『シンソッキ・ブルース』
キム・ドヒョク (監督)
イ・ソンジェ (主演男優)
キム・ヒョンジュ (主演女優)
2004年制作
日本劇場未公開(?)
☆☆☆

『
氷雨』『
デイジー』『風の伝説』のイ・ソンジェ主演による、コメディー要素を含んだ人間ドラマ。イ・ソンジェ主演で、ちょっと期待しすぎたかな…。
冷酷なエリート弁護士の魂が、偶然同じエレベーターに乗り合わせ一緒に事故にあった、同姓同名の冴えない弁護士の身体に乗り移ってしまう。これまで立たされたことのなかった弱者の立場を身をもって経験して、強者としての自分の振る舞いに泣かされてきた人々の心の痛みを知る、という映画。
オリジナルタイトルも、「
신석기 블루스(シ
ンソ
クキ プ
ルルス)」。WEB上の翻訳サービスで訳してみたら「新石器ブルース」と出て笑った。ここで言う「シン・ソッキ」は人名で、2人の弁護士の名前。ちなみに、韓国では「ハングル表記で同姓同名」というのはたぶんそれほど珍しいことではなく、比較的よくあることだと思う。

この映画、イ・ソンジェに極端な醜男を演じさせるという、企画先行型の映画ではないかと思う。特殊メークを使ったその変身振りは確かに見もので、言われなければ彼だとわからないかもしれない。イ・ソンジェにこんな変な顔がつくれたのか!?という驚きのシーンがいくつもある。まぁ『
ほえる犬は噛まない』でその片鱗を既に見せていたわけではあるが。
ただ、映画として考えると、正直全く物足りない。中盤から後半にかけて、各シーンのつながりが不自然でいくつかのエピソードがそのまま羅列されただけ、という印象を受けた。また、致命的なのは、イ・ソンジェの変な顔ばかりが強調されていて、人間ドラマの部分が手薄だという点だ。そのため、極端に言えば、何をやらせても優秀なモテ男が突然何のとりえもない醜男に変身しちゃいました、というドタバタコメディーみたいな映画に終わってしまっている(しかも、ドタバタコメディーとしてもそれほど面白くない)。弱者の立場に立って初めて見えてくるものとは何か、それが見えてきたときに人間はどう変わっていくのか、それが充分に描かれていないように思う。だから人間ドラマとしては星2つなんだけど、見たことのないイ・ソンジェを見ることができたので星3つ(というわけで、「イ・ソンジェに極端な醜男を演じさせる」という企画は星1つ分だけ成功していると言える)。

相手役のキム・ヒョンジュは、なんとなーくソン・イェジンみたいな感じ。イ・ソンジェ演じる弁護士に完全に焦点を当てた映画なので、この女性についてもちゃんと描かれていない。人間ドラマとして考えると、彼女の役が女性ではなくて、男性だったりおじいさんおばあさんだったりしたとしても、この映画は成り立っていなければならない。だけど実際は、彼女が若い女性で、2人のシン・ソッキと恋愛関係になり得る存在である、という設定によって成り立っていると思う。そこにこの映画の人間ドラマとしての弱さが表れている。
レンタルで借りてきたDVDにはハングル字幕表示のオプションがあった。
今日の一言韓国語は「
좋아하니까요 사랑하니까요(チョアハニッカヨ サラ
ングガニッカヨ)」=「好きだからです。愛しているからです」。震えるような声で言うこと。

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