『ヨコヅナ・マドンナ』
イ・ヘヨン (監督)
イ・ヘジュン (監督)
リュ・ドックァン (主演男優)
ペク・ユンシク (男優)
キム・ユンソク (男優)
イ・サンア (女優)
イ・オン (男優)
パク・ヨンソ (男優)
チョナン・カン(草彅 剛) (男優)
2006年制作
2008年公開
☆☆

言わずと知れたMadonnaの大ヒット曲「Like A Virgin」(1984年)にまたちょっと異なる意味合いを持たせた青春ムービー。主演のポッチャリ君を演じるのは、『
トンマッコルへようこそ』(パク・クァンヒョン監督 2005年)で歌の上手い少年兵を演じていたリュ・ドックァン。この映画のために30kg近く体重を増やしたのだそうだ。監督・脚本は、これまでもコンビで脚本家として活動してきたイ・ヘヨンとイ・ヘジュン。本作が監督デビュー作。原題は「
천하장사 마돈나(チョナヂャンサ マドンナ)」、英題はもちろん「Like A Virgin」。
主人公は、歌とダンスの得意な、仁川(インチョン)の男子高に通う高校1年生の男のコ。性同一性障害(という言葉こそ使われていないが…)の彼は、いつかマドンナのような完璧な女性になろうと、性転換手術費用の500万ウォンを稼ぐために仁川港での力仕事のアルバイトに精を出している。酒びたりの父の起こした暴力事件の示談金のために貯金を使い果たしてしまった彼は、市の高校生シルム(朝鮮相撲)大会優勝者に贈られる奨学金が500万ウォンであることを知り、高校の弱小シルム部に入部するのだが…。

想像していた雰囲気とだいぶ異なっていた。オカマのポッチャリ少年が意外や意外、シルムで大活躍するドタバタお馬鹿コメディーを期待して観始めたら、「自分らしく生きたい」という思春期の強い想いをストレートに描写した、どちらかと言えば暗めの青春映画だった(もちろんコメディーではあるのだが)。映画の雰囲気としては、(僕は観ていないのだが)実在のゲイのムエタイ戦士の半生を描いた『ビューティフル・ボーイ』(エカチャイ・ウアクロンタム監督 2003年)に近いのではないかと思う。映像的には、コントラストを高めた強い印象を与える画面が多く、それが作品のもつ陰鬱とした雰囲気と「ここから抜け出したい」という主人公の切実な想いを表現しているように思う。

主人公を演じたリュ・ドックァンは、オカマ役を上手に演じていると思うのだが…、やっぱりどうしても男のコに見えてしまう…(それも、爆笑問題・田中似の…)。シルムの試合のシーンは吹き替えを使わずに役者たちが実際に相撲をとったそうだが、主人公が「自分らしく」というよりもどんどん「男らしく」なっていってしまうのが、映画のテーマを考えるとちょっと困った点。彼をただの「オカマっぽい男のコ」ではなく、本当に女のコなんだと思って観ることができれば、この映画を観た感想もまた変わってくるのかもしれない。

ところで、以前からシルム(
씨름)とはどういう競技なのだろうと興味をもっていたのだけど、やはり日本の相撲とはだいぶ違うようだ(モンゴル相撲や満州相撲の方に似ているのだそうだ)。土俵は日本の相撲よりも大きめで、硬い地面ではなくかなり深い砂の上で取り組みを行う。褌ではなく、パンツの上に「
샅바(サッパ)」と呼ばれる長い布を巻いており、選手は互いのサッパを掴み組み合った状態から勝負を始める。相手を倒すか、手を地面につかせれば勝ちになるのは日本の相撲と同じだが、土俵の外に押し出しても勝敗には結びつかないようだ。そのため、相手を吊り上げたあと投げ倒す必要があり、その時に巧みに身体を入れ替えられて(吊り上げた方が)逆に投げ飛ばされてしまうこともある。日本の相撲に比べて回転動作が多いように思うが、回転系の動きが多いというのが朝鮮の格闘技(例えば、テコンドー)の特徴なのだろうか。「横綱」に当たるチャンピオンを(タイトルにもなっている)「天下壮士」と呼ぶようだ。

シルム部の部長を演じていたのは、韓流TVドラマ『コーヒープリンス1号店』(MBC 2007年)に出演していたイ・オン。実際にシルム選手だった彼にとってハマリ役で、映画初出演だったようだが男臭い寡黙な先輩を好演していると思う。劇中ではほとんど笑顔を見せないが、最後の最後にニッコリ笑った愛嬌ある表情は『コーヒープリンス1号店』の「迷惑ミニョプ」そのもので、久し振りに彼の笑顔に会えたような気がした。
명복을 기원하겠습니다.

ところで、主人公が密かに想いを寄せている、高校の(男性)日本語教師を演じていたのが、SMAPの草彅剛でビックリ。「韓流映画にそれなりの役どころで出演しているのに、日本ではほとんど報道されていない」という話を聞いたことはあったのだが、この映画のことだったのか…。セリフ(もちろん韓国語)や出演シーンこそそれほど多くはないが、ストーリー上の重要人物を演じている。「日本語」に関しては、教材としての日本語の文字が画面に大写しになったり、テーマパークの「ロッテワールド」内のシーンで日本語案内の音声が背後で流れているのが聴こえたり、こんなに日本語の溢れている韓流映画を初めて観た。
今日の一言韓国語は、「
나는 뭐가 되고 싶은게 아니라, 그냥 살고 싶은 거야.(ナヌン モガ テゴ シップンゲ アニラ、クニャン サrゴ シップン ゴヤ)」=「僕は何かになりたいわけじゃない。ただ(自分らしく)生きたいだけさ。」 これが「私、何かになりたいわけじゃないの。ありのままに生きたいのよ」と聴こえたら、やっぱり感じ方が変わっていただろうな。
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「ヨコヅナ・マドンナ」公式サイト(日本語)

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