□ 「私立探偵」沢崎の「登場」
西新宿の片隅に「渡辺探偵事務所」を構える私立探偵、沢崎。
作家、原りょうが1988年に産み出したこのキャラクターは、この
30年で最もクールでタフ。何者にもどんな圧力、妨害にも屈する
ことなく真相を暴いていく。。。
原りょうの一連のクライムノベル「沢崎シリーズ」の筆致は実に
リアルかつその形容詞のバリエーションがすさまじい。針の穴の
ようなわづかな手がかりにくいつき、犯人を追い詰めていく過程
のストーリーテリングの妙技に何度となく酔いしれたものでした。
残念ながらこのシリーズは映像化されたことがないのですが、
作品の描写は極めて映像的。今でも一つ一つの場面が目に浮かび
ますね。
□ 「それまでの明日」の「帰還」
ところが作者の原氏は「超」がつく遅筆。長編第二作「私が殺
した少女」から第三作刊行までに6年、2004年出版の第四作まで
なんと9年。そしてそこから長い長い時間が。。。
オールドファンから「生きているうちに次回作を出してくれ」と
せがまれた原氏、そのせいか?ようやく今年になって最新作刊行
のニュースが。その時にはまだ私は半信半疑でした。(きっと他
のファンも同じだったでしょう)。
私はクリスマス前の子供のようにカレンダーに印をつけその時を
待ちました。そして書店で「それまでの明日」を手にとって沢崎
の「帰還」の喜びをかみしめたのでした。
□ 懐かしの「レギュラーメンバー
なにせあまりに長く待たされたので、一気読みなんてもったい
なくてできません。1ページ、1ページ味わいながら読ませてもら
いました。
デビュー当時の設定だと沢崎はもう70歳を過ぎているはずですが
本作ではまだ50代始め。愛車のブルーバードは手放したようだけ
ど相変わらず携帯電話をもたず、両切りのタバコの愛煙家。
とはいえ、作者も私たちも14年ぶん年をとり、かっての切れ味が
薄れた感は否めません。待たされて期待値が上がり過ぎたせいか、
作品に寄せられたコメントも辛口のものが目立ちました。
でもそんなことはどうでもいい。また沢崎の世界を味わえ満足です。
特に新宿署の錦織(相変わらず警部)や「清和会」の幹部、橋爪た
ち、懐かしい「レギュラーメンバー」との絡みがサイコウに楽しい。
「バケモノ」と呼ばれる巨漢の組員、相良が母親の介護のためにそ
の生き方を変えているのも感慨深いものでした。
次回作はできれば5年後ぐらいにお願いしたいですね。ムリかな?
※「おとゲー」2018/3/12号掲載

1