息子が夏休みで名古屋から帰省中であるが昨日我が家を訪ねて来た。親父に会いたいというより子犬たちに会いたかったのだろう。一日中飽きずに子犬たちと遊んでいる。まだ離れがたいのか今夜は泊ると言い出して泊り今帰ったところである。
調子はどうだと訊くと真面目に学校に通っていると強調した。早稲田時代は碌々学校に行かず中退に繋がった事を申し訳ないと思っているらしい。今は教養課程だが、初めて習う生物に苦労していると言う。物理、化学しか学ばなかったから生物には戸惑うのだろう。
国立の医学部に受かるには生物で高得点を取るのは難しいので皆が皆物理と化学を選択するという。従って大学では医学部の学生に対しては生物の講義に注力するらしい。生物学の基礎も知らないで医者になられたのでは患者は堪ったものではない。結構な話である。
お前は20年間道草を食ったのだから教養課程の2年間を生物は別にして他の科目に注ぐ余裕は無い。専門課程に行く前に医学書を読み漁って基礎的な医学知識を習得するように言い聞かせた。田舎の診療所や小児科の医者は病気全般に通じていないと勤まらないと思うので広い知識が必要になるとも忠告した。
下宿では自炊しているという。大学を中退して来た時は心を鬼にして家から追い出したから自炊には慣れている。順調に進級して一人前の医者になるのは46歳である。それから結婚しても私は孫の顔も見られないかも知れない。出来ればどなたか今結婚して頂いて同棲していただければあり難いがそうは行かないだろう。生活の面倒は親が見ても、頼りない息子を受け容れてくれないと思う。第一息子にその気が無さそうである。今までも知人からお見合いの話を再三頂いたが息子は全く乗ってこない。自分の自立も怪しいから家族を持つなど念頭に無いのも当然である。私の知る限り息子は彼女居ない暦40年である。女性に興味が無い訳ではない。高校生の頃好きな女生徒が出来たが、寡黙で非社交的な息子は話しかける事も出来ず、只時々後を追っていたらストーカー扱いされて親御さんから私に苦情が来た。それ以来息子は女性恐怖症になった様である。
親馬鹿かも知れないが息子は親不孝者だが決して悪人でもミーハーでも無い。只がさつな親父に似ず神経が繊細すぎる。一寸したことで傷つき挫折する傾向があったのもデリカシーの成せる業である。息子のIQは確か170−80あって中学の担任が吃驚していた。趣味はクラシック音楽と将棋とパソコンである。私はクラシック音楽では誰にも負けないと自負していたが息子には負ける。因みにメールアドレスがヒンデミットの英文字であるが相当なクラシック通でも知らない作曲家である。今でもプロコフィエフのピアノソナタを弾きこなす。
パソコンはマック専門であるが相当な使い手である。将棋は6段である。
私の最後の夢は息子にバツイチかバツニの40歳前のお嫁さんが来てくれて、息子にも人並みに家族を持たせ家庭の喜びや悲しみを味わって貰う事である。

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