2012年が始まった。しかし、今日はもう1月の23日です。辰年。僕は相も変らぬ陋頭でこんな年賀状を出した。
二〇一二年私家版『竜・龍』辞典
威龍【いりゅう】中国製の精力剤。超威龍、超皇帝威龍と上級品もある。高いものだと8回分で5万円ほど!女性には新発売「女龍」があります。説明書をよくお読み下さい。
九頭竜【くずりゅう】映画『座頭市と用心棒』に出て来る殺し屋。九頭竜という名の短銃が武器。演じたのは若き日の岸田森。用心棒役は勿論三船敏郎。両雄は対決するが・・・きっと、黒沢明が『用心棒と座頭市』って撮った方が面白かっただろうな。
紫龍【しりゅう】大阪の役者。本名は伏す。顔がデカイ、コワイ、ヤバイ!その分存在感は半端ない!僕の芝居に何度も出て頂いた。
紳竜【しんりゅう】漫才コンビ。島田紳助・松本竜介。おふたり共にお世話になりました。急のことでお礼が言えてません。
第五福竜丸【だいごふくりゅうまる】世界で唯一、水爆の死の灰を浴びた漁船。張本人はアメリカ!今、地球を核で汚染しているのは米、露、英、仏、中、印、北朝鮮、巴基斯丹。ここに今回の福島原発の日本も入る!誰かが言った「最早地球は核汚染ありきの星だ」
たくらだ龍【たくらだりゅう】龍に似る。龍狩りの時、不意に飛び出して龍と間違えられて殺される空想上の生き物。転じて間抜け。
龍兵団【たつへいだん】1944年、ビルマの拉孟で大本営の作戦ミスの為玉砕。玉砕は硫黄島のように島玉砕が普通なのだが、これは世界にも珍しい陸玉砕。陸続きやのに逃げられへんかったんかいっちゅう話や!東条英機の戦陣訓「虜囚の辱めを受けず」効果覿面なり!
独眼竜【どくがんりゅう】東北を代表する武将、伊達正宗の異名。彼の遺訓「気長く心穏やかにして、よろずに倹約を用い金銀を備ふべし。倹約の仕方は不自由なるを忍ぶにあり、この世に客に来たと思へば何の苦しみもなし」結構、生活派、庶民派なんだ。
伏龍【ふくりゅう】大平洋戦争終戦間際に着想、完成した特攻潜水具。別名人間爆弾。それを着た兵隊が海に潜る。ザッブーン!5mの棒の先に付けた機雷で敵戦艦の船底を突く。ボッカーン!しかし実戦前に敗戦。生まれも見た目も漫画!窮すると鼠は猫を噛むが、人間はトンデモナイ物を作るみたいだ!いやはや戦争は喜劇なり。ドッカーン!
さて、年賀や初夢や初○○がどうであれ、今年はナントカしたいと誰もが思うのが新年である。勿論、僕も。
だが、日本に限って言えば、よりそう思ったのは東日本大震災の被害に遭った方々だろう。8ヶ月が経って被害はある意味慢性化したと言っていい。ある種の慣れだ。だからこそこれからが恐い。非力や無力感に負ける人々が出てくるからだ。頑張って来たが変わらぬ現状に心を砕かれるのだ。それを少しでも食い止めるのはやはり国だ。だがそのお国は、元凶の原発をこれからも稼働、増発させようとし、あまつさえその破綻した技術を輸出しようとさえしている。あってはならないことだ。それをあのドサクサに生まれた我が総理大臣は臆面もなくやろうとしている。野田佳彦は山本太郎の子供と将来を見つめる目の万分の一でもいいから自分のものにすべきだろう。山本のあれが普通の人間の感性であり親の取るべき、示すべき道だと思うのだが。
反省しない国、謝らない国、未来を見ない国。繰り返すなら、総理が反省しない国。総理が謝らない国。総理が未来を見ない国。僕はこの国に生まれたことに危険を感じるとともに、恥じる。無論、僕のそんな心象で済まされることではないが。
そして、2012年最初の「たくらだ堂」は恒例?「恣意的かわら長介去年の年間お笑いベストテン」です。
しかしだ、去年はお笑いは不調だった。その何処かに3・11東日本大震災の影があったのではと思う。具体的に、あの番組がとかあのイベントがとかは上げられないが、自粛が働いていたことは間違いがないし、聞く側見る側にもそんな気分を許さない負の情が知らず知らず生じていたはずだ。
そんな影響下、「M−1」の後を受けたと言っても良い「THE MNANZAI」は、僕の期待を全く裏切って惨憺たるものだった。
実はあれの放映後、『AERA』編集部から、あの番組に対する感想意見を聞かせて下さいと言う電話があって、当局はインタビューを申し入れて来たのだが、時間の都合もあり、またインタビューだとこちらの思いが既に在る編集者の予断によって、僕の考えとは違うことにされそうで――AERA違うかもしれにアが、インタビュー取材ではそういう経験が多い――原稿にして編集部に送らせて貰った。それがこれである。編集部からは丁重なお礼の言葉は頂いた。
■2012・第一回THE MANZAIを思う■
決勝戦は全部で20本の漫才が並んだ。僕はその中にどれだけ漫才を自己表現の手段としているコンビ、或いはネタがあるかを期待し睨んでいた。自己表現は難しいことではない。自分の意欲と感性を作品に入れればいいのだ。
例えば、20本の中に自分の(欲望)をテーマにしたものが多かった。
・テンダラ―(映画に出てもてたい)
・チキチキジョニー(芸能人に生まれ変われるなら)
・Hi−Hi(引っ越しがしたい)
・学天即(大河ドラマの主役をやりたい)
・パンクブーブー(新聞の勧誘をやりたい)
などだ。欲望は自己表現をするには打ってつけの素材だ。
欲望を果たそうとする時、現実はおいそれと行くものではない。そこには軋轢や不自由や反対などの障害がある。そうした現実への視点を持てば自己表現は可能だ。
しかし、今回の漫才には、それは欲望を題材にした漫才に限らず、僕が期待する現代性や社会性、そして批判性はなく、ただただ太平楽な漫才を見せられただけだった。
21世紀の日本、わけても2011年の日本は打ち続く不況に東日本大震災とそれが生んだ原発禍。その過酷と悲惨を知った上で漫才と言う表現行為をやるなら、何がしかの責任は感じなければならないだろう。――それは地震や津波や原発をネタにしろと言うことではない――今、この時代に、この日本で漫才というお笑いをやる意義と責任は漫才師自身が問題にしなければならないことだろう。勿論、僕たちお笑い作家もだ。
つまり笑いを出世の為の目的とするのではなく、手段にすべきなのだ。頑張れMANZAI!
後は、優勝したパンクブーブーのレギュラー番組が成功することを願うのみだ。THE MANZAIの価値はそこにもあると考えるからだ。 以上。
「THE MANZAI」の空間に2011年の日本を捉えた漫才は無かった。それが難しかった2011年であったかもしれないが、漫才師が漫才を信じるなら何か手立てはあったろうと思ったのだ。
ただ、この漫才特集はお蔵入りになった。原因は金正日の死であった。『AERA』編集部が漫才と金正日のどちらを採るかは自ずと知れたことだ。勿論、謝罪の一報は頂いた。恐らく僕以外にも取材を受けた人はいただろう。お笑い関係の人ばかりでなかったかもしれない。その人たちの意見も聞きたかったが、致し方無い。
前振りが長くなったが、お笑い不作の2011年から何とかマイベストテンを探ってみた。
【10位】ABC60周年記念特番「復活すんげー!ベストテン!」(2011・1・3放送)の「すんげー!5up」より『屋上』
出演・モンスターエンジン西森、ソーセージ藤本、和牛(水田・川西)
番組は嘗ての人気番組「すんげえー!ベストテン!」(1995年1月〜1997年9月、司会:千原兄弟)をABCの60周年に千原兄弟も含め当時の出演者も勢揃いで復活させたもので、その中に今、5upで頑張る若手芸人のユニットコントベストテンも参加させ、この作品はその1位を獲ったものである。
屋上から飛び降り自殺を図ろうとする男(水田)を阻止せよという命を帯びた西森がまんまとその責務を果たす2分ほどのコント。その西森の衣装とメイクとキャラの勝利である。常々僕は彼の扮する者にハマってしまう。神々は勿論、落ち武者、仮面のヒーロー、そして漫才の「地獄を知ってる男」。
僕は嘗ての「すんげー!」にも、今回の「復活・すんげー!」にも作家として入れて頂いたが決して身内贔屓ではない。その証拠に、元祖メンバーのユニットコントに面白いものは無かったと言わせて頂く。勿論、残念です。
【9位】オールザッツ漫才2010(2010・12・29放送)より、かまいたちの「替え歌」コント
元歌に対し揶揄的であることに「替え歌」の命や面白さがあり、その批評性が笑いに繋がるのだが、山内の替え歌は、元歌を超えて情感があり、歌詞もマジでおよそ「替え歌」らしくない。いっそカッコ良過ぎて寒い。山内ののりと相方濱家の反応が相まって短いが秀逸なコントだった。
因みに、その替え歌は、
「どんぐりころころ」を
♪時折見せる 君の笑顔
奥にさみしさ 隠れている
とか、「ひょっこりひょうたん島」を、
♪星のかけらを集める旅人は
夜の町さえ 輝く海にする
と言った調子だ。
山内の性格、嗜好を判らせる前ネタを付けて5〜6分にも出来るコントであろう。それか、僕なら「替え歌」の後に、「替え母」とか、「替え下駄」とか、「替え無駄」とか加えるかな。
【8位】『コント衛門・3』より、WHYNOTのコント「夕暮れの親子」
ハイ、すいません。自画自賛です。WHYNOTとは僕と塾生の原井亮宣のコンビのことです。
では、毎度、その台本です。
『夕暮れの親子』【登場人物】
・父 牛尾 要蔵(61歳)
・息子 牛尾 実 (28歳)
M=ノスタルジックに
――家の近くの路上、息子の実が父親の帰りを待っている。
息子「父ちゃん、今日は遅いな。あ、父ちゃんだ!」
――下手から、仕事帰りの父親現れる。完璧肉体労働者だ。途中で1回転する。何か考え事をしているらしく、近くに来るまで息子に気が付かない。
息子「お帰り、父ちゃん!」(おどかすように)
父「お!実か。こんなとこまでお迎えか」
息子「そうさ。でも、こんなとこに来るまで、
父ちゃん、気が付かなかった」
父「悪かったな。ちょっと、考え事をしてたんだな」
息子「へえ、何を考えてたんだ?」
父「何を!何を!何を!お前と同じ事さ」
息子「ということは、あれやろうと思ってたんだ!」
父「あれとは?」
息子「頂きぃ!」
二人「ジャンケン!」
――いきなり、じゃんけんを始めるふたり!
二人「最初はグー!ジャンケンポン!」
――父が負ける!
父「あ、くそ。負けた!」
息子「よっしゃあ!さあ、何を頂けるのかな?」
父「よし、思い出の詰まった左足をやろう!」
息子「やった!、欲しかったんだ!
けど、思い出は要らない!」
父「子供は残酷だ。だが、負けないぞ!」
二人「最初はグー、ジャンケンポン!」
――二回目〜勝敗が付く!息子が勝つ。
息子「ワーイ、今度は何処を貰えるのかな?」
父「ようし、右目だ!」
息子「右目!ううんと・・・右目なのに、真ん中にボン!」
父「やっぱり、目が3つだと、そうするよな。
でもジャンケンは続く!」
二人「最初はグー、ジャンケンポン!」
――何回かの応酬があって、三回目!父が勝つ。
父「ようし、今度は何を頂けるのかな!」
息子「では、僕の左を上げよう」
父「息子の左を貰ったので、息子の左へ行ってみる」
――息子の左側へ移動する父。
そして、四回目のジャンケンへ。父が勝つ。
息子「じゃ、今度は、鼻をあげよう!」
父「臭いが倍になるぞ!
その臭いのお陰で、乗ってきたぞ!」
息子「僕もノッテ来た!」
――五回目!
二人「最初はグー!」(とやり掛けるが)
息子「(突然)飽きたな。父ちゃん、俺、これ飽きた」
父「急!だけど、そう思って、父ちゃんは
忘れようとしても思い出せないモノを
思いついておいたぞ!」
息子「流石、俺の父ちゃん!」
父「あれやってみたかった!」(右腕を上げて叫ぶ!)
息子「あれやってみたかった!」
父「実、電話を貸せ」
――息子、携帯電話を出して父に。
父「お前の番号は?」
息子「090―3491―5458」
父「だったら、090―3491―5457!
(と、プッシュして、携帯を耳に)
出るかな、出るかな、お、出た!
そちら090―3491―5457ですね。
おめでとうございます。前後賞です!」
――電話を切る。そして、息子に返す。
父「これやってみたかった!」
息子「判る!じゃ、俺!エアー恵方寿司!
今年は北西!」
――北西を向いて、エアー恵方寿司!(長い巻き寿司を食べるマネ)
父「息子が、あんな関西だけの特殊な風習を!
いかん!ええい、こんなもの!」
――息子の食べていた寿司を奪って投げ捨てる(マネ)父!
SE(音効)=ぴゅ―!(モノが飛んでいく音)
息子「あ、恵方寿司が、全く逆の方向に!」
SE=ドカーン!(爆発音!)
父「関西の風習には馴染ませない!」
息子「父親の愛!
じゃあ、それに甘えて、もう一つ。
実のあれやってみたかった!」
父「実のあれやってみたかった!」
息子「エアー思い出し笑い!」
父「エアー思い出し笑い!息子は成長している」
――息子、エアー思い出し笑い。
息子「ウフッ!」
父「わ、息子の思い出し笑いに、思わず貰い笑い!
だが、人間、思い出し笑いでもいい、笑えるうちは。
バイ、相田みつお!」
息子「わ、あいだみつお!
じゃ、続けてもうひとつ。
つまずいたっていいじゃないか、人間、けだもの。
バイ、相田みつお!」
父「いろいろあるんだな、人間 けだもの。
バイ、相田みつお!」
息子「愚痴をこぼしたっていい、弱音を吐いたっていい、
人間、けだもの!バイ、相田みつお!」
父「人間だけ、けだものだもの、バイ、相田みつお!」
息子「人間だけ、だものもだけ、断言に!
バイ、相田みつお!」
父「人間なんて!♫ららららら〜ら!バイ、吉田拓郎!」
息子「人間革命!りん・ぴょう・とう・しゃ・かい・
ちん・れつ・ざい・ぜん!バイ、池田大作!」
父「わ、息子の意外な一面を見てしまった。
息子の・・・では、私は、私で、
私の意外な一面を見せつけることにした!
私は、憲法改正派だ!」
息子「わ、意外!」
父「だが、九条ではない!」
息子「わ、二重に意外!」
父「って言うか、日本国憲法じゃないし」
息子「意外!国外!問題外!」
父「更に、私は、例え息子でも臓器移植は拒否する!」
息子「え、それ、僕と一緒!」
父「何?ということは?」
息子「僕も、大人になっても、
例え息子でも臓器移植は拒否する!」
父「え、そっち?」
息子「勿論、例え、父親でも!」
父「父親。またひとりお笑い芸人が父親になった
というニュースを、ヤフーニュースで
やっていたニュース」
息子「待ち受け画面は子供と母親の2ショット!」
父「また普通の芸人が、ひとり、増えた!
プロジェクトX!」(ふたりでXの字を作る)
息子「普通の人間がふたりいれば、差別は起きる!」
父「大阪人がふたり寄れば漫才になる」
息子「どうも、WHYNOTです。
ところで、君ぃ、橋本知事って、どう思う?」
父「そんなん知るか!こっちは忙しいねん!」
息子「・・・・・・・・・」
父「そんな知るか、こっちは忙しいねん!」
息子「・・・・なら無い場合もある!」
父「メッセージの無い漫才は趣味を
見せられているようなものだ!」
息子「趣味は何ですか、と言う奴を信じるな!」
父「信じていた人から裏切られた!
信じていなければ裏切られなかったのに!」
息子「裏切り者は私の中にいる!」
父「私の中にもいる!」
息子「この中にもいる!」
二人「この中は恐怖だ!」
息子「喜怒哀楽に、もうひとつ、恐怖を入れろ!」
父「恐怖!私は、中途失明者にだけは成りたくない!」
息子「恐怖!私は、バットを持って、
両親の枕元に立った事がある!」
父「恐怖!スピーディワンダー!」
二人「奴は、速いぞ!」
――ふたり、ポーズ。と、その時
SE=カラスの鳴き声
――あたりは、すっかり暮れている・・・
息子「父ちゃん、カラスが鳴いてるよ」
父「もうそんな時間か、よし、帰ろうか」
息子「うん、カラスが鳴くから、帰えろ!」
――父、(上手へ)歩き出す。
息子「父ちゃん、今日は、そっちじゃないよ」
父「あ!」
――二人、奥へ歩いて、下手へ消える。
M=郷愁!
L=溶暗
おわり
2011・4・9 (第1稿)
2011・4・10(第2稿)
2011・4・16(第3稿)
2011・4・20(第4稿)
2011・4・21(第5稿)
2011・4・23(第6稿)
ま、こんな感じ。如何か?
恐らく、このコントの再演はありませんが、『コント衛門』はことしもやります。是非、おいで下さい。
そして、決して勿体を付けるのではございませんが、以下は次回。
はてさて、「たくらだ堂」2012年第1弾、賀状と共に!でした。

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