『恋する日曜日 私。恋した』
廣木 隆一 (監督)
堀北 真希 (主演女優)
窪塚 俊介 (男優)
高岡 早紀 (女優)
2007年制作
2007年公開
☆☆

BS-i(現
BS-TBS)で放送された一話完結の30分恋愛ドラマシリーズ「恋する日曜日」の劇場版第2弾。掘北真希主演のただのアイドル映画だろうとタカをくくって観てみたら、案外普通の映画だった(誉め言葉です)。余命数ヶ月と突然宣告された17歳の少女が生まれ故郷で過ごした数日の出来事を坦々と描く。共演は、窪塚俊介(窪塚洋介の実弟)に高岡早紀。監督は、『ヴァイブレータ』(2003年)、『やわらかい生活』(2005年)のベテラン廣木隆一。
女子高生のなぎさは、1年前に亡くなった母と同じ病に自分も侵されていることを知る。入院する前に彼女は、初恋の人に逢うために、かつて過ごした海辺の小さな町へ向かう。懐かしい、しかしおそらく最後になるだろう再会を心に刻み込んでいく彼女だったが、はからずも彼の恋まで知ってしまう…。

実は同じ堀北真希主演の『東京少年』(平野俊一 監督 2007年)と勘違いしてDVDをレンタルしてきてしまった。単なるアイドル映画のつもりで観始めたのだが、どうも様子がおかしい。途中まで観て、ようやく自分の勘違いに気がついた。ただ、僕の感じた「様子のおかしさ」は、勘違いだけに由来するものではないように思う。
観客動員数をほとんど意識することなく撮った映画、という印象。雰囲気としては、韓国映画『
チャーミング・ガール』(イ・ユンギ 監督 2005年)や日本映画『
Blue』(安藤尋 監督 2001年)に通ずるものを感じた。意外とオーソドックスな映画だった『
さよならみどりちゃん』(古厩智之 監督 2004年)も、もともとはこの「恋する日曜日」シリーズに含まれていたものだそうだ。ヒットを気にすることなく、映画の作品性や監督の作家性を前面に押し出すコンセプトで撮られているのかもしれない。

学生映画みたいな独特の雰囲気がある。長回しを多用し、主人公と一緒に動くカメラワークが面白い。海辺のシーンでは思いっきり明るく(人物が逆光になることもしばしば)、夜のシーンはとことん暗い(その辺りは『
ニライカナイからの手紙』(熊澤尚人 監督 2005年)にも似ていた)。映画の冒頭で必要最小限の状況説明がされる以外、説明的なセリフはほとんどない。観客はあらかじめ事情を知った上で、固唾を呑んで主人公を見守るしかない。
個々のシーンが少々間延びしている分、場面転換は驚くほど早いが、ドラマチックな「盛り上げ」を排した映画の調子は怖ろしいほど平坦。監督自身も「1回観ただけじゃ分からない映画だと思うので…」と語っている通り、生きることに対して敏感になっている主人公の心の揺れを繊細に映し出すことに注力されている。ただ、正直、その狙いを実現するには役者の演技力が足りなかったのではないかと思う。

脚本的に面白いなと思ったのは、誰も主人公の気持ちを理解してあげられないこと。主人公は自分が死期の迫った病気であることを誰にも言わない。「あ、それ言ったらバレちゃうんじゃない?」と思うようなキワどい発言もするが、誰一人として彼女の真意を汲み取れずトンチンカンな受け応えをする。結局、彼女の行動の意図が明らかになるのは、彼女が死んでからなんだなぁ(しかもそれは、ほんの数ヵ月後だ)、と思うと、妙な感慨深さが残った。
タイトルの「私。恋した」というのは、おそらく「恋におちた」という意味ではなく、誰かを好きになり、想いを募らせる間もなく失恋し、想いを断ち切ることも出来ずにちょっと無茶をする、という「一通りを経験した」という意味なのだろう。たぶん彼女は、初恋の人に想いを告げるためにこの町を訪れたのではなく、やり残した「恋のプロセス」を一通り経験してから自分の死に臨む覚悟を決めたかったのだろうと思う。
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「恋する日曜日 私。恋した」公式サイト

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