『ウォーターボーイズ』
矢口史靖 (監督)
妻夫木聡 (主演男優)
玉木宏 (男優)
三浦哲郎 (男優)
近藤公園 (男優)
金子貴俊 (男優)
平山綾 (女優)
竹中直人 (男優)
杉本哲太 (男優)
2001年制作
2001年公開
☆☆
『スウィングガールズ』
矢口史靖 (監督)
上野樹里 (主演女優)
貫地谷しほり (女優)
本仮屋ユイカ (女優)
豊島由佳梨 (女優)
平岡祐太 (男優)
竹中直人 (男優)
2004年制作
2004年公開
☆☆
どちらも、高校生が主人公の青春コメディ映画。シリアスな側面が全くなく、軽く楽しめる娯楽作品。それが狙いだろうし、狙い通りの作品に仕上がっている。何の不安もなく楽しめる。
正直な話、どちらの映画も、お金を払って映画館に観に行ったのだとしたら料金のモトを取れなかったと感じただろうと思う。男子のシンクロ!? 女子高生がジャズ!? という着眼点は意外性があって面白いが、面白いのは着眼点だけとも言える。例えば、伊丹十三作品は、どの作品の着眼点も面白いが、着眼点だけが面白いわけじゃない。周防監督の『Shall We ダンス?』だって、日本人が社交ダンス!? という意外性だけでヒットしたわけではない
註1。
両作品のストーリーは、えっ?いいの?と思うくらい酷似している。ひょんなことから
註2、シンクロナイズドスイミング(ビッグバンドジャズ)をやるはめになった高校生達が、次第にその魅力に引き込まれ練習に打ち込み、直前にちょっとしたハプニングは起こるものの、最後にお披露目をしてめでたしめでたし、というストーリー。どちらの作品にもほぼ同じ役どころで竹中直人が出てくるのには驚いた。
おそらく監督は、その対象が何であれ高校生の頑張る姿をすがすがしく描きたいのだろうなと思う。何かに打ち込むことでしか得られない充実した時間というのは他に替え難いものだし、挫けずに頑張っていけるのは、共に闘ってくれる仲間がいてこそ。仲間同士励ましあいながら、工夫し努力し、何とか事を成し遂げるというのは、おそらく人生で最も素晴らしい経験だ
註3。それが文化祭の出し物であったとしてもだ。あともう一歩頑張れるかもしれないと思えることが希望であり、その一歩によって喜びや幸せは生まれてくるのだ。
しかし、それが同時に両作品の限界ともなっていると思う。彼らは、何かに熱中することもなくダラダラと高校生活を送っている。しかし、途中で気づくわけだ。思い切り何かに熱中し思い切り楽しむことができるのは今しかない、と。そこで、高校最後の夏休みくらい頑張ろうと思い立つわけだ。とすると、これらの話は、実は夢中になれる趣味を見つけるという話でしかない。
同じように意外なテーマを扱っていて、しかし映画のもつ厚みが全く異なる作品を思いついた。失業中の男達が何とか金を稼ごうと男性ストリップショーを企てる『フル・モンティ』(1997年)、男のコが独り女のコにまじってバレエを始める『リトル・ダンサー』(2000年)、炭鉱の町のアマチュアブラスバンドを描いた『ブラス!』(1996年)。どれもイギリスの地方都市を舞台とした映画で、職なし金なし、の湿っぽい映画。『フル・モンティ』は、お先真っ暗な日常生活を笑い飛ばそうというカラ元気映画だし、『リトル・ダンサー』は、わずかな希望をかき集めて、それを次世代を担う子供に託すという象徴的な映画だ。『ブラス!』に登場するブラスバンドのメンバーは、音楽を通して心を1つにすることによって、さびれた炭鉱の町でのギリギリの生活を何とか乗り切っていこうとする。彼らは退屈しのぎに趣味に没頭しているわけではない。そうしなければとてもやっていけないのでそうするわけだ
註4。もし『Shall We ダンス?』の主人公が退職後の趣味として社交ダンスを始めたのなら、いったい誰が主人公に共感しただろうか?
そういう意味で、『ウォーターボーイズ』も『スウィングガールズ』も楽しい娯楽作品だけれども、やはり底が浅いと言わざるを得ない。もちろん、その底の浅さを含めて、狙い通りなのかもしれないが。
註1 ただし、同じ周防正行監督作品でも、『ファンシイダンス』(お坊さんの世界)『シコふんじゃった。』(大学の相撲部)なんかは、面白いのは着眼点だけだと思う。どちらも本木雅弘が主演なので、彼のファンの人向けの映画というか。
註2 ところで「ひょん」って何だろう? と思って調べてみたら、イスノキという植物の別称(ひょんのき)が語源らしいことがわかった。
註3 考えてみると、「仲間同士励ましあいながら、工夫し努力し、何とか事を成し遂げる」ことができるのは、地球上には人間くらいしかいない。そういう経験をすることができるというのは、人間として生まれてきた特権だとも言える。
註4 実は『スウィングガールズ』に関しては、彼女らもそうなのかもしれないとも思うのだ。東北地方の片田舎の成績優秀とは言い難い女子高生。高校を卒業してしまえば、お先真っ暗である。しかも彼女ら、そのことにすら気づいていないのだ。補習が行われている教室がうだるように暑い。そのことが人生最大の不幸であるかのように思っている。彼女らの人生で輝くことのできるのは今しかないのだ。ただ単に若い女性であるということだけで評価される期間はじきに終わる。今ここで何かに熱中した、何かに没頭した、何かに打ち込んだという経験をしなければ、2度とそんな経験をするチャンスは巡ってこないのかもしれない。『スウィングガールズ』は女子高生が頑張る映画なわけだが、逆に言うと、中高生の間に頑張るくらいしか女性が輝くことのできるチャンスはない、という現実の一側面を描いているようにも感じ、そう思うと切ない映画でもある。(※この註4の部分、自分が何を感じているのか自分でもまだよくわからず整理できていないので、そのうち考えがまとまったら書き直してみようと思います。女性蔑視的なことを書いていますが、それが本意ではなく、自分が今感じていることは、単に女性であるというだけで、あるいは男性であるというだけで、様々な機会が制限されてしまう社会に対する不満ではないかと思います。)

0