75の「沖縄ノート」の続きを書いていたが、その間にハプニング!正にハプニングが起きて、放送作家として他人の番組ですが、つい書かせて頂く。
3月29日。因みにそれは「沖縄ノート」判決の翌日、TBSの生放送特番「オールスター感謝祭‘08春」の中だった。番組終了間際の「ぬるぬる相撲」で次長・課長の河本(準一)が肋骨を折るという、正にハプニングが起きたのだ。
この相撲の企画は、今回が4回目か5回目だと思う。マットの上に、大の男が闘うに十分な広さ、且つこのコーナーを成功させる為に計算された広さの土俵が設けられ、そこにたっぷりとローションを撒き、更に体中に同じローションを被った選手がその土俵上でまわしひとつで相撲を取るのだ。足元は滑る。相手の体も滑る。この事により、小能く大を征し、小さな芸人がプロレスラーをも負かすのだ。
その時のメンバーまでは忘れたが、僕はたまたま第一回を目撃した。結果は企画意図が当って、選手は勿論、行司役を恐らく買って出たのではないかと思う西川きよし大師匠も司会の島田紳助もローションまみれになってこけつまろびつ、自分で笑わなしょうない状態で相撲と番組を進行していたのであった。
次課長の河本は一回目であったか、今回以前にも出演し、奮闘。プロレスラーの小川直也に勝つなど、その出来が良かった為にこのところこの企画のレギュラーとなっていた。
そして、今回は芸人チーム対プロレスラー軍の5対5の闘いであった。
その対戦と結果(左側がプロレスラー軍)
第一試合 ○AKIRA 対 フットボールアワー岩尾●
第二試合 ●獣神ライガー 対 たむらけんじ○
第三試合 ○越中詩郎 対 カラテカ矢部●
第四試合 ○佐々木健介 対 安田大サーカス●
第五試合 ●小川直也 対 次長課長・河本○
つまりその日、河本は小川直也のリベンジを受けて立ち、見事返り討ちにしたのであった。しかも、モノ言い取り直し後の一番みたいなおまけまで付いていた。しかしその時、運悪く(?)胸を強打、肋骨を骨折。全治4週間という診断を下されたのだった。
けれどその後の報道では、その2、3日後から包帯状態で仕事に復帰したようで、先ずは安心ではある。
一方、TBSは広報部が「リハーサルを重ねて放送には臨んでいるが、今回の事を受け、安全面を再確認し、番組制作にあたりたい」とコメントした。
これはこれで全く問題ない。
さて、「ぬるぬる相撲」!
単純な笑いだが、体を使った(この場合は使わざるを得ないのだが)激しいお笑いが僕は好きだ。所謂‘ドタバタ’である。これが出来る芸人は少ないが、僕はそれに挑む芸人さんも大好きだ。
ドタバタ,英語ではスラプスティックとなる。海の向こうにはバスターキートン(1895〜1966)というとんでもない人がいたが、我が国では喜劇王とも言われたエノケンこと榎本健一(1904〜1970)がその最大の体現者であろう。
そして、今の日本でそれに挑んでいると思うのは、ウッチャンとナイナイの岡村隆だと僕は見ている。頑張れ!
只、「ぬるぬる相撲」はキートンやエノケンの必死のドタバタと同じではない。計算の度合いが違い過ぎる。いや、計算の質が違う。
「ぬるぬる相撲」は出来るだけ相撲が取りにくいようにする。しかし、相撲になっていなくてはならない。選手が動きにくくて、だが十分動ける。その相反する如き両条件の最も均衡が取れた境界に向かって、道具やルール、段取りなど前もって出来るあらゆる準備を完璧にした上で、本番でのハプニングを期待する。そういう企画なのだ。
無論ハプニングが無くても、その企画が成立していなくてはならないのは言うまでもない。
一方、ドタバタは、主役にせよ敵役にせよ、或いはやられ役にせよ、全ての者が全ての動きを完全に頭と体に覚えこませ、同時にスタッフが役者さん達が台本通りに演技が出来るように、大道具や小道具、その他あらゆる仕掛けなどを完璧に用意し、更に、監督、役者を始め全スタッフが納得行くまで何度ものリハーサルを経て本番に入る。果たして計算通り、台本通りに出来るか。出来なければ撮り直し。それがドタバタだ。
ここではハプニングは不要だ。ハプニングは予期せぬ出来事で、失敗であり、一切排除されなければならない。
つまり、結論からいえば「ぬるぬる相撲」における河本の骨折は想定内の事で問題は無いということなのだ。
番組制作の現実にのっとって言うなら、この相撲で骨を折る人が出る可能性が全く無いとは番組関係者の誰も思ってないし、言ってもいないという事だ。だから矛盾する表現だが、飽くまでも想定内ハプニングなのである。
只、現場はシミュレーションも含め、土俵の硬さや、大道具など十分な点検をし、万全を期したことは疑はない。そこはあの番組を作っているスタッフを信頼する。(偉)
だが怪我人が出た。しかも骨折。お笑いなのに笑えないと言う人がいるなら、悪いがどんな番組だって骨折者が出る可能性はある。クイズ番組だって、トーク番組だって、料理番組だって。だからと言って番組収録は止めない。そこは現実的な線引きだ。危険度が高ければ、いくらテレビ局とて常識判断として止める。
只、近頃はその判断が厳し過ぎる、自主規制が強すぎるとは僕は思っているし、お笑い番組は多少の危険は承知でそこへ踏み込み、笑いを取りに行くことがままある。その一例が今回のぬるぬる相撲なのだ。
更に、希望的意見でもあるが、河本は名誉の負傷だと思っているだろう。その場では触って貰えなかったが、出来れば、もっと目に見えるような骨折をして、手でもブラブラになって紳助さんにツッコンで貰いたかった筈だ。僕は芸人とはそういう生き物、職業だと思っている。
お笑い芸人は仕事中の怪我を覚悟している筈だ。増してや体を使うゲームで。
だが現場はもし彼の手がそうなったら、即座にカットを変え、急遽別の進行を施すだろう。茶の間に、しかもバラエティで本物の骨折を見せる勇気はテレビには無い。いや、番組は何も局のイメージを悪くしたり、騒動を起こす為にやっているのではないので、当然の避難であり。全く正しい。
そして今、僕が懸念するのは、あの骨折の為に、あの感謝祭から「ぬるぬる相撲」が無くならないかという事だ。それでは河本の骨折も犬死に、正に無駄骨だ。それだけは是非無しにして欲しいのだ!
と言って、僕はあのコーナーを今のテレビから無くしてはいけない素晴らしいものだと思っている訳ではない。覚悟と準備は怠っていなかったのだ。なのにそれが起きたからって、安易にトカゲのしっぽ切りのようにそれを無くすことで対処して欲しくないだけだ。ま、あの番組のスタッフから「俺達を舐めるな!」という声が聞こえて来そうだが。(謝)
次回、再び河本があの土俵に登場し、当日最大の拍手で迎えられる事を願う。
さて、ここからは、以前から気になっていたこと、「NG大賞」についてだ。
つい先日、4月11日、TBSがまだそれをやっていた。但し「NG」とは言っておらず、タイトルは「オールスター赤面申告ハプニング大賞2008春」だった。
各局の詳しい経緯や背景までは知らないが、嘗ては何処の局(東京キー局という見方)も時期を選んでやっていたこの手の番組だが、現状は、フジが「NG名珍場面大賞」から「がんばった大賞」に変えて存続。日テレは当初から「ハプニング大賞」と言っていたが、途中「NG」を付加、現在は「女子アナ」や「ズームイン朝」に特化して継続中。テレ朝は最初「邦子と徹のあんたが主役」の中で「NG」を扱っていたが、1996年「秋の超人気番組NGビデオ大賞」をもってこの手の番組からは撤退している。そしてTBSは「NG大賞」から「ハプニング大賞」に移行して続けている。
因みに、テレビ東京にはこの手の番組は見当たらない。勿論、NHKには影も形も無い。でも一番あったら面白いのはここだろう。
各局色んな名前が出て来ているのは「NG」が曖昧なことの表れであるが。ここでは総じて「NG」とする。
「NG」とはNo Goodの略で、大雑把にいえば「失敗」である。そして、「失敗」としてこうした番組の中で扱われるのは、
@ドラマ撮影での演技、台詞の失敗
Aニュースでのアナウンサーの読み間違い
Bバラエティ番組での予想外の出来事
概ねこの3つに分類される。
この中では@こそが本来的なNGで、このNGは必ず撮り直され、NGシーンは「NG番組」でしか見られない。
AもNGであるが、これは番組自体が基本的に生の為そのままオンエアされてしまう運命にある。
さて、Bは幅が広い。小道具が予定通りに動かなかったり、動物が暴れ出したり、ゲームやクイズのルールを理解していないタレントがいたり、時にはカメラが倒れたりなどスタッフの失敗もある。結局これらは時と状況に応じてオンエアされたり、カットされたりする。厳密に言うなら、これらはNGというよりハプニングであり、このあたりに番組名の変更への原因が見られるという訳だ。
さて、ここで僕が先ず問題にしたいのは@の場合である。
これは殆ど役者の失敗と言っていい。僕はずっと思って来た。これをオンエアすることは是非止めて欲しい。止めるべきだと。
ドラマのNGシーンを見せられると、視聴者はその役者の意外な一面を見せられたような気になり、その人に親近感を持つ。或いは、現場の楽しさを味わったような気になり、番組に愛着を感じる。
だが、失敗は失敗だ、役者としてはあってはならないことだし、台詞はちゃんと覚え、演技は自分のものにし、出来るだけそんな事は無くすべき事の筈だ。そうして役に臨み、本番に挑むのが役者の在るべき姿だ。
それが「NG集」により、別にあってもいい事になってきている。役者として恥ずべきことで無くなってきている!それってどう!
僕は想像する、役者が台詞を噛んだ。すると共演者が言う。
「○○ちゃん、これ絶対NG大賞!」
現場が和む。だがそこからは、役者としての力を付け、名俳優、大俳優と言われる人達に少しでも追いついて、観客に感動を与えるような芝居が出来るようになりたいと、真剣に苦悩し、そして大きくなっていく役者は出て来ない!
恐らく、健さんも、小百合さんも、黒澤さんもあなたの「NG集」を流したいと言ったら、泣くか、憤死するだろう。当たり前だ「NG」は「OK」の反対なのだ、商品ではありえない。恥を売って生きていく考えなど毛頭ある訳が無い。それがプロだ。
只、「だってこれテレビだから」と言われると、そう考える人がいることは否定しないが、僕はその考え自体を否定する。
さて、Aは不可抗力だ。
Bだ。この中にはお笑い番組が入って来る。これも問題なのだ。
11日の「ハプニング大賞」ではダウンタウンの「リンカーン」がエントリー(?)していた。中身は、
〜上から落ちてくる金ダライをボタンの操作で、頭に当てないようにどれだけ頭に近いところで止められるか〜
と言うゲームであった。
オンエアに採用されていたのは、DonDokoDonぐっさんがボタンの操作方法を理解していなかった失敗(?)と、サマーズ三村が良いタイミングで頭にタライを落としていたものだった。
前者はまあ失敗と言えば言えなくはないものだが、ボケでもある。後者はルールとしての失敗は犯していたものの、ゲームを台無しにしたり逸脱したりした訳ではなく、失敗でもハプニングでも無いものだ。
「ぬるぬる相撲」の所でも書いたが、(道具やルール、段取りなど前もってやるべきあらゆる準備を完璧にしたう上で、尚、本番でのハプニングを期待する)のが芸人の芸人による芸人の為のゲームなのだ。
だから、そうしたハプニングが時に余りにタイミング良かったり、はまったりしたら「笑いの神が降りた」などと言うぐらいで、つまりは全く失敗とは異質のものなのだ。
結論的には「お笑い」にハプニングや増してやNGは存在しないと言って良い。
だって、芸人さんが意図的に、或いは打ち合わせの上で失敗をやったりするのだから。
と言う事で、今後、「NG大賞」的番組にはドラマとお笑いからは出品が無いようにならないだろうかという、構成作家としてはあるまじきことを願う僕なのだ。
さもなければ、河本の「骨折」をハプニングとして出して頂くかだ!

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