大変だ!大変だ!大変だ!何が大変て、イチローが大変だ!今日(現地時間8月29日)のミネソタツインズ戦で、何と2試合連続無安打!これで10年連続200本安打の世界記録には、残り32試合で35安打しなければ!
頑張れとしか言いようがない!
そして、2010年、8月30日お昼現在、大阪の源八橋に近い僕のマンションの玄関の上がり框にまだそれらは置いてある。
――リサイクルショップで買った碁盤
――嘗ての彼女が呉れたオムロンの体重計
――隣の酒屋さんから借りた一升瓶ケース
――空の段ボール箱
――僕が持っていた1987年版現代用語の基礎知識
――ドンキホーテで買ったヤクザの鯉口シャツ上下
――同じくドンキホーテの豹柄のヤンキーの雪駄
――空堀商店街で買ったピンクの腹巻
――今回の為にヒールを高くした男物ブーツ
全部、「キングオブコント」(以下KOC)2回戦の残骸である。
もったいぶらないで言うと、コント『塩梅』の小道具である。
正直、片付ける気にならないのだ。
もうショックは癒えた筈なのだが。普通に仕事はしているし。周りからも、結構笑われて、最早、ネタにもされたりして、それなりに免疫のようなものさえできているのだが。勿論、2回戦に落ちたぐらいで何を仰々しいと言われることも分かっている。それでも何故か、負けて帰って来て、そこに置いたままなのだ。ちょっと情けない。
――でも、これで僕がひとり暮らしではなくて、嫁がいたり、子供がいたりすれば、「何これ、いつまでこんなとこに置いとくつもり。早く何とかして!」などと言われて、早々と何処かに仕舞うか捨てるかしたのだろう。
事ほど左様に、ひとり暮らしは気侭で気楽です、が、そのうち、そうやって放っておいたもの自身が存在を主張し始め、鬱陶しい存在と化すのですが、そうすると今度はこちらが依怙地になり、片付けや始末を拒み、また再び無視が始まり、やがてそのスパイラルが安定し、遂にはいつまでも死体を放置しておくような、ひとり暮らしのみに生じる暗渠に陥ってしまうのでしょう。つまりひとり暮らしとは懈怠と快感と破滅の波状攻撃の内にある薄暗い巣窟なのであろう――
さて、7月21日のKOC1回戦を勝ち抜いた僕らは、2回戦用のネタ作りに入った。1回戦用には6本を作ったのだが、今度は時間が無いこともあってそれよりは本数は少なかった。
『
誰でもいい!』
『無神論の男』
『出動刑事』
という3本。
そして、早々に、『出動刑事』で行こうと決めたのだが、ある夜の稽古終わり、台本にするまでには至ってなかったが、僕の頭の中にはあったネタを、こんなモノもあるよと僕が口走った。すると何度も稽古に付き合って、応援してくれている塾生、十期の島田(真央)がいたく「それがいい!」と言い出し、勿論のこと悪いと思っていないネタだったので、しかも、それは非常に特徴的なネタでもあり、強いては相方・原井も同調し、ちょっと冒険かもしれないが、この際、これで行こうと決まったのである。
そして、そのネタの為小道具を求めて、原井とふたり、リサイクルショップ、コーナン、Loft、東急ハンズ、はるやま、ドンキホーテ、天神橋筋商店街と歩き回ったのである。
その結果が冒頭の道具類である。
さて、僕たちの2回戦ネタ『塩梅』は台詞が無い。動きだけのネタだ。だが、「パントマイム」ほどには動きは誇張されない。謂わば無声映画風。今時は「ノンバーバル」と言うらしい。特徴的と言ったのはそのことだ。しかし、所詮は素人芸の域。訓練されて、鮮やかで、見事で、しかも滑稽な動きなどという訳はないのである。そこのところをお見知りおき頂きたい。
ではその、特徴的で冒険かもしれないネタ、『塩梅』の大雑把な中身の紹介。
その前に、このコントは台詞が無い分、全編に音楽が流れている。
「Main Theme from The Streets of San Francisco」
by JohnGregory Orchestra。
では、その、
■塩梅■
配役 X(若いヤクザ)=原井宣亮
Y(年寄りのヤクザ)=かわら長介
――Xが飲み干して捨てた空き缶がYの頭に当たる!
――「お前が捨てたんだろう、お陰で見ろ頭に傷だ!」とYが怒るが、Xは「俺じゃない」と取り合わない。
――詰め寄るY。だがXの背は圧倒的に高く、Yの頭はXの胸のあたりだ。
――ここから、YがXと対等に闘う為に色んなものを持って来てはそれを台にしようとする。
――しかし、最初の段ボールの箱は潰れてしまう!
――では、もっと頑丈なのをと、碁盤を持って来て置く。
――次に、その上に一升瓶ケースを置き、それに乗るが高過ぎて震えだす。Yは高所恐怖症だったのだ。
――Xに頼んで、下ろして貰うY。情けない顔だ。
――次に持って来たのは、何故か体重計。これは遊んだだけ。
――最後、自信気に持って来たのはぶ厚い現代用語の基礎知識。
――碁盤の上に載せ、その上に乗るが、どうもまだしっくりこない様子のY。
――やがて何かを思いついたようだ。おもむろに本の1ページを破り取る。
――大いに納得し、それを再び碁盤の上に置く。
――ここでBGMは止まり、無音状態に。
――そして再度本の上に乗る。と、「これで高さ丁度よし!」という顔をするY。
――「さあ、殴り合おうやないか!」とXを挑発するY。
――Xも「やったろやないか!」とYに迫って行く!
――この時、ふたりの背丈はYの方がやや高い。
――いよいよ、殴り合うかと見えたその時!
――YがXの顔を持ち、強烈なキス!
――チューポン!というキスの音(効果音)がして、気絶するX!
――「やったァ!」という得意顔のY!
如何!
実はこれには元ネタがある。日本人ではないピン芸人のネタで、ピアノ奏者が、ピアノ演奏をしようとするのだが、どうも椅子の高さが合わない。自分の背を曲げたり、逆に背筋を伸ばしたりするがダメだ。そこで、仕方なくぶ厚い辞書を持って来てお尻の下に敷く。それでももう一歩しっくり来ない。と、その時、何やらひらめきが!やおら辞書の1ページを破り取って捨てる。再びそれを椅子の上に置き、その上に腰を下ろす。と、何とぴったり!意気揚揚と演奏を始めるピアニストだった。
というもので、昔、『突然ガバチョ』時代に笑福亭笑瓶くんに聞いたものなのである。
それを今回、換骨奪胎(?)して挑戦した僕たちだったという訳である。勿論、元ネタの方が優れているし、換骨奪胎が上手く行ってるかどうかは、僕らとしても自信のある所ではないが、素人が台詞で行くより、見た目だけでもインパクトを与えようと意図的な選択をした末のネタだったのだ。
だが落選!敗因は・・・・・
下手だったのだろう。こちらが意図したひとつひとつの動きが何を表しているのか可なり伝わらなかった、ということではあるまいか。
しかし、それとは別に実は僕らの側に、明らかな失敗があった。
このネタは上記の曲を一曲まるまる流して演るのだが、曲の演奏時間は2分45秒だった為に、全く編集しないでそのまま使った。上の台本に照らし合わせていうと、曲が終わってから最後のキスまで約10秒でやれば3分と言う制限時間内にきっちり収まるし、何より、そこさえ守って演技をすれば時間超過と言うようなことを気にしないで出来るという利点もあるとさえ考えていたのだ。
ところがである!余りに本番の舞台が小さくて、Yの何度かの袖の出入りの時間が稽古の時より大幅に短縮され、最後のキスで待ち時間ができ、テンポと間の悪いラストになってしまったのだ!
しかし、それが敗退の最大の原因ではない。やはり、下手だったのだ。無声コントとして全体が伝わりにくいものだったのだ。
勿論、本番用の舞台でリハーサルなど出来ないことは分かっている事だし、他のどの出演者もそれはできないのだから、舞台が狭い事にも対応できるネタ、もしくは対応できる力が要ったのだ。悔むのみだ。
しかしだ!そんなこんなも含め、「大変勉強させて頂きました」というのが、嘘偽りのない反省であり、同時に収穫なのである。
その収穫だと僕が考えるものを躊躇無しに書いてみる。
――舞台経験があるということが如何に強いのかということを今更に知った。勿論、芸人を長くやっている、つまり、長年人前でネタをやり続けているということの凄さや価値と言ったことは、業界に居ながら、お笑い作家を続けながら芸人への最大の尊敬として持っている。しかし、その感慨を今回の経験の挙句に、長くても短くてもと、少々、いや、大いに改変(改心)させられたのである。極論すれば、例え一回でも多くお金を取ってプロとして人前で芸をやった者は、それより一回でも少ない者たちに尊敬されるべきだということだ。ましてや、今回、僕たちはアマチュアであったのだ。端的に言うなら、舞台を経た芸人さんは凄いという、今更のことを、頭でなく体で実感したのである。
――だが僕にも少々だが舞台経験はある。コント、漫才、芝居。けれど今回のようなContest=競争ではない。所謂自主公演の類だ。そして競争であるから敵がいる。直接にボールを投げ合ったり、体をぶつけ合ったりはしないが、敵=闘うべき相手がいる。しかも僕ら以外が全部敵!なかなかの状況である。そしてその敵どもは、僕らとは違ったアマチュアではない眼をしてこちらを見ている。しかもなりふり構わない奴。虎視眈々な奴。悠然と構えている奴。卑怯狡猾な奴。いずれも強敵だ。当たり前のように皆、僕より若い。しかし、若さ故だけではなく畏い奴らなのである。僕とてもある覚悟と決意を持って出場したのだが、そんな砂楼は一顧だにしない、現欲の持つパワーが彼らにはあるのだ。その色や、形や、或いは意義や価値はそれぞれだし、いっそ唾棄すべき奴、否定したい奴もいるが、仮に彼らが飢えたライオンだとすれば、僕らはお腹はすかしてはいないが、せいぜいハイエナかハゲタカであろう。必死さが違うのである。自信のない僕たちが必要以上にそれを感じたのかもしれないが、その凄味を教えられた気がした。
――人が何かをやろうとした時、大抵の場合、理由と目的がある。今回の参戦理由は(前編)に書いたように、2回戦敗退の身ではおこがましいので来年以降に持ち越しにさせて頂いた。だが目的は書く。勿論、それとても理由同様に中途落選者にはおこがましいことではある。で、WHYNOTは「台本で勝とう」とした!僕らは作家である。作家が十分なネタを作れば勝っていけると想定した。ネタが強ければ勝てると、そこを目指した。そして、当ては外れた。僕らはコンビ歴が浅い。但し、何年何月何日にコンビ結成というような歴史的瞬間はない。今回の為に5月頃に意志を確認しやがて稽古が始まった。だから演技力はない、コンビの間は出来ていない、声は小さい、人前で一度もネタをやったことが無い、知名度が無い。無い無い尽くしだ。若いとはいえ、既に芸人として舞台に立っている人達のように腕も、キャラも無く、舞台を自分達の空気にすることなどできない。分かりやすく言うと、舞台に出た途端、「誰これ?」である。無論、そんなことは分かっていたことで、覚悟の上である。落選の理由をそこに押し込む訳ではない。だからそんな僕らが勝つ有効な方法は、「強いネタ!」である。そして僕たちは作家。「ネタは強くあるべきだ」と、そこを頼りに、そして目標にして正面突破を敢行した。再び書くが、敢え無く敗退!出来るだけの時間と精力を費やしたが僕らとて完璧なネタを作ったとは思っていない。「強いネタ」ではなかったとは断言できない。結局、敗因は芸が未熟だったことだと僕は思っている。まあ、自己弁護、手前味噌、責任回避だと言われるだろうが、これは僕の率直な実感なのである。
――ところで、「強いネタ」とはどんなネタか。その答えはコンビごとに、或いはコンビでもそれぞれが違うモノであろう。僕の場合それは「伝えたい何かがある意図的なネタ」ということになる。それは内容には限らない、形式においてでもそれがあるなら、それは「強いネタ」である。では「弱いネタ」とはどんなネタであるか。僕に言わせれば「ナ〜ンにも無い、何でそれをやるのか分からないネタである」。だから敢えて言うが、「笑いが取れるネタ」は僕にとっては必ずしも「強いネタ」ではないのである。分かり易く言うと「伝えたいネタ」と「笑いが取れるネタ」なら、僕は前者を目指すということだ。勿論、これは大いなる、そしてお笑い作家になった頃から持っている自論で、僕も笑いは取りに行くが、その為に意図を曲げることはしないというだけだ。
――上のことを踏まえて、今回、終わってから、或いはその前から、色んなところで、参戦している芸人も含めて色んな人から、「やっぱり笑いが要る」「笑わさないと」と言われた。そんなことは分かっている。誰もが、勿論、僕たちも笑いを取りに行った。しかしここで重要な事は「やっぱり笑いだ」という言葉の向こうには「客に合わせなくては」という意味が含まれていることだ。そこに疑問と反感を感じているから、僕たちは続けて意図的な、ブラックな、固いネタで最大の笑いの取れるコントを目指す!
――そして、結局、僕たちが未熟で下手であることは来年になっても大きくは変わっていまい。勿論、この1年テレビに出られるわけでもないので、知名度も上がりはしない。舞台へ出た時の疎外感は相変わらずであろう。だが、それらを覚悟し「台本で勝つ」を合言葉に僕たちの笑いを徹底させるのみである。
と、まあ、反省だ収穫だと言いながら、相当寒い、青い、臭いことを書いた。書かずもがな、言わずもがな、吹かずもがななことである。しかも、2回戦敗退の分際で!
しかし、考えても下さい。これを優勝してから言ったら・・・・・!
はい、そうです。優勝してからなんて思うことがおこがましいというか、ド厚かましいというか、心臓だが、今この時に言った方がふてぶてしくないというか、鼻もちならなくないというか、傲岸不遜じゃないんじゃない?え、それが傲慢だって。ま、そうかも。結局、言いたいことを言うしかないんです。
にしても、来年に向けて、ハードルは上がったな。
そのついでに、この思いの筆剣で、今年の「KOC」決勝は歯に衣着せず、各コントについて書かしてもらう!
それこそ更にハードルを上げる行為でしかないが、ダメなモノはダメだって言わせて頂く!
その決勝は9月下旬!
最後に、来年もキングオブコントがありますように。
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ところで、8月に入って僕たち「WHYNOT」のネタは決まったにも拘らず、僕たちの2回戦の日は決まっていなかった。
1回戦を突破すると、希望日を事務局へ届け出る。大阪の2回戦は8月8日(日)、9日(月)、10日(火)の3日間で、会場は共に大阪国際交流センター。僕たちは10日を第1希望に、9日を第2希望にして書類を提出した。
どの日になるかは「KOC」のホームページに発表される。稽古を続けながら、いつになるのか毎日、毎日、そのHPを覗いたが、今日もまだだと言う日が続いた。
結局、その発表(決定)があったのは8月6日。そして、僕たちは第1希望の10日にエントリーされていた。
やれやれである。しかし、この決定、直前過ぎないか!!!
僕たちは、10日だったから、まだ4日ある。しかし、これが第2希望の9日だったら3日しかない!もし、希望が容れられなくて8日だったらどうする!
あさってだぞ!
この不安と怒りは笑いごとではない。僕たちは運が良い方だったようなのだ。現実に第1希望が10日で、第2希望が9日なのに、8日に回されたコンビがいたのだ!これ事実です。
その調整は明らかに不親切で不行き届きだ。キングオブコントがお笑いを目指す若き芸人達を育てよう、応援しようというならこの思いやりの無さは是非改めるべきだ。最悪、希望日が聞き入れられなくても発表は1週間前にはすべきだ!
僕は若くないけど、予選を経験した者として、そしてお笑いを作る者として、キングオブコントの事務局へ断固訴える!
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最後に、告知!
■魁塾全体公演『ドレミテ・モ・ナゲテル』
9月10日(金)ワッハ上方(5F)ホール
17時半 開場 18時 開演
当日1300円 前売り1500円
※こちらは只今、精力尽々で制作中!台本は全部塾生が担当。吉本の若手、松竹の若手の皆さんのノーギャラでの出演という応援に支えられて実現できます!尚、WHYNOTも出ます!
もうひとつ!
■コント衛門2〜望郷公演〜■
10月9日(土) 弁天町『世界館』
18時 開場 18時半 開演
前売り2000円 当日2300円
出演 帽子屋お松 街裏ピンク 松本よし坊 WHYNOT 他
※昨年、京橋花月で第一回をやりましたが、その第2回!場所はやや辺鄙ですが、コントには贅沢なくらいの会場です。そしてかわら長介的面白さは前回の数倍!ぜひお見逃しなく!

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