先月末。
今年で3回目となるムッシュかまやつさんとの共演、ザ・トランプ。
今回もサウンドチェックで合わせるのみ。このやり方は正直、不安はあるけれど、これもまた、ロックンロールのひとつのやり方である。ムッシュも歌っておられるではないか「なんとかなるさ」と。
我々が早目に会場入りして音を出していると、扉が開いてムッシュがギターを背負って飄々と入ってくる。下駄を鳴らして…はいない。お洒落なビビッドカラーのバスケットシューズを履いてらっしゃる。材質はエナメルで片方ずつ色が違っている。あまりに素敵なシューズだったから「靴、格好良いですね」と言ったら昔からTVで観てきた、あのニヒルな笑顔で「気取って見ました」と一言。ムッシュの世界に一気に引き摺り込まれた。
自分の父親と同い年の方がきゃりーぱみゅぱみゅも真っ青のバッシュ履いて、ギター背負ってやって来るんですよ。日本のロックのゴッドファーザーが。キーポン・ロッキン(ちなみにこの言葉はムッシュの口癖である)とはこの事だ。なにしろ50年も前にビートルズやキンクスのスタイルをトーキョーに持ち込んだ張本人がオレの隣でロックンロールする為にやって来たのである。眩暈がする。…今夜のショーを成功させないといけないから眩暈は後の楽しみにするとして、リハーサルをやる。
スパイダースの超・超名曲「ノーノーボーイ」は共演者の小島麻由美さんにも参加していただく事になっているので一緒に音を合わせた。小島さんがセシルカットブルースを引っ提げて登場した時、ザ・ヘヤ、渚ようこさん達とはまたちがったアプローチの昭和テイストが斬新で、繰り返しCDを聴いた思い出があり、今回こうやって一緒のステージに立てる事が嬉しい。ノーノーボーイは前回までとは違い、原曲に近いアレンジにしたのでムッシュに今回のは(前回のアレンジのベースとなった)ポリスみたいなバージョンじゃありませんよ、と言ったらワッハッハ、と笑っておられた。キーや構成を確認しながらリハーサルをして、いざ本番。
小島さんのバンドではムッシュを交えて「ソー・ロング・サチオ」をやっていた。ゴロワーズと並んで、ムッシュのロマンチシズムが爆発している名曲である。メンバーはハチマさん、塚本さん、カジヒデキさん。錚々たるメンツ。贅沢過ぎる。日本のロックの歴史を彩ってきた方々がルーツであるムッシュに最大級の敬意を払っている姿は感動的であった。
自分の出番を控えていたからゆっくり観られず残念だったけれど。
さて、我々の出番。
最初はストーンズのナンバーを我らがサキちゃんが歌う。サキちゃんの向こうではムッシュがコードを刻んでいる。曲はウォーキンザドッグ。夢でも見ているようである。数曲が終わり、MCでムッシュがオレの髪型、服装をさして「ブライアンジョーンズが」と仰ったので「いや、この服装はスパイダースの1stアルバムを意識して…」と返したら「じゃあ井上尭之だ」と。ジョークであるけれど身に余りすぎて死ンデシマイソウダ。途中、ムッシュの弦が切れるハプニングがあり、張り替えの間、トークショーと化す。スパイダースは、自らの名を冠したバラエティショーをTVでやっていたり、傑作映画を何本も残していたりするグループで、演奏をすりゃ格好良いけれど喋ればコメディアンを凌ぐような面白さであったというが、噂の通り会場を爆笑の渦に巻き込んでいた。トラブルに端を発したとはいえ、観ていたお客さんは得した気分だっただろうし、ステージにいたオレも同じ気分だった。自動車免許の高齢者教習の話。オチがバッチリ決まって、残りの曲をやる。
ムッシュも我々も今年で3回目のステージということで以前よりリラックスしてよりロックバンドらしい雰囲気を出せたんじゃないか、と個人的には思っている。いきなりソロが回ってくる緊張感は相変わらずだが、チャック・ベリーのステージだってそういうものだ。どうにかなるさ、である。ノーノーボーイと恋のドクターで小島さんを迎えての演奏。小島さんの心からムッシュをリスペクトしている様子が滲み出るような雰囲気が素晴らしかった。そういえば後で、楽屋でムッシュの1stにサインを貰っていた。言葉にならない、という様子で、素晴らしいシンガーにこんな言い方は失礼かもしれないけれど、少女のような感じだった。日本のポップスの歴史を感じる一コマであった。アンコールはバンバンバン。出演者全員がステージに上がった。カジさんもハチマさんもみんな踊っていた。
全曲終わり、みんなクタクタになった。ムッシュが現在こんなに歌いまくり弾きまくるステージはなかなかレアなのではないか、と思う。いつもは飄々と余裕を湛えた雰囲気のムッシュの秘めたロック魂をビシビシ感じたような気がした。米軍のトラックに乗っかってカントリーウェスタンや日本に芽生えたばかりのロックンロールを追い求め、いつの時代も常にロックであり続けた偉大なゴッドファーザーの歴史の中では我々との共演は服についたシミ程度でしかないかもしれないけれど、俺にとっては背中にドーンと刺青を入れたようなものかもしれない。変な例えだな。まぁいいか。幸せ者です、本当に。おわり!


0