僕が行く居酒屋の中で、もっとも年老いた
おばあちゃんが一人で切り盛りしている
居酒屋がある。
この数年間、このおばあちゃんに少し変化が
でてきたため、心配もあって気になっている。
以前ほど行かなくなったが、それでも近くに
行った時は、できるだけ行くようにしている。
先日も少し時間に余裕があったから寄ってみた。
会社帰りのサラリーマンらしき先客が3人いた。
僕は「取りあえず、ビール下さい」って言うと
「キリンだったよね?」と言いながら持ってきて
、栓も抜かないまま僕に注ごうとする。
おばちゃんに「まだ栓を抜いてないよ!」って
言うと、ニッコリ笑って栓を抜いていたが、
「おばちゃん、それよりコップがまだ出てないよ」
って言うと、また少女のような笑顔になって
「ごめんね!」と言いながらコップを持ってきた。
ところが、おばあちゃんは、そのままカウンターの
中に置いてある椅子に座ってしまった。
そして自分の前に置いてあるビールを自分のコップに
注いでいる。 それって僕が注文したビールのはずで
ある。「おばちゃん、ビールは?」って言うと自分の
前に置いてあるビールを、じっーと見て、笑いながら
「ごめんね、アンタのビールだったね!」と言い
僕のコップにビールを注いでくれた。
僕は、大丈夫なんだろうか? と心配になった。
今までも考えられないことが数多くあったから、少し
ボケてきてると思われる。
僕はビールを一気に飲み干し、注ごうとしたが僕の
ビールはカウンターの中にいる、おばあちゃんの前に
置いてあるではないか! おばちゃんに「ビール!」
って言うと、また冷蔵庫から新しいビールを出そうと
している。「おばちゃん、僕のビールはそこに置いて
ありますよ!」と言うと、また少女のような笑顔で
「ごめんね!」って言いながらも新しいビールを
もって来た。・・・何でやねん!そう思いながら
二本目のビールを飲んでいると、おばちゃんは
まだ半分は残ってる最初のビール瓶を手に持って
「このビールはどうする?」なんて僕に聞く。
一体、何を考えてるんだ! ちょっと腹がたった。
「好きにしてください!」って言ったら、おばちゃんは
そのビールを持って、他の客に注いで回っていた。
呆れてきたが、もう80も過ぎたおばちゃんだから
仕方ないな・・そう思いながら、その様子を見ていた。
すると僕を見て「何か食べる?」と聞くから「刺身でも
切ってください」と言うと、刺身をまな板にのせて切り
始めた。 その時、他の客が熱燗を頼んだ。
おばちゃんは刺身を切るのをやめて、酒をレンジで温め
ていた。 その間に刺身を出してくれればいいのに
おばちゃんはレンジの前でじっーと待っている。
熱燗を客に出して、さぁ刺身を切ってくれると思いきや
おばちゃんは椅子に座ってしまった。
どうも中断すると、それまでやってたことを忘れるようだ。
僕は3本目のビールを頼んで、トイレに行き戻って来ると
おばちゃんは、そのビールを他の客に注いで回っている。
残り僅かになったビールを僕に注ぎながら「もう1本
飲む?」と言う。 呆れて声も出ない・・・ふとまな板を
見ると、まだ一切れしか切れてない刺身がのっていた。
「もう時間がないから、帰ります」 そう言うと・・・
もう計算はしてあったかのように、素早く代金を言われた。
それにはビール3本と刺身代も含まれていた!
おばあちゃんを相手に怒るわけにもいかず、僕は苦笑する
しかなかった。
それでも、懲りずにまた行ってしまうんだろうな〜。

0