総務省に設置された社保庁監視委員会が初会合を開いた。厚生労働省と社会保険庁が同居する庁舎の一角に事務所が置かれたのだから、いわば進駐軍の司令部みたいなものである。体面を大事にする官僚にとってはこの上ない屈辱だろう。
従来霞ヶ関の住人はお互いを庇いあう体質があり、たとえ不祥事の続出で監視委員会の設営が閣議で決定されたとしても武士の情けで本庁にまで乗り込む事はしなかった。
この決定は恐らく菅総務大臣が安倍総理と結託して決め、柳沢厚労相に因果を含めて呑ませたものだろう。菅大臣はNHKに干渉して視聴料を強引に引き下げさせたことからも判るが、相当に気が強い御仁である。NHKは総務省の管轄下にあるし、不祥事が相次いだ以上改革を迫るのは当然であるが、行過ぎた干渉は時として憲法に保障する言論の自由を冒すことになる。公共放送に政府があれこれ干渉するのは極力避けるべきであるが、反面橋本氏が総裁に就任してからのNHKの改革は遅々として進んでいないような印象を受ける。菅大臣とは悉く対立してきたから伝家の宝刀を抜かれて視聴料引き下げに追い込まれたものだろう。そのやんちゃな菅大臣が社保庁の体たらくで頭に来ている安倍総理を口説いて敵陣に乗り込んだものと推察している。
初会合で監視委員長が互選され、JR東海会長の葛西さんが就任した。葛西さんは国鉄の分割民営化に辣腕を揮った実績があり、社保庁改革を監視、提言するには最適任者である。単に社保庁改革に留まらず、厚労省の分割と、一部民営化にも踏み込んでもらいたいものである。年金問題にかかる不祥事は只に社保庁が悪いのではなく、一番悪いのは親分である厚労省である。私は役所の中で最も嫌いなのが農水省と厚労省であるが、嫌いな理由が全く異なる。農水省が嫌いなのは無能だからであり、厚労省が嫌いなのは悪だからである。
薬害エイズ事件でも明らかなように、厚労省のスタンスは国民の健康、医療、福祉、雇用、年金等の重大な分野に携わりながら、国民に奉仕して守るという視点が皆無であり、何よりも先ず自分達の利益が最優先となる。非加熱製剤の血液輸血でエイズ感染の恐れがあることを十分認識しながらも直ちにより安全なものに切り替えなかったのは、天下り先であるミドリ十字の損失に配慮したからである。多くの人がエイズで死ぬのを見殺しにする事も平気なほど、官僚の公僕意識や倫理感は麻痺してしまったと言う事である。加えて自分達の間違いを隠蔽する為、担当大臣まで欺いて関連資料を隠し続けた。管 直人大臣が、厚労省と製薬メーカーとの癒着を防ぐ為、今後ミドリ十字等への天下りを禁止すると記者会見で発表した時、記者に配布された資料には大臣に渡したものと違って「当分の間」と言う一言が挿入されていた。事実管大臣が去った後は又堂々と製薬会社に対する天下りを復活した。
年金福祉事業団が始めたグリーンピア事業が始めの2施設で全く採算性が取れないことが判り、今後新しい施設を造らないことが閣議決定された。それにもかかわらず何だかんだと理屈をつけて造り続け、又も閣議決定で禁止されてもなおも止まらず13施設まで増やして計3000億円もの年金保険料を無駄使いした。閣議決定に違反しても厚
労大臣が罷免されないのだから、如何に日本は官僚のやり放題であるかを物語る。
ついにグリーンピア事業の廃止と売却が決定され、地方自治体に二束三文で買い取りを依頼したが、採算の見通しが建たないとして殆ど断られ、結局身内の下部機構に経営を委託して、そこから又民間に委託してまだ細々と経営を続けていると言う。この間天下りを養い、赤字は保険料から補填し続けるのだから泥棒に追い銭となり、国民はどこまでコケにされるのかと呆れて物も言えない。
社保庁監視委員会の面々は国民の代表として悪の巣窟の厚労省に乗り込み、単に年金記載漏れと言う矮小な問題に留まらず、年金資金の運用や流用に群がって設立された数々の公益法人や社団法人の実態をも監視して頂きたいものである。ゆくゆくは悪の巣窟であり利権の巣窟である厚労省を分割解体する必要がある。行政改革とは単に省庁を再編して数を減らす事ではない。数は増えても良いから利権の集中を分散させる必要がある。厚労省と国交省がその典型である。

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