□小説「ソロモンの偽証」の「長編力」
クリスマスの雪の朝に遺体で発見された同級生。そして犯人を
名指しする告発状が。あくまで自殺だとする警察、混乱する校内。
「14歳」の中学生たちの選択は自らの「校内裁判」で真実を解明
することだった。。。
成島出監督の二部作の映画が大きな話題となった宮部みゆきの
「ソロモンの偽証」。成島監督の「映画術」がすばらしかった
ので原作の文庫本を買ったもののなにせ一巻あたり500ページを
超える分厚い文庫本全6巻の大長編。ゴールデンウィークを利用
してようやく読み終えることができました。
映画を先に見ていたので正直読み始めたころは展開の遅さに
ちょっと嫌気がさしたことも。でも読み進めるにつれて執拗
とも思える描写にグイグイひきこまれ、気づけば「ソロモン」
の世界にどっぷりはまっていました。一人一人のキャラクター
が一つ一つのエピソードが互いに呼応して圧倒的な魅力を
醸し出す。宮部みゆきの「長編力」、今更ながら絶品ですね。
□「14歳」と「教師たち」
映画ではヒロインの藤野涼子と「弁護人」の神原和彦にスポット
があたっていましたが、原作では尺の関係から映画では割愛され
たキャラクターたちへもきっちり目配りがなされています。
「14歳」と彼らを取り巻く「教師たち」の関係も見どころの一つ。
生徒を支持する北尾。枠にはめ抑え込もうとする楠山。お気に入
りでない生徒を切り捨てる森内。。。中でも教師としての自信が
まったくない美術教師の丹野と亡くなった柏木卓也とのエピ
ソードが印象に残ります。
□中学時代へ「タイムトリップ」
「ソロモン」を読みながらこんな記憶が蘇ってきました。
はるか昔、兵庫県西宮市での私の中学時代。今でも忘れれない
のが美術の授業のこと。生徒一人一人に版画で使うローラーが
配られ「愛着をもってデッサン」という課題が与えられました。
小生意気な中学生だった私が「ローラーには愛着がわかない」
と言うと、美術の先生は「では、愛着のあるものを選んで描け」
といってくれ、一人私だけが自分の靴をデッサンしたのでした。
今、思い返してみると教師から叱声を受けても、周囲から浮い
ていじめられてもおかしくない状況でした。でもそのどちらも
起らず(ちょっと変わったやつと思われたと思うけど)、
その後も楽しい中学生活をすごすことができました。
「ソロモンの偽証」を読みながらそんなタイムトリップを
楽しむのも一興かもしれません。
※「おとゲー」2015/5/10号掲載

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