堺屋太一氏によると人間関係は縁で結ばれる。幼児のころは親兄弟、親戚の血縁である。学校に入ると学縁で友達ができる。小学校、中学校、高校、大学と拡大する。就職すれば職縁になる。敵もできるが味方もできる。職場の戦友は貴重である。定年になると地縁で近所の仲間ができる。それからはお互いの共通の趣味で集まる好縁になる。
私も定年後は好縁のゴルフ仲間が一番良いと思っていた。確かに新しい仲間が一杯できたし中には素晴らしい人との出会いもあった。然し最近は考えが変わった。喧嘩するのはゴルフ仲間ばかりである。どうもゴルファーには癖の強い人が多い。特に競技志向でゴルフに打ち込んできた人はゴルフ原理主義者になるようである。ゴルフこそエリートの紳士のスポーツで人間形成の場であると思い込んでいる人が多い。ゴルフをやってきた環境の差だと思うから致し方がない。
私は30歳からホンダでゴルフを始めた。ホンダの外国部のゴルフ仲間は殆どがタイ、インドネシア、フィリッピン、台湾で駐在経験のある人ばかりである。これらの国では昔は土日はゴルフしか楽しみがなかった。現地給与はソフトカレンシーでドルや円に換えられないから貯めても仕方がないので皆さん大きな賭けゴルフに使った。その癖がついて日本でも賭けゴルフ専門だった。毎回最低でも3万円は動いた。金の取り合いだからお互い足の引っ張り合いで紳士のゴルフとは程遠かった。ゴルフは心技体のスポーツである。心を乱せば相手は崩れるからありとあらゆる罵詈雑言を吐く。それに耐えられなければ負けである。然し仲の良い友達同士だったから喧嘩はその場限りで 勝っても負けても楽しかった。私のゴルフは今でも口で相手の足を引っ張る賑やかなゴルフなのでマナーが悪いと言われている。然しそれも戦略の一つである。心が乱されないように鍛えるのも練習の一環である。
競技志向の人はプレー中は口も利かない。話しかけると怒られる。賭けゴルフも絶対にやらない。口撃で足を引っ張るなどとんでもないことになる。ルールとマナーに煩いから一緒にプレーすると疲れる。私はゴルフは只のゲームだと思っているので楽しむことが第一である。プロでもないのにピリピリしながらゴルフをやって何が楽しいんだと思う。
ここ二年間でゴルフ原理主義者4人と喧嘩した。前は親しかったが今では口も利かない。75歳にもなって恥ずかしいが人間の性根は治らない。私は短気ではあるが矢鱈と腹を立てるわけではない。相手が理不尽だと思うから喧嘩するのである。
練習場の名球会の大幹事との喧嘩については既に書いた。中小商社のアメリカ支社長を8年間やって常務で終わったが上司への気配りで出世したタイプで絶対に仕事のできるタイプではない。人当たりが良いので尊敬されているが只の仕切り屋である。誇り高き紳士のゴルフをというのが口癖で直ぐ偉そうに説教するから私は嫌いだった。素振りを毎度三回もやって人一倍スロープレーの癖にマナーを説く資格はない。素振りを一回にするようルールを作らせた私を恨んで名球会から追い出そうとしたので自分で出てやった。
大幹事の師匠役でトップアマを目指してきた女名人とも喧嘩した。ある日一緒にプレーしたが私はシャンクが続出して絶不調で54を叩いた。あるミドルホールで二打目がシャンクして林に入った。そこから打つたらシャンクして木に当ったが幸いグリーンが狙える場所だった。そこから又シャンクして今度は林の奥でどうにも打てないところに行ったので、アンプレアブルを宣言してボールを拾い元の場所から打って乗せた。1ペナルティーがあるから6オン2パットで8と申告した。ボールを拾うところを観ていた女名人は誤所からのプレーで2ペナルティーだと言ったが彼女はアンプレアブルの措置を知らなかった。アンプレアブルは元の場所から1打罰で打てるのである。帰宅後寛いでいたら彼女からメールであのスコアに納得行かないから説明しろと言われた。ダブルスコアを叩いて思い出したくもない事を、あたかもスコアを過少申告したと言われて私は激怒した。握っているなら百円でも気になるだろうが握ってもいないのに何故わざわざ人を不愉快にさせるのかとこんこんと説教した。19歳も若い娘みたいな相手にゴルファーとして最も恥ずべき過少申告だと言われたのでは我慢がならない。舐めるんじゃないよ、ゴルフの上手いのがそんなに偉いのか、貴女はゴルフのマナーは良いが人間のマナーが悪いと言ってやった。それ以来彼女はプッツンして私と口を利かなくなった。
エイジシュートを18回もやった怪物爺さんとも喧嘩した。ゴルフ一筋で83歳になっても毎週コースに行く。ある日同じ練習場仲間と3人で習志野カントリーでプレーした。珍しく怪物爺さんはスタート時間に遅れた。5分待ったが来ない。前の組は見えなくなるし後ろの組はびっしりつかえている上に、赤の他人が一人参加しているので待つわけにはゆかない。仲間の3人だけなら順番を譲って待つが、他人が居るからそれは出来なかった。爺さんはスタートホールだけプレー出来ず残りを回ったが終始不機嫌だった。後から練習場の仲間6人から聞いたが怪物爺さんはあいつは冷たい男だ、仲間を待たずにスタートしたと言いふらしている事を知った。何故私に直接言わないのかと腹が立ったので二度と誘わなくなった。ゴルフは遅れると失格である。自分が悪いのに逆恨みするのは非常識である。
ゴルフ原理主義者とは付き合わない方が良いと悟った。

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