2016/6/27

『OKU NO HOSOMICHI』 第5回   国語科S先生の『OKU NO HOSOMICHI』

〜A long time ago in TOHOKU far,far away(昔々、遠い遠い東北の地で(「STARWARS」?)〜

1986OKU NOHOSOMICHI(SHOWA〜HEISEI)

国語科 副島勇夫

第5回「ビジネスホテルの怪〜後編(栃木県栃木市)」

 鳴りやまない何かの音。窓に近づくと駅前の並木道が見える。窓から3メートルほどの所に、高さ8メートルぐらいのポプラの木。道路を挟んで向い側にも同じポプラの木がある。そんな並木道が駅前から50メートルほど続いている。窓を開けるとその音が一気に室内に入ってきた。

 その正体は雀だった。それも1羽や2羽ではない。1本の木に何十羽といる。それがどの木にも同じぐらいいる。茶色い木の実がモゾモゾと動いているようだった。寝ぐらを求める雀たちが駅前の並木に500羽近くいることになる。音の正体はわかったが、ザワザワと心を乱すようなその音は決して気持ちのよいものではなかった。

 夕食を済ませ部屋に戻ったがここで寝るのかと思うとゾッとした。隣りの部屋からボソボソと声のようなものが聞こえる。人の気配がするのはありがたかったが、何だか気持ち悪かった。

 夜10時。布団を敷き部屋の明かりを半分消し、テレビとクーラーはつけたままにした。眠る体勢にについたのだが、なかなか寝付けなかった。クーラーが効きすぎているせいか、夏だというのに寒い。布団を首まで被り何とか寝ようとした。

 もう2時間も経ったのだろうか。テレビが突然消えた。(なぜ?)ほの暗い部屋にクーラーの音だけがブーンとうなっている。重苦しく嫌な気分だ。ゴトゴトと隣りの部屋の物音が意外に近くでする。ボソボソとした話し声。冷房が効いているのに、手のひらは汗でじっとり濡れていた。

 暫くして今度は突然ガシャンとクーラーが切れた。(なぜ?)静寂。重たい空気の中、薄目を開けるとほのかな明かりで部屋の中が見える。異常はなかったが、目に入る光景が粒子の荒い画面のようにザラザラとしている。固く目をつぶる。このまま寝てしまいたかった。クーラーは切れているのに部屋はあいかわらず寒々としている。しかし手のひらには汗が惨む。

 何という夏だ。こんな旅を始めるんじゃなかった。寝苦しい。その時だった。

 足の方で畳を何かが擦る音がした。やっぱりな。そう思った。この部屋に入った時から、いや、このホテルの薄暗い廊下を歩いた時から、こうなるのはわかっていたような気がした。もう目は開けられなかった。足の方から腰の辺りにその「サッ」という音は移動した。何かが近づいてくる。布団を頭まですっぽりと被り、中からしっかりと握りしめた。そして長い一夜が始まった。

追記:翌朝、フロントで尋ねたが、この日、隣の部屋どころか、同階に宿泊客はなかった。やっぱりか。

 次回は第6回「おばあちゃんのパン〜前編(栃木県栃木市)」です。

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