パリ郊外で開催中の「ジャパンエキスポ」に4日間で13万人の若者が集まったと言う。展示の中心は仏語版の漫画で、その周辺に着物、和風アクセサリー、こけし、日本刀、折り紙、お香、書道などのブースが軒を並べ、丸で秋葉原と原宿と浅草がごっちゃになった感じだと言う。来場者も日本のキャラクターを模したコスプレを着ている人が大半だと言うから正に浮世絵以来の日本ブームである。
日本の漫画やアニメやテレビゲームやカラオケ等のポップカルチャーがヨーロッパで流行している事は知っていた。然し文化大国フランスに日本の若者文化が此処まで浸透しているとは驚きである。何だか嬉しいような悲しいような複雑な心境である。オタクは今や世界共通の言語に成り、自分もオタクだと胸を張って答える外国の青少年が増えたと言う。
嘗てゴッホやセザンヌ等のフランス画壇に影響を与えた歌麿、広重の浮世絵や、演劇舞台に
影響を与えた能や歌舞伎のブームは異国情緒に刺激された一時的なものであったが、今回のジャパンポップカルチャーは若者が対象だけに長続きしそうである。ユーロが円に対して大幅に高くなった事で、ヨーロッパから買い物に来る観光客が急増している。浅草や原宿や秋葉原でお土産に大量の小物やソフトを買うのでフランスでも有名に成ったらしい。
私が若い頃はベルレーヌ、ボードレール、ランボー等のフランス象徴詩やユゴー、カミュー等の文学、サルトル、サントブーブの哲学、セザンヌ、コロー、ミレー等の印象派絵画、ビゼー、ベルリオーズ、ドビュッシーの音楽に憧れたものだが、フランスの現代の若者には前世紀の遺物なのかもしれない。日本の若者が中原中也や夏目漱石や小林秀雄や佐伯祐三や武満徹を知らないのと同じだろう。
何処の国も同じで若者は古い事や難しい事に価値を認めなくなった様である。価値判断の基準が損得と快不快が中心だから兎に角自分が得をして今が楽しければ良いと言うものである。損得と快不快を判断するのは爬虫類脳と言われる脳幹であり、人間脳の大脳皮質を使っていない証拠である。余り深く考えず、今日一日が楽しければそれでよいと言う若者が飛びつくのは漫画やゲームやアニメである。これは独り遊びだから当然オタクになる。
私は日本のポップカルチャーの世界的流行に戸惑うのは上記の分析に依る。IT革命は文化の退廃を齎した。情報革命とは有害情報の氾濫であって其の陰に有益情報が埋没した。昔のアナログ時代の活字文化が懐かしい。便利さは全て退廃に繋がる。悪貨は良貨を駆逐すると言うグレシャムの法則は真理である。

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