□映画「海よりもまだ深く 」の「忸怩」
「海街diary」の是枝裕和監督が阿部寛の主演で送る現代の
「ホームドラマ」、 映画「海よりもまだ深く」。
阿部演じる主人公の良太。15年前に文学賞をとるも、その後
パッとせず今は興信所の探偵稼業。妻には愛想をつかされ離婚
され、一人息子の養育費すら払えない。。。
なんとも情けない良太を演じる阿部寛の「ダメさ」の積み上げ
ぶりが素晴らしい。でも良太に限らず齢を重ねた多くの男性は
内心の「忸怩」を抱えているでしょう。あーした方がよかった、
こうしていれば、こんなはずじゃ。。。私なんぞ「「忸怩」
の塊ですね。
それに比べると女性は強い。常に今を生き、前を向いている
感じがします。良太の元妻(真木洋子)もさっさと次の彼氏を
みつけて新たな「人生設計」まっしぐら。
□「清瀬団地」の40年
良太の母親(樹木希林)が40年前から住んでいるのが西武線沿線
の清瀬旭が丘団地。是枝監督自身がかって住んでいた思い出の
場所ということで団地とそこに住む人々もたんねんに描写されて
います。
映画を見ながら私が通っていた東京都町田市の小学校に面した
団地と給水塔を思い出していました。当時よく遊びにいった友人
の家は3K間取りで、台所もお風呂もこんな感じだったような。
高度成長期の一つのシンボルだったこうした大団地もそこに住む
人々も今は老いて「こんなはずではなかった」と思っているの
でしょうか?
□「テレサ・テン」の「海よりもまだ深く 」
海よりもまだ深く 空よりもまだ青く
あなたをこれ以上 愛するなんて
わたしには できない
1980年代に大ヒットを連発した台湾からの歌姫「テレサ・テン」
若くして亡くなった彼女の歌唱は今も心に残っています。
映画「海よりもまだ深く 」のタイトルは彼女の名曲「別れの
予感」の一節からとったそうです。
映画の中で樹木希林が「これまで海よりもまだ深く誰かを愛した
ことなんてない。」と良太に話すくだりがありますが、私は
そうは思わない。長年連れ添った夫、娘、そしてろくでもない
息子。自分のことを後回しにして、彼女が注いできた愛情は
「海より深く 空より青」かったと思います。
すべての息子、娘、そして夫婦、元夫婦に見てほしい映画です。
※「おとゲー」2016/5/22号掲載

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