このところ円安の流れが加速し80円台後半を狙う勢いである。連れて株価も上昇して9200円を突破した。市場関係者も歓迎している。景気回復への足掛かりになれば結構なことである。
安倍総裁は自民党の政権公約が評価された為だと自画自賛した。デフレ・円高対策を優先して、インフレターゲットを2%に設定し、日銀法を改正してまで更なる金融緩和の政策協定を日銀と結ぶという。国土強靭化対策として大地震に備えた防災・減災のために10年間で200兆円を投入するという。財源は建設国債で賄い全額を日銀に買い取らせる方針である。なるほど景気の良い政権公約であり市場が歓迎するのも頷ける。然し国土強靭化に名を借りた体の良い公共事業の復活であって昔の自民政権時代への逆戻りである。
日本の経済低迷が不当な円高にあることは確かである。為替は本来平価購買力に基づいて決まるべきものであるが、日本の円は常に過大評価されてきた。おかげで逆に過小評価されてきた中国元や韓国ウォンの所為で国際競争力で後れを取った。電子機器の惨敗も円高が主たる原因である。従って円安への流れは歓迎すべきことであるとは思う。
一方為替は単なる平価購買力だけでは無く近未来の国力をも表すものである。本来円高は日本に対する評価が高いことを意味するので良いことである。経済低迷にも拘らず日本の海外資産は世界一であり、外貨準備高も中国に続いて世界二位である。人材も技術力も世界に冠たるものがある。日本は必ず復活するとの期待が円高に繋がっていた。
然し政治の混乱が経済の低迷に拍車をかけ、失われた10年が更に20年になりそうである。加えて千年に一度の大震災で、原発が危殆にひんしている。火力発電に切り替えたため、燃料輸入費が年間3兆円を超す。民主党政権は2030年代までに原発廃止を目指すと公約した。
日本の経済力の源であった貿易収支の黒字が5か月連続で赤字に転じた。円高による輸出の不振に加えて上記の燃料費の輸入増加の所為である。脱原発依存が進むと益々貿易赤字は増える。日本もアメリカと同じように財政赤字と貿易赤字の双子の赤字に苦しむ国になる恐れが出てきた。
私は最近の円安傾向は貿易赤字体質に陥った日本の将来性に市場が疑問を呈し始めた証拠だと思う。手持ちの円を売ってドルやユーロに切り替えているのだろう。従って円安は気軽に喜ぶべきことではなく、むしろ憂うべき現象だと思う。安倍総裁もはしゃいでいる場合ではない。

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