2011年度の貿易収支が約2兆5千億円の赤字となった。第二次石油ショック以来31年ぶりのことである。但し海外子会社からの配当など所得収支を加えた経常収支ではまだ黒字を保っている。若し経常収支も赤字に転落すれば日本は稼げない国で借金を返せない国と見做され、国債価格の下落等によって経済に深刻な打撃が及ぶ。
去年の貿易収支の赤字は複数の要因が重なって生じた。東日本大震災で企業の生産活動が停滞した他、タイの洪水や欧州危機、円高の影響が大きい。更に原発の停止に代わって火力発電の原料輸入が増えた事も大きい。タイの洪水を除き要因の殆どが今後も続く可能性がある。今年も原油やLNG価格の更なる高騰が予想されるので貿易赤字が長期化する気配もある。日本の貿易収支の黒字は国力の源泉だった。これが赤字になるとは由々しき事である。
自動車、電機、電子などの輸出産業の国際競争力が無くなったのが痛い。特に輸出の花形だった薄型テレビが韓国のサムソンとLGに大差をつけられた。テレビで黒字なのはシャープだけで軒並み赤字に苦しんでいる。日立は自社生産を止めた。ソニーもパネルの生産を止めた。パナソニックもプラズマテレビから撤退した。日本が世界に先駆けて開発した有機ELテレビでも韓国メーカーが大型の55インチを投入して日本を抜いた。況や家電製品などは中国、台湾に太刀打ち出来ない。
これは単に日本メーカーが怠慢だったからだけではない。円高に苦しむ日本メーカーを尻目にウォン安と元の実質的固定相場で国際競争力を得た韓国、中国メーカーが得をしただけである。こんな不公正な競争は無い。この円高では日本で生産しても儲からないから企業は生産拠点を海外に移すので益々貿易赤字が増すことになる。日本もアメリカの様に物つくりの二次産業が衰退する恐れが出てきた。アメリカでテレビメーカーが消えたような現象が日本でも起きそうである。
アメリカの二次産業は空洞化したが、代わってマイクロソフト等のソフト産業、インテル等の世界標準基幹部品、アップル等のイノベーション商品で乗り越えてきた。更に農業、畜産の一次産業や軍事産業、金融で世界をリードしてきた。日本には真似出来ない事である。
輸出が駄目なら輸入を抑えるしかない。特に原油、天然ガスの輸入を抑えるには原発の再稼動が喫緊の課題である。今のままだと54基の原発が春には全て止まる。深刻な電力不足に悩まされるばかりでなく貿易赤字の拡大に拍車がかかる。だから言わない事ではない。安易に脱原発を唱えるのは天に向かって唾を吐くことになる。原発依存を減らす方向には賛成であるが、飽くまで物には順序がある。当面は原発を活用するしか方法が無い。

6