M−1準決勝、その感想と論評が8回目となる最終回である。但し?付きが一回あるので実質は7回。もっと早く書きあげたかったのはやまやまだが、正直、思いがけない反応に筆の勢いが鈍った事もあった。不覚ではある。ま、名前を出して、プロとして書くという事はこういう事なんだと再確認して次に臨み、では、2007M−1準決勝最終稿である。
【48】NON STYLE(石田明・井上祐介)
吉本興業
▼「僕は器が大きい。彼女がデートに遅れて来ても許せる」と言う井上のいきりで、寒くて、身の程知らずで、むかつくネタ!そのあり様=演技は確かに寒くて、むかつくし、石田のツッコミはその都度、適宜で、‘つっこみ’とは客の代弁者であり、同時に客に笑いどころを教えてくれるものという機能を着実にこなしている。つまり、笑いを確実に取っている。特に長々と井上が弁舌した後の「に・が・て」という石田のツッコミは最強だった。
▼他にも、「鬱陶しい10回」「鳥肌製造器」など笑いを確実にするフレーズがあり、大奮闘の4分だった。そしてふたりも今回には今までにない意気込みだったのだろう、またまた決勝進出組発表のNGK三階の場面だが、名前を呼ばれなかった石田が白い衣装のまま後ろの壁に凭れ愕然としていた姿が目に浮かぶ。だが、再度頑張るしかない!
▼以下は、スタッフでも、マネージャーでも、或いは可愛がってあげている先輩でもない者としては書き過ぎだと思うが書く。ただ石田が100点で文句が無いということではない。今後の事を思うなら課題は井上だ。井上の‘いきり’その演技だ。素直に言うと、生過ぎる。‘いきり’を遊んでいる演技ならば問題はないが、演技ではない本気が感じられて、どうもいけない。勿論、ふたりとしては井上が本当にそうであるから利用しているのであるかもしれないが――それとも、井上の演技が素だと思わせるぐらいの超演技だということもあるかも――だとしてもだ。生過ぎると書いたが、正にそうで、演技として料理できていないものを食わされている感がある。無論、これを、だから美味いという人もいよう。
▼ひとつの手は、井上に破綻が起きればいいのだ。どんなに格好付けても最後はそれが成功しないとか、赤っ恥をかくとか・・・一辺倒の井上のボケに幅が出ると言うことである。他にも手はあろう。今まで井上が頑張るのはいきっても良いシチュエーションばかりだった(ように思う)。そうではない、いきる必要の無いことでいきるとかだ。井上は初めっからボケである。
▼ふたりの作り上げたい漫才を差し置いて書いたが。参考になればだ。
【49】藤崎マーケット(田崎佑一・藤原時)
吉本興業
▼ラララライ体操を捨てての挑戦だ。その意志は尊重する。
▼藤原が「アイドルの寝起きドッキリをやりたい」と言う。せめて「僕がやったらもっとおもろい!」ぐらいは言って欲しい。残念な入り方ではある。アイドルの名はきょうこちゃん→特に狙った笑い無し。これも残念。以下、「合鍵がいい匂い」「くるぶしソックスを食べる」「きょうこちゃんが使った注射器は見なかった事に」「男子中学生のみなさん、きょうこちゃんが使うかもしれない非常階段が!」「イグッ!」と、好き勝手を藤原がやって田崎に交代。ところがアイドル役の藤原がおっさん風だったり、逆にハンディカメラでレポーターを撮り、「お母さん怒ってま〜す」「山で〜す」「鳩山議員で〜す」「高砂親方で〜す」とまたまた勝手な藤原・・・で終了。
▼ネタが「アイドルの寝起きドッキリ」で良かったのかという問題がある。元々アイドルの実態を暴くか、レポーターを異常にするかしかない、揶揄するに忍びない素材だ。この程度の笑いで終わることが見えているネタだと言えよう。無論それを超える発想と言う武器は、それを持てるなら有効だが。
▼そして、それを期待していたのだが。僕は彼らのちょっと昔を知っている。田崎は「エージェント」と言うコンビで、野球のスタイルを借りて世間や有名人に文句を言っていた。なかなかに鋭い指摘もしていた。言わば判り易いかっちりしたネタだ。そして藤原はピン芸で、オチを気にしない、気ままでもっと変な空間を演出していた。双方に個性ある芸人であった。そのふたりがコンビを組んで、先ずは「ラララライ体操」だった。藤原があんなに動ける事に先ず驚いたが、僕には魅力的なネタではなかった。だが売れた。僕の好みが一般的でないことは既にご承知だろう。いや、お前は笑いを判っていないという声も聞こえてます。
▼つまり、相当色の違うふたりが新コンビを組んだ結果、今のところ、僕にはボケの藤原の個性が抑えられているように見える。残念だが、それは損だ。良くない。当たり前だ、ボケを全面に出さないでどうする!彼らを知っているからこそ僕の彼らへの期待はもっと大きい。つまり僕の彼らへの笑いのハードルは高い事になる。それがラッキーかアンラッキーかは彼らの今後に掛っている!
【50】プラスマイナス(兼光貴史・岩橋良昌)
吉本興業
▼「大河ドラマに出演したい」と入るが、それを振りにするなら、その後の部分でNHK的な味付けとか、NHKを攻略する良い方法とかがあるべきで、特にそういうことは無く、ただ時代劇の1シーンをやるのだから、フリは「時代劇大好き」でいいのではと思ってしまう。要するにネタフリに計算が無いのはダメだということだ。
▼それはさておき、その後は彼ららしいアクティヴでテンポの良い激しい漫才が見られた。但し、「明朝、甲斐の武田を攻める。甲斐に鉄砲隊・・・」とオッと思わせる時代劇の台詞を聞かせるのだが、その後がまたしても、甲斐の武田も鉄砲隊も関係なく、唯飛んで来る矢に身をもって殿を救おうとする家来とその殿との大ドタバタが繰り広げられるだけで、ここでもネタフリを有効にし得ていない。
▼もったいないのだ。もっと緻密な漫才が作れるのに。それでいてあれだけ激しく動く漫才!魅力倍増だと思うのですが、如何?
【51】ヘッドライト(和田友徳・町田星児)
吉本興業
▼得意の連発ネタだ。彼女と居酒屋へ行った和田が「2万円も取られた」と言い、何を頼んだか思い出す格好で羅列する。冒頭「春雨」を「はるあめ」、「海老」を「かいろう」と読み、早めのお冷の注文など小ネタはあるが、メインは面白メニューであろう。「ブロッコリーとカリフラワーの盛り合わせ」「また食べたくなる冷奴」「きのこのハンバーグ添え」「ちりめんじゃこの開き」「バツイチ子持ちししゃも」「キャビア風黒ゴマ」「胡麻の胡麻和え」「七宝菜」「水のお湯割り」「本格麦焼酎本格」「サイコロステーキ三面焼き」「冷凍ピラフの解凍ピラフ」「「冷奴の炊いたん」「ミートボールの面影」「南極産地鶏」〜まだまだ続く。で、町田のツッコミは省略。想像してみてください。
▼彼らはこういうネタが好きなのだろう。笑いの量という観点からすると、メニュー(ボケ)の度に笑いは起こるが、切り売りだから前のボケに被さるような笑いは起きない。無論彼らもボケの度合いを段々大きくして行くという常套手段は講じているが、如何せん単発銃だ。お手軽感、小手先感が否めない。
▼根本的に考えてみよう。いや、それほど大層ではないが。結局、ボケの大きいネタ、つまりふたりが後半に回したネタはその方が面白いから、一概には言えないが出来が良いから計算してそうしたと見ることが出来る。ということはそれより前はそれほどでないネタだということだ。敢えて言うなら出来が悪い。思いついたが左程の衝撃を客に与えられそうにないので早め=助走段階に使ったということであろう。だったら、それおかしくない?或いは損していない?面白くないと判断したものは使わない方が良いのでは?つまり、これはいける。この感性は我ながら最高!と思ったネタを柱に漫才を構築していくべきではないのか。具体的に言うなら、この時並べ立てたネタ(メニュー)の中の最優秀3つをどう使うかという漫才を考えるべきではということだ。
▼それは無論、彼らのようなスタイルの漫才にははなっからあり得無い発想なのだろうが、こうした一辺倒なネタを考えた時、嘗て松本人志(また、この人で申し訳ないが)が日本武道館で‘松風95’という入場料客判断後払いというライブをやった。それは出てくる写真に彼が一言コメントして笑いを取るというもので、総写真数100枚!だが、それまでに彼とスタッフは凡そ5000枚に及ぶ写真を閲覧し、精選の上にも精選した100枚であったのだ。松本人志にとってのこのライブの重さとヘッドライトにとってのこの漫才一本の重さはどちらが大なるかは本人次第だが、ヘッドライトが松本人志に負けないネタ追及をやったと言うのならば、これ以上言うことは無い。
以上だ、町田くん!
【52】笑い飯(西田幸治・哲夫)決勝進出組
吉本興業
▼「お呼びでしょうかご主人様と言う台詞を1文字ずつ交互に言うとロボットみたいに聞こえる」と哲夫が言って始まるネタだ。そこからは次々と勝手な機能の付いたロボットをふたりが交互に出し合う。だが哲夫が西田のロボットに余りきついダメ出しをすると、西田が「止める。別にこんなんやりたい訳ではないし」と牽制し、哲夫が「やりましょう」と即折れるというような脚色も備わって、会場大爆笑。流石と思わす決勝進出だった。
▼Wボケは相変わらずだが、今までは別々に、「俺にやらせろ。代われ!」とやっていたものを、今回はふたりでひとつのもを作る(やる)というネタ展開だ。これは大きく違う。その為に、誘われた西田が「そんなに言われるなら止める」という態度にでるという事態が生じている。今までにないふたりの関係性もネタに組み込まれているというわけだ。贔屓目に言うが、これが他の多くのコンビだとそうした躓きもなく普通にその提案に乗るだけとなる。この違いは大きいが、難しい事ではない。単に漫才に捉われているかいないかだけだ。漫才とはこういうものだと思っているかいないかだ。自然にネタに入れば、相手の提案(お願い)にありのままの自分で対処すれば、必然的に「そんなに言われてまで・・・」となる筈だ。漫才に真摯な笑い飯に軍配ということだ。
▼ところが、僕はこのネタにやや抵抗、いや疑問があった。それはネタフリだ。西田はロボットをやることに即OKしておきながら哲夫のダメ出しに抵抗を示す。それがやや唐突な気がしたのだ。そこだ。笑いのネタフリは相当やっても良いと言うのが僕の持論だ。もう落ちが判るぐらいのネタふりをしても客の興味は薄れない。無論、度を越してはダメだ。その加減にセンスは要る、が、そこをクリアした上でならば、ネタフリはすればするほど笑いは大きくなり、意外な展開は更に大きな笑いとなる。
▼もう少し言うなら、2割のネタふりで通じる客の数は少ない。それをこの際判り易く客も2割だとするなら、3割のネタフリでは客の3割、5割なら5割、以後、正比例だとして、ネタフリをすればするほど笑いの準備が出来る人達が増えて、オチを言った時笑いがより大きくなるという現象となる。これをベタだと言うこともできるので、客にせよ芸人にせよ好き嫌いはある。
▼で、今回の笑い飯だが、冒頭、哲夫が「一緒に(ロボットを)やって」と言った時、「お前には難しいかもしれない」とか「無茶楽しいから」とかもっと条件を付けて頼み込んでおき、更に西田もすぐ乗らないで、一度は「俺、興味ないし」とか断っておくと、後々、西田が嫌がるのがより利いてきたと思うのだ。そして前述の如く、客のネタの把握度が高まり、敢えて言うが、決勝でももっと笑いを取れたのではと思うのだ。
▼しかし、どちらかと言うとドライな漫才だった彼らが今回は西田が抵抗することで、少し、ほんの少しだが人間味が出てウェットになった。更に期待が持てるコンビとなった気がする。ラスト何チャンス!?
ふう!漸く完了。
周囲は、或いはブログ内は喧しいが、参考にするものは一切無い。ただ、サンドウイッチマンの富澤くんの名前を間違えたことは不徳の致すところと陳謝する。
だが、それにしても掛かり過ぎ。もし今年も審査員を頼まれることがあったら、また書く。但し、もっと早く!

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