ユーロ圏17カ国の首脳会議は短期的な市場安定化策を纏めた。欧州中央銀行が運営する統一の銀行監督制度を年内にも発足させる。従来は欧州安定メカニズム(ESM)の資金は国に融資され国が銀行に資本注入していたが今後は銀行に直接資本注入することになる。これにより政府の借金が増えて市場が嫌気を指す事を避ける狙いがある。
又緊縮策だけではなく成長・雇用協定を結び全体で12兆円を投資する。フランスのオランド大統領の公約を無視する訳には行かなかったのだろう。
順調に見える首脳会談も実はドイツと他の国との乖離は大きい。ESMの資金もスペインに10兆円使う事になっているので資金不足は否めない。余力があるのはドイツだけであるがドイツ国民はこれ以上のユーロ圏支援に大反対である。メルケル首相も国民の意思を無視出来ないから財布の紐を固く締めている。
ドイツは東西の合併で塗炭の苦しみを舐めた。国民は長い間緊縮策に堪えてきた。旧東ドイツが復興して漸く合併効果が出てきた。我慢に我慢を重ねた結果漸く繁栄を味わっている。ギリシャやスペインに対しても国民は緊縮策に堪えるべきだと思うのも無理も無い。あるドイツ人はインタビューに応えて俺たちは65歳になってやっと年金が貰えるのにギリシャ人が60歳から貰うのは怪しからんと吐き捨てたが尤もである。
ドイツ国民の8割がこれ以上ユーロ圏の支援で苦労するのは御免だと怒っている。然しこの理屈は少し矛盾がある。欧州統一通貨ユーロの導入で最も得をしたのはドイツである。若しマルクの儘だったら日本と同じで急激なマルク高に見舞われて国際競争力を失っていた筈である。
従って可能な限りの支援をしてユーロ圏を維持する事がドイツの国益に叶う。2割の有識者がそれを理解している。メルケル首相も世論に惑わされずに決断して欲しい。
日本の世論も消費税、原発再稼動、TPPには7割以上が反対である。世論と言うものは往々にして自分の目先の損得勘定に左右される。だからこそポピュリズムは駄目なのである。
日米安保を推進した岸、沖縄返還を成し遂げた佐藤、田中角栄を起訴させた三木、消費税を導入した竹下、郵政事業と道路公団を解体した小泉等の指導者は世論に媚びずに果敢に決断した。古くは外交の陸奥宗光、小村寿太郎、財政の高橋是清等の様に国民の不人気をものともせず「他策無かりしを信ぜんと欲す」と信念を貫いた。今の政治家は彼らの爪の垢でも煎じて呑むべきである。

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