◆あの喫茶店でマネージャーと向かい合う大佐藤。「逃げてくれたお陰で腰のロゴが良く見えた」とマネージャー。「逃げたとか言うな」と大佐藤。更に「(赤い獣のことを)調べてくれた?」と大佐藤が聞くと「日本のものじゃないみたい」とマネージャー。すると、場面は変わって、チマチョゴリを着た女性が興奮気味に、芝居がかってニュースを読むあの北朝鮮(としか思えない)のテレビ映像が挟み込まれ、「偉大なる将軍様が大日本人に天罰を下された!」と断罪する。
⇒断定はしていないがあの獣は北朝鮮産のようだ。ならばもっと彼の国らしい外見か行動か特性が欲しい。メガネを掛けているとか、ジャンパーにスラックスだとか、シークレットブーツだとか、ハーレーに乗ってるとか、思い切って「ラチ!ラチ!」って叫んでるとか、なんなら彼の国の子供のように物凄く痩せてるとか・・・問題になりそうで、ちょっと無理か。ただ、この獣が暴れている間の効果音は何となく短波ラジオの音のようで面白かった。
◆ここからは暫く大佐藤と別れた(?)妻と娘のことが描かれる。電車に乗り約束の場所へ向かう大佐藤。笑みが顔からこぼれている。娘に会えることが嬉しくて仕方がないのだ。横には選ぶのが難しかったと彼が言う娘へのプレゼントの「うさぎの耳の付いた帽子」
◆電車内、Qの質問に答え「向こう(妻)はどう思っているか判らないが、別れたつもりはない」「月に1、2回会ってるが、向こうはもっと会いたいみたい」などと語る。
◆待ち合わせの場所はファミレス(?)「ビッグボーイ」。その名前に「なんだよ」と照れたりもする大佐藤。やがて妻が来るがカメラに拒否反応を示し、「顔を写さないで、娘にはモザイクを掛けて」と言い張る。それには「モザイクの意味が判らん」と抵抗する大佐藤だったが・・・
◆次の瞬間、画面一杯にプレゼントの帽子を被った娘。但し、顔にはしっかりとモザイク!
◆動物園を楽しむ親子三人の姿。だが、娘の顔にはモザイク!
◆Qはその娘にもインタビューだ。「お父さんは好き?」→「わかんない」。「お父さんの仕事は?」→「知らない」。「お父さん欲しい?」→「どっちでもいい」。大佐藤は聞いてはいないが散々だ。勿論、ずーっとモザイク。但し、BGMは楽しそう。
⇒この映画で初めての主人公の笑顔だ。それは子供を持つ普通のお父さんの姿だ。彼は、大佐藤は、人生で何度か自分が「大日本人」という巨大化する人であることを恨んだことがあるのではと思わされたシーンだった。
⇒しかし、現実はことごとく彼を裏切る。Qへの娘の返事もそうだが、妻の思いもまた全く彼の気持ちとは遠くかけ離れているのだ。僕には、主人公がそれらを判って、こうした時間を過ごしているのではないかとさえ思えた・・・その方が主人公の悲哀はいや増すのだ・・・
⇒娘のモザイクは「腰のCM」と同じくこれぞベタというベタ。問題なく面白い。
◆そして更に、Qによる妻へのインタビュー。場所は彼女の家。彼女の答えは大佐藤の思惑とは相当開きがある。「半年に一回ぐらい会ってるだけ」「私はそれで充分」「向こう(大佐藤)は知りませんが、私は離婚してるつもり」「母子家庭のつもり」「跡を継がせるなんてとんでもない」「愛情注いだ子供に電気当てられますか」・・・悉く反する。
◆更に、現状について「知り合いの店で働いている」「そこの社長が良くしてくれる」「せりなもなついている」。その社長と彼女と娘の3ショットの写真が写る。と、Qの声「このビデオ、大佐藤さんに見せていいですか?」妻は答える「いいですよ」
◆画面にはそれを見せられていた大佐藤。髪の毛が顔全体に被さってその表情が見えない・・・一言も発しない主人公・・・暗転。
⇒大佐藤と妻の考えの食い違いも、新喜劇かと思われるような相反しぶりだが、これは流石に、妻と彼との直接の言い合いシーンより、Qを介した方が皮肉が利いててより伝わって来る。
⇒そして、場面一転、髪の毛に顔を被われている大佐藤。妻の本心を知らされ、今更ながらの大ショックを表しているのか、だが主人公としてはショックを隠したいのだ・・・その二重性が面白い。
⇒要するにこの間は、別れた夫婦の現在=結果を描いているのだが、実は、男女の別れは結果より原因の方が面白いのだ。何故、大佐藤夫婦は別れなければならなかったのか。最大の原因は旦那が「大日本人」だったことだろう。しかし、そのことのどの点を彼女は気に入らず、どんなところが夫婦に都合が良くなかったのか。大きくなるそのこと。金が掛かり過ぎる。生命の危険が大きすぎる。世間の目。そこの事実は逐一面白いはずだ。ひょっとして「大日本人」であることは二の次で、もっと他に原因があったりして!
◆「夏」。青空に蝉の声とまたしても琴の音。散髪屋から出てきた大佐藤。髪が短くなっている。そこへQの一言。「怪獣出ましたよ!」
◆五匹目の獣「匂ウノ獣」だ。顔は板尾創路。ともかく「万人分の糞尿の匂い」をさせている獣だ。外見と松本人志とのやりとりは、まだこの映画を御覧になっていない片の為に割愛。是非、劇場で!
⇒ただ、僕が好きなのは「ビルの窓ガラスを割る板尾」だ。
⇒だが一点気になった事が・・・大佐藤が散髪したのなら変身後の「大日本人」の髪も変わるのでは!
◆板尾と松本のやり取りの途中、もう一匹が現われる。「匂ウノ獣」のメスに求愛する「匂ウノ獣」のオスだ。顔はFUJIWARA・原西。いかにもアブナイ体の動きをさせてメスを求める。「見て、子供やがな、相手にするかいな」と言っていたメスだが、突如受け入れ態勢に入り!(確か)一旦暗転した後、ビルの上のスコッティの看板が写り、やがて画面は真っ白に・・・二匹はセックスしたようだ。
◆大佐藤の家。壁に抗議の張り紙、「大ハレンチ」「子供が見ています」「非常識です大佐藤さん」等など。
⇒「匂ウノ獣」メスの造形はいいが、オスは如何なものか。原西という人選も如何にも過ぎる気がして・・・更に言うならメスが板尾なら、オスはせめて吉本興業じゃない人を。原西くんに他意はないが、納得度の低い配役なり。
◆ここは立て続けに獣が出てくる。「童(わらべ)ノ獣」。顔は童ということで神木隆之介。この獣については司令状も特に危害を加えるような獣であるとは言わない。東京ドームのマット状の屋根に眠っている。何故か「大日本人」もその可愛さ故にか胸に抱いてしまう。その胸の中で夢でも見ているような「童」の寝言。「お母さん 僕のほうが早かったよ・・・スタートダッシュが違った・・・よしんば・・・」お母さんとかけっこでもしている夢だろうか。それを見る「大日本人」も母の顔だ。その背中には今日は「KabayaのジューC」の広告。と、次の瞬間、「童ノ獣」が「大日本人」の右乳首を噛む!堪らず抱いていた手を放す「大日本人」。ドサッと言う音がして、地面に落ちる「童ノ獣」。一呼吸置いて、あの光が空から。「童ノ獣」昇天。
⇒更に「獣」といっても凶暴なだけではない、というより、いっそ「怪獣とはなんだ?」とでも言いたげな獣の登場だ。無論「これの何処が怪獣やねん!」ということではある。
⇒この「光」は効果的だ。「獣の死」をどうしよう、という観点から考え出された手法なのであるが、タイミングひとつで悲しみとおかしみと、そして死が訪れたことが明瞭に正しく伝わる方法だ。「童ノ獣」も場面上は地面に落ちた絵はない。高速道路か何かで「大日本人」の足元は見えず、「ドサッ」という音に続き、落ちた辺りに光が差して、死んだこと、ここでは「殺しちゃった」ことが判る。正に悲しくて笑えるように出来ている。
◆居酒屋。Qと話をしている大佐藤。「子供殺して、大変なことになりましたね」とQ。苦り切る大佐藤。そこへ「童ノ獣・追悼集会」の映像。亀淵ユカが歌い、ローソクや、「大日本人」への抗議のプラカードを持つ人々が集っている。
◆再び居酒屋。Qの口調もやや非難めく。だが、「乳首は大事なんだよ・・・電流のあれもあって・・・」と弁明にならない弁明の大佐藤。更にQは赤いのとやれば数字が上がる。それは「童ノ獣」の汚名返上にもなるし、ゴールデンも取れそうとけしかけるが、「興味ない」「ゴールデンとか、数字とかやめない」と否定的な大佐藤だ。
⇒更に追い詰められる大佐藤、つまり「大日本人」だ。この危機を主人公はどう乗り切るのだろう。或は、更なる危機が待っているのだろうか。そしてそれさえも乗り越えて、映画はクライマックスに行くのか!と、思わせられるのだが・・・
⇒「数字=視聴率」のことは何度か出てくる。その都度主人公は冷やかで、それを認めることはないが、それが現実の松本人志の答えだというなら、些か浅薄ではないか。決して誰か他の者が作ったのではなく、当初の目論見としてはテレビ局自身何らかの指標か、少しは番組つくりの参考ぐらいにはなろうかと作ったはずのマッチポンプのような出自・存在の視聴率という数字に今や雁字搦めに絡め捕られ、数字そのものを目標とするような本末転倒の現状への松本人志の答えは是非聞きたいのにだ。視聴率は必要悪、鬼っ子、神、癌、怪物、自業自得、自縄自縛、自画自賛、獅子身中の虫、小役人、犯罪心理捜査官、地球外生命体、ひとりSM、ナベツネ、サナダムシ・・・何でも良い、何かに委ねて欲しかった。
◆居酒屋、「赤いのとやることビビッたりしてます?」とQのけしかけに「恐くなんかないよ。ただ、僕に万が一があった時に、4代目の面倒を誰がみる」「4代目には恩義がある」と本心を見せる。更に「どんな子供だったの?」という質問には「少々肥満気味、でも健康優良児の域」
◆ここで、子供の頃の4代目とのエピソードが回想シーンで入る。長い髪にパンツ一丁の少年、明らかに健康優良児の域を越えた少年時代の主人公である。父に追いかけられ、無理矢理蔵の中に連れ込まれ、両の乳首を電極で挟まれ、電流を流される・・・だが、巨大化することなく、乳首を焦がした上に破裂させて気絶だ。そこへ4代目が駆けつけ、5代目を制し主人公を助ける。主人公も「4代目が助けてくれた」と語るが、Qが指摘したように4代目「遅い」。
⇒ここの4代目への気持ちとエピソードが、ここへ入れるべきシーンか、構成として問題ありだと思うのだ。先ほど書いたように、無論それは僕の勝手な構築なのだが、「童ノ獣」を殺してしまい、更に追い込まれた「大日本人」が次にどう出るのか、何が彼に起こるのか期待が膨くらむ中、それは実は政府による無理矢理の最後の怪獣戦なのだが、そのラストシーンに怒涛の如く流れ込むには、或は効果的な踏み切り板としては不要、もしくは挟雑物でしかないのではということなのだ。4代目にかかわることは、「白樺ハウス」のところを中心に、もっと前に入れるべきではないかと思うのだ。違うか。
◆酒も廻って、Qの質問も結構きつい処を衝いて来るし、やや逃げるように腰を上げる大佐藤だ。「雨だよ」Qが言うと「これを持ってるよ」と折り畳み傘を出す大佐藤。更にQ「マメだね」。外へ出る主人公が酔いに任せて言う、「大日本人だよ!」
⇒Qはもうジャーナリズムなインタビュアーではなく、顔見知りの無礼な奴でしかない。主人公の事を知ろうとする精神の欠けらも無く、ただ、彼の事実に批判的なだけの、相手も判っている弱みを言い募る、言葉に悪意さえある侵犯者だ。だが、彼のそうした変貌はこの映画に有効なのかだ。実は主人公はそれに影響されない。負けん気を起こすでもなく、無視するでもなく、インタビューを拒否するとかいう行動に出るでもなく。かといって耐えているのでもなく、嫌がらず毎度毎度答える。ならば、せめてここまでは良しとして、クライマックス直前のこの居酒屋では、Qに食って掛かり、酔いの上の喧嘩となるが、手もなくQに居酒屋を叩き出され、道路に叩き着けられ、そして、叫ぶ「大日本人だよ!」。逃げるように居酒屋を出て言う「大日本人だよ」も、充分空しくて、哀しい。だが、この後の理不尽な巨大化の前には、叩きつけられ立ち上がって叫ぶそれの方が数倍悲哀があるのでは。
※「大日本人」Eへ続く。

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