有馬元東大総長を座長とするエネルギー・原子力政策懇談会が原子力規制委員会の言動に異議を唱える緊急提言書を安倍首相に提出したのは周知のとおりである。その原文作成に経産省の官僚が関わったと言う情報が流れて、マスコミは情報操作のやらせだと騒いでいる。この会議には元通産省事務次官も居るが、他にも今井元経団連会長、茅元東大総長など錚々たるメンバーが揃っている。何れの皆さんも高齢だし、議論はするが文章を纏めるような下っ端ではない。議事録を取ったのは多分事務局の官僚だと思う。また通産省事務次官がメンバーに居るから、経産省が議事録を纏めて文案を作成するのも当然の成り行きである。喩え文案を作成したのが経産省の官僚だとしても、会議のメンバーが承認したのだから会議の意志である。詰まらないケチをつけて騒ぐマスコミの気が知れない。
私は度々原子力規制委員会の硬直的姿勢に苦情を呈してきた。5人のメンバーは何れ劣らぬ安全・安心原理主義者であり、電力会社の事情やコストは一切配慮しないと明言している。新たに定めた安全基準は世界標準の10−100倍も厳しいものでリスクゼロの基準である。最大限の津波対策を立てろとは38mの津波を防ぐ防潮堤の設置であり、これだけでも事実上不可能である。加えて160km以内にある火山の噴火にも備えろと言う。軽水炉にも水素爆発を防ぐシステムを義務付けた。余りの厳しさにアメリカやフランスからは失笑を買っている。
福島原発事故直後は経産省が引っ張ってきた原発推進政策に批判が集中した。経産省、電力会社、ゼネコン、学界が攣るんで原子力村を営んできたことが事故の根本的原因だとされた。民主党政権が新しい原子力規制委員を選ぶとき民意に配慮して原子力村出身者を全て排除した。この結果規制委員会は素人集団の集まりになった。自分でやらずに評論だけする集団である。
安倍首相の本音は原発の維持と再稼働の推進である。国内では廃止して輸出はすると言うのは筋が通らない。然し民意は原発反対だから思い切ったことを言えない。飽くまで規制委員会の意志を尊重すると言う。それでは日本のエネルギー政策は立てられない。
エネルギー・原子力政策懇談会が政府に早急にエネルギー政策の確立を促すのは当然である。然し今の規制委員会の下では原発に頼った政策は一切立てられない。困ったものである。

3