『ウリハッキョ』
キム・ミョンジュン (監督)
2006年制作(?)
2007年日本公開(?)
☆☆☆☆

北海道朝鮮初中高級学校を舞台に、そこで生活を共にする生徒と先生たちの1年間を追ったドキュメンタリー映画。オリジナルタイトルも「
우리학교(ウリハ
クキョ)」(「私たちの学校」の意。「母校」みたいなニュアンスか)。韓国ではインターネット上で口コミで評判になり、「韓国ドキュメンタリー映画観客動員数史上最高記録更新中」なのだとか。確かに凄く良い映画だった。
監督は韓国人で、この映画も韓国で上映されることを前提につくられた韓国映画(朝鮮学校は北朝鮮系なので、朝鮮学校についての映画を韓国人が撮る、ということは前代未聞とも言える大事件。韓国と北朝鮮の間、あるいは民団と総連の間には、日本人が想像する以上の壁があるようだ)。普段の授業風景から、運動会、合唱コンクール、寄宿舎生活、夏休みのサッカー部合宿、北朝鮮への修学旅行(必見!)等、朝鮮学校における日常生活の様子を比較的坦々と綴っている。映画を観て初めて知ったのだが、北朝鮮政府が日本の朝鮮学校に資金的な援助を行ってきたのに対し、韓国政府は一切の援助を行ってこなかったのだそうだ。そのため、映画のメインメッセージは、「日本に残され何とか自力で朝鮮民族アイデンティティーを守っている彼らの努力を韓国政府は無視し続けているし、多くの韓国人は知りもしない。それでいいのだろうか?」という韓国人に対する問いかけ。
逆に言うと、日本社会や日本人観客に対するメッセージは直接的なものではなくて間接的なものにとどまっている。札幌の朝鮮学校は、日本の他の朝鮮学校と較べると、近隣住民との関係が非常に良いらしいのだけど、映画を観ただけではそのあたりのことは(関係が良いのか悪いのか、すら)全くわからない。映画では、在日コリアンにとっての朝鮮学校というものについてはよく語られているが(それが主旨なのだから当然だが)、日本社会における朝鮮学校という存在についてはほとんど語られていないように思う。生徒たちの学校の「中」の生活についてはよくわかるが、彼らが学校の「外」でどんな生活をしているのかは全く見えてこない。そのため、朝鮮語で授業を行っている(受けている)という「当然」なことが、どれだけ大変なことであるのか全く伝わってこない。日本人観客としては、そのあたりがちょっと不満なのだが、まぁそもそも問い掛けている相手が日本人ではなく韓国人なのだから、仕方ないかなぁ…という感じ。この映画が日本で公開し日本人に見せることを前提にした映画なら、強調点が随分異なっていただろうと思う。

個人的には、監督が撮影に3年もかかっている、というのが面白い。おそらく監督自身、最初からどんな映画を撮るか明確にビジョンがあったわけではなく、3年の間にいろいろ紆余曲折があり、その中で徐々につくるべき映画の方向性が見えてきたのだろう。そういう監督自身の悩みの軌跡みたいなものがもうちょっと映画に出ていても良かったんじゃないかと思う。僕にとってドキュメンタリーとは、単なる「事実」の紹介ではなく、作り手の視線そのもののことだからだ。(その後「ウリハッキョ」自主上映・日本公式ブログを読んでいて、この映画はそもそも監督の奥さん(映画監督)の企画であったことを知った。監督は撮影監督としてこの企画に参加していたようだ。ところが、奥さんが急に亡くなったため、監督がその遺志を継ぐことになったのだとか。撮影期間が長いのはそのこととも関係しているのだと思う。)
ただ、まぁ、難しいことを考えなくても、フィルムの中に見事に収められた、同じ札幌という街に住む若者たちの活き活きとした姿を観るだけでも楽しかった。僕自身、いったいこの映画の何を良いと思ったのかもう一度考えてみると、監督の視線の暖かさではないかと思う。映画からは、ウリハッキョの生徒たちに対する監督の暖かいまなざしを感じることができる。また、ウリハッキョの先生や学校を守ってきた人たちに対する、監督の尊敬の念が映画に滲み出ているような気がする(そのことに気がついたのは、「ウリハッキョ」自主上映・日本公式ブログを見た後かもしれないが)。そういう意味で、この映画には監督の人となりがよく出ており、だからこそ、僕はこの映画をもう一度観たいと強く思ったのだろう。
今日の一言韓国語は「
지금」(チグ
ム)。「今、現在」の意味で、この映画の自主上映会における監督インタビューで何度か聞いたように思う。「現在、韓国では…」のように文章の出だしで使われていたので、耳に残ったのだろう。
→
「ウリハッキョ」自主上映・日本公式ブログ
ウリハッキョの先生紹介は必見。
→
『우리학교』Web Page(韓国語)
→
『우리학교』韓国公式ブログ(韓国語)
→
北海道朝鮮初中高級学校 Web Page
学校のホームページなんてどれも似たり寄ったりだろうと思っていたのだけど…、意外と面白い。

0