『ニライカナイからの手紙』
熊澤尚人 (監督)
蒼井優 (主演女優)
平良進 (男優)
南果歩 (女優)
2005年制作
☆☆☆

沖縄の離島、竹富島を舞台としたヒューマンドラマ。毎年1年に1度、誕生日に届く母からの手紙を心の支えに生きる、田舎の少女の物語。主演は『
花とアリス』(岩井俊二 監督 2004年)の蒼井優。監督は、本作が劇場長編映画監督デビュー作である熊澤尚人。
正直、大した映画ではなかった。始まって10分、映画タイトルが表示されたときには、その後のストーリー展開がほぼ全て予想できるという(そして、実際その通りに物語が進むという)凄い映画。これほどまでヒネリのないストーリーで2時間押し通せるとは、監督の力量は相当なもの!?
この映画で描かれている世界の背景を支えているのは、竹富島に今も残る地域コミュニティーの力だと思う。母との再会を待ち焦がれる少女の姿と、彼女と祖父との2人暮らしを包み込む地域社会のあり方は、意外なことに、僕に小説『
佐賀のがばいばあちゃん』(島田洋七 2004年 徳間書店)を思い起こさせた(この映画を「がばいばあちゃん」と結びつける人間はそうはいないだろうが…)。島の人間は最初から何もかも知っていたんだと考えれば、何も知らない少女を何年も見守り続けてきた周囲の人間こそ、むしろこの映画の主人公なのだとよくわかる。

表向きのキーワードは「手紙」と「光」、といったところか。「母からの手紙」はこの映画のテーマそのものだとも言えるし、主人公の少女の祖父は竹富島の郵便局長、東京の渋谷一局も物語において重要な位置を占めている。「ゆうパック」なんて繰り返し登場するので、(旧)郵政省のPR映画か!?と何だか可笑しいほど。もう1つのキーワード「光」は、主人公の少女がカメラマンを目指していることにも表れているのだけど(写真は光の芸術だから)、この映画、ライティングやカメラワークが面白かった。
普通、撮影現場の照明の光は直接カメラの方向には向けたりしないと思う。逆光になって、背景は真っ白、被写体は真っ黒になってしまうから。ところが、この映画、竹富島の昼間の屋外のシーンでは、背景が飛んでしまうほどの強烈な日差しを表現し、逆に夜のシーンは街灯の光で真っ赤、室内のシーンは表情がよくわからないほど暗い、というように、意図的に通常の露出とはズラしたセッティングで撮影していた。また、ほとんどのシーンでカメラがユラユラと揺れている。じっとしていないのだ。おまけにライトまで揺れている! 撮影は藤井昌之とのことで、他にどんな映画で撮影を担当した人だろうと調べてみたら、『
虹の女神 Rainbow Song』(熊澤尚人 監督 2006年)の撮影も彼。この映画、岩井俊二が監督なんだと思っていたのだけど、彼はプロデュースで、監督は本作と同じ熊澤尚人だった。上野樹里主演だし、これは観ねばなるまい…。

正直言えば、蒼井優目当てで観た映画。本作では役柄的に表情を曇らせる演技が多く、笑顔のシーンは数えるほどしかないが、この人は田舎のちょっと冴えない女のコを演らせると天下一品だと思う(僕はまだ『
フラガール』(李相日 監督 2006年)を観ていないが…)。ふっくらした印象をもっていたが、本作で見る限り、手や指なんかは結構骨ばっている。ずっとぽっちゃり型は好みではなかったのだが、最近ぽっちゃりに心癒されるようになってきた。
竹富島の沖縄方言が面白かった。僕は北海道育ちで、南国・沖縄には憧れがある。ところが、作中で聞く沖縄方言は、僕の南国イメージとはやや趣を異にする、ちょっとイジけたようなしゃべり方で、これが妙に可愛らしく聞こえた。ちなみに、沖縄出身の永山尚太が歌う主題歌『太陽ぬ花(てぃだぬはな)』の歌詞は、僕にはまるで韓国語のように聞こえた。
またはぁりぬそぉらよ〜
またはぁりぬな〜みの〜ねぇよ〜
てぃいだぬ〜はないつも〜
むねにだ〜いて〜あるい〜てぇゆ〜こおお〜
最後の行は明らかに日本語ですけど(笑)。

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