『茄子 アンダルシアの夏』
高坂 希太郎 (監督)
大泉 洋 (声優)
筧 利夫 (声優)
小池 栄子 (声優)
2003年制作
2003年公開
☆☆☆

黒田硫黄による連作短編漫画『茄子』(2001年 講談社)中の1話「アンダルシアの夏」をアニメーションで完全再現した、サイクルスポーツ・ヒューマンドラマ。監督・脚本・キャラクターデザイン・作画監督の全てを1人でこなしたのは、本作が劇場映画監督デビューであった高坂希太郎。アニメーション制作はマッドハウス。
「ツール・ド・フランス」(フランス)、「ジロ・デ・イタリア」(イタリア)と共に3大自転車レースの1つに数え上げられる「ブエルタ・ア・エスパーニャ」(スペイン)。プロ自転車レーサーのぺぺ・ベネンヘリが故郷であるスペイン・アンダルシア地方の一本道を走っていた頃、村の教会では兄のアンヘルと幼馴染のカルメンの結婚式が執り行われていた。忘れてしまいたい想い出を胸に、ぺぺは45℃の高温の下、雲1つないアンダルシアの田舎道を疾走していく…。

アニメはジブリ作品くらいしか観ない僕だが、不意に沸き起こった自転車愛に突き動かされ、本作とその続編(『
茄子 スーツケースの渡り鳥』(高坂希太郎(監督) 2007年))を観てみた。心の片隅に「ヨーロッパの自転車レースを題材にしたジブリ作品があったはず」と記憶していた。
調べてみると本作は「ジブリ作品」ではなかったが(でも、レンタル屋の「ジブリコーナー」に当然のように並んでいたぞ(笑))、高坂監督はスタジオジブリとマッドハウスで活躍してきた人らしく、宮崎アニメの影響が(絵柄から、セリフ、物語の展開、挿入歌、作品の雰囲気にまで)非常に色濃く出ている作品だった。本作の監督は宮崎駿だと言われれば、そう信じてしまうかもしれない。

1時間にも満たない小品だが、秀作だと思う(出だしこそ「お約束」パターンを踏襲していく作品のように感じ、ダメ映画かと思ったが…)。短い時間の中に、自転車レースの(チーム同士の)駆け引き、愛と青春の苦い想い出、「遠くへ行きたい」という言葉とは裏腹に強まる故郷への執着心、といったものが凝縮されて描かれている。
綺麗にまとめられた作品だとは思うが、やはり40分強という上映時間の短さにはモノ足りなさを感じた。僕は普段アニメを観ないので、技術的な観点から楽しむこともできないし…。自転車レースについても不案内なので、詳しい人が見れば「ニヤリ」と楽しめるようなポイントの多くを見逃してしまっているのかもしれない(アニメ表現としては「禁じ手」のようにも思ったゴール手前200mのスプリントシーンには、笑わせて貰ったが)。

ちなみに、高坂監督が原作漫画を知ったのは、『千と千尋の神隠し』(宮崎駿(監督) 2001年)の制作中に宮崎監督から「読めっ」と渡されたことによるのだそうだ。セリフを含めて、本作は原作をほぼ忠実に再現しているらしい。正直、物語はやや蛇足的な終わり方をするように思う。それが「原作の再現」の代償なのか、機会があれば原作を読んで確かめてみたい。
主な登場人物の声優を務めているのは、大泉洋(主人公・ぺぺ)、筧利夫(ぺぺの兄・アンヘル)、小池栄子(花嫁のカルメン)ら。見事な仕事振りで、キャストを見なければ専業の声優だと思ったと思う。また、エンディングテーマとして、有名自転車メーカーの名を随所に散りばめた駄洒落ソング『自転車ショー歌』を、自身も自転車にハマッていた忌野清志郎が歌っているのも楽しい。
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『茄子 アンダルシアの夏』公式サイト
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『茄子 スーツケースの渡り鳥』公式サイト

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