さて。冬が終わって、春が来た、と思った途端に風邪をひいて熱に魘された。オレは、風邪に対する抵抗が強くない方なので、新インフル騒動以降は、ちゃんと気を付けていて、手洗いうがいを欠かさない。考えられる原因としては、アレ…アレしか無い!…その昔、エジプトのピラミッドの中に眠っている金銀財宝に目が眩み、盗掘をした者が、原因不明の熱病に罹って、命を落としたという。黄金の王、ファラオの呪いである…。この前の日曜日、渋谷のとある地下室にて、黄金に目の眩んだオレは、ついに禁断の扉に手をかけてしまったのだ。目映いばかりの金色の衣装に身を包んだ妖精達が、何やら中近東風のメロディを奏でたり、意味不明の口上を喚き散らしたり、中世の基督教会がそうしたように下々の民に免罪符のようなカードを脅して売り付けたり、一転、クレオパトラのようにローマの方角にウィンクを送ったり。その場にいた者は、最初はせせら笑う者などもいたが、だんだんと顔面はターンオブペイル、つまり蒼白になり、両手を垂直に肩の高さまで挙げると、よろよろと、まるでミイラのように踊り始めた…オレの記憶はここまでで、気付いたら床に入り、熱に魘されていた、という始末。医者もしきりに首を捻って、こんな症状は初めてです、なんて抜かしやがる、否、仰った。結局、当日の記憶が段々と戻るにつれ、原因不明の熱はひいていき、オレの命は助かった。とんだ災難…の筈なんだが、あんまりそうは思えないのはなんでだろう。彼女達の奏でる旋律や麗しい歌声に合わせて、またミイラのように踊りたがっている自分がはっきりと自覚される。命さえ落としかねない、というのに。この駄文を戯れ言と思いニヤついて読んでいるあなたも、妖精達の発する眩い黄金の光と妖しい旋律が聴こえて来たら、せいぜい気を付けるがいい。きっと、そこから逃げる事は不可能だけれども。おわり。


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