カミサンとの小旅行も
下手をすれば「終婚旅行」になりかねませんから。
でも、だからこそ、自分の家族を、何気ない日常を、慈しみ、
味わいたいと思います。「終着点」がいつになるのかわからい
けどそれまで日々の「岸辺の旅」を楽しみたいと思います。
※「おとゲー」2015/10/4号掲載

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