『ただ、君を愛してる』
新城毅彦 (監督)
宮崎あおい (主演女優)
玉木宏 (主演男優)
黒木メイサ (女優)
2006年制作
2006年公開
☆☆

写真によって繋がる恋の物語。『
いま、会いにゆきます』(土井裕泰 監督 2004年)の原作者・市川拓司が、映画『恋愛寫眞 Collage of Our Life』(堤幸彦 監督 2003年)に触発されて書いた『恋愛寫眞 もうひとつの物語』(小学館 2003年)を、これが劇場映画監督デビュー作である新城毅彦が映像化した作品。主人公の名前や物語の基本的なプロットはオリジナル版を踏襲しているらしい。
大学の入学式で偶然出逢った誠人と静流。彼らにはそれぞれ、周囲の人間の輪の中に飛び込んでいくのを躊躇する理由があって、それが故に2人は急速に親しくなる。長らく友達以上恋人未満(…、死語?)の関係が続いていた2人だったが、(写真のモデルとして)初めてキスをした日の夜、静流は誠人の前から突然姿を消してしまう。そして2年が経ったある日、遠くニューヨークから静流の手紙が届く…。
『
好きだ、』(石川寛 監督 2005年)の宮崎あおいが良かったので観てみたのだが…、全然ダメ。最後まで我慢して見通した(その上レビューまで書いている)自分を誉めてあげたい。宮崎あおいの出ている映画の中で本作を最初に観なかったのはもの凄くラッキーだったと思う。これが最初だったら、今後しばらくは彼女の出演作は観なかっただろうから。そうなると、『
好きだ、』を観ることもなかったろうと思う。

「It was the only kiss, the love I have ever known... 生涯ただ一度のキス、ただ一度の恋」と名づけられた、1枚の「恋愛寫眞」のために捧げられた映画。映画の最後の最後に登場するこの写真を見せるために、逆算的にストーリーが構成されている。
市川拓司って…、ひょっとして「種明かし作家」? 種明かし作家ってのは(もちろん僕の造語だけど)、ちょっと不思議なストーリーが続いて、最後に種明かしして、あぁそうだったのかぁ…、今なら彼女の表情の意味も、あのときの言葉の意味もよくわかる、うんうん、そういうことだったのね…、そりゃ切ないなぁ…、とシミジミさせる、そういう仕掛けになっている小説を書く人。とすると、本作は「種明かし映画」? 考えてみれば『
いま、会いにゆきます』もそうだった。まだ観てないけど、『そのときは彼によろしく』(平川雄一朗 監督 2007年)もそうである可能性が高いと思う。
「種明かし映画」として考えると当然のことだが、種明かしまでの90分間は全て「観客のための想い出作り」に費やされている(後で切なく想い出すために絶対に必要)。で、種明かし後、ドラマチックな音楽に乗せて、90分分の想い出を11分に凝縮し走馬灯の如く駆け巡らせ、オシマイ。

「誠人とキスできたら、私嬉しくて死んじゃうかも!?」 それは単なる軽口じゃなかった、という話なんだけど…。要するに、想い出映画なんだろうなー。同じ「種明かし映画」である『
いま、会いにゆきます』が僕にとって泣ける作品であったのは、不思議なストーリーの意味が後になってわかる構造は同じなんだけど、種明かし前もちゃんとラブストーリーとして楽しめるつくりになっていたから。中村獅童も竹内結子もシリアスに演じていたし。
本作は、種明かし直後の「恋愛寫眞」に全てをかけてしまっているので、前半部分(と言っても、これが全体の3/4以上もあるのだが)を観ているのがツラい。宮崎あおいのコミカルな演技は、一言で言ってやりすぎ。玉木宏も地に足がついていない感じ。2人の抱えるコンプレックスのようなものがシナリオ的に上手く表現されていなくて、互いに惹かれ合う2人の気持ちにリアリティが全く感じられないし、種明かしされて初めて静流の苦悩が見えてくるので、物語上の最も重要なシーンで非常に丁寧に描かれている2人のキスシーンですら、「後で想い出してみれば切ないシーン」になってしまっている。2人がキスしているまさにその瞬間には、観客は切なさを共有できない。これはラブストーリーとしては致命的な失敗ではないかと思う。「あのキスのとき、少しは愛はあったかな?」という静流の問いかけに対する、誠人の「あったよ。少しどころじゃなかった。君は、僕の世界の全てだった。」というセリフが、何と空々しく響くことか。取り繕っているようにしか聴こえないのだ。

この話もまた「突然の喪失」を描いた話でもあるのだけど、その路線では『
虹の女神 Rainbow Song』(熊澤尚人 監督 2006年)の方が一枚上手(『
虹の女神 Rainbow Song』は、最初観たときは★★☆☆☆の低評価だったのだが、ジワジワと評価が上がってきて、今では★★★★☆に近い高評価となっている)。静流が突然いなくなってからただただ待ち続けた2年の歳月の長さが実感できないのも如何なものかと。
静流のニューヨークでの個展で展示されていた写真作品がなかなか良かった。彼女の撮った誠人の写真を集めた(という設定の)『玉木宏 PHOTO STORY BOOK 「ただ、君を愛してる」』(角川メディアハウス 2006年)という本が出版されていて、玉木宏ファンは絶対に「買い」だと思う。『
ハチミツとクローバー』(高田雅博 監督 2006年)を観たとき、主人公はぐみの作品があんまり良くなくてリアリティー不足を不満に思っていたので、ここだけは良かったと思う。
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「ただ、君を愛してる」公式サイト

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