2016/9/14

生徒にみてほしい映画(8)  一般

 今回の作品は『ブタがいた教室』(2008/日活)。今回も年会費3900円の見放題某ネットサービスより。以下そのプロフィール。

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 ドキュメンタリーとしてテレビ放映され話題を呼んだ、大阪の小学校の新任教師による実践教育を基に映画化した感動作。1年間大切に育ててきたブタを食べるかどうかで大論争を巻き起こす子どもたちの、うそ偽りのない表情にカメラが肉迫する。『涙そうそう』の妻夫木聡が教師役に初挑戦し、子どもたちと素晴らしいコラボレーションをみせる。大切な命をどうするかという結論を自らの力で出そうとする生徒たちの姿勢が、痛いほどダイレクトに伝わり心打たれる。

 6年2組を担任することになった新米教師の星(妻夫木聡)は、食べることを前提として子ブタを飼うことをクラスの生徒たちに提案する。校長先生(原田美枝子)にも相談し、卒業までの1年間26人の生徒が子ブタの面倒を交代でみることになる。最初は戸惑っていた子どもたちも、“Pちゃん”と名付けた子ブタを次第にかわいがるようになり……


○まず最初に興味をそそられるのは「大阪の小学校」というところ。さっそくネットで調べたら、この映画のモデルは黒田恭史という新任の先生が、1990年7月から豊能町立東能勢小学校で実際に900日間にかけて行った授業を基にしているとのこと。その取り組みの詳細は、黒田恭史先生が著した『豚のPちゃんと32人の小学生 命の授業900日』(ミネルヴァ書房/2003年)に詳しい。

○映画の舞台は東京の北区赤羽であったが、できることなら、モデルとなった小学校が大阪なんやから、大阪のどこかを舞台にしてほしかったと大阪人は思うのである。

○おそらくこの映画のテーマは「食育」というところにあるが、その面でのみ鑑賞すると「?」という思いが強くなるかも。賛否両論があるだろう。

○冒頭、4月早々、新任の妻夫木先生(ややこしいので俳優の名前で表現しました)が突然教室の教卓に「ブタ」を置く。生徒たちは「かわいい」などとがやがやした後、「先生、そのブタどうすんの」と質問。妻夫木先生「このブタを先生はみんなで育てて、最後には食べようと思っています」と言い放つ。

 「えーっ」とざわつく生徒に、妻夫木先生は「人間は生きるために何が必要だと思う?」と問いかける。生徒の数々の反応の中から「食べ物」という答えが出て、妻夫木先生は「そうです、食べ物です」「人間は生きるためには食べなければいけません」「生き物を食べるということ、その命をいただているということをみんなで身体で感じてほしい」と、まさに「食育開始宣言」をするのである。

○学校を舞台とした映画を鑑賞したときに、必ずと言っていいほど「こんなこと、絶対にない」などとケチをつけたくなるのは担当者の悪い癖だが、やっぱり言わせてもらいます。

 初めて教壇に立つ新採教師が6年生を担任するなんてありえない。3年生か4年生を担任するのが超常識である。

 これを読んでいる生徒の皆さんの中に、小学校教師を目指している人がいたら覚えておいてください。

○ついでに申せば、クラスの生徒との人間関係も構築できていない、そしてクラス指導や教科指導、新人研修、同僚や保護者との関係など、なにもかもが初めての新任の4月に、生徒に相談することなく、生徒が決めたことでもないのに突然ブタを教室に連れてきて、「食育」のために「みんなで育てて、最後には食べようと思っています」とは、あまりにもすご過ぎる新人である。

○そんな破天荒な妻夫木先生に、「杓子定規」「融通のきかない」ステレオタイプで描かれている教頭の大杉蓮が渋い態度を見せるが、校長の原田美枝子が、条件付きながらもその熱意にうたれて許可を出す。映画後半では、正月にわざわざ登校してブタの世話までする優しくて人格者の校長先生なのだ。

○もしも自分が教頭だったら「今、先にせなあかんことは生徒との人間関係を築くことではありませんか」「それもせんでブタを飼って食べるとは何事か」と激怒していただろう。しかし、原田美枝子先生のそんな寛大な包容力を目の当たりにして、急に態度を変えて「頑張りなさい」と励ましていたかもしれない。とほほ。

○それほど50代後半の自分の世代にとって、原田美枝子先生は絶大なあこがれであったのだ。(?)

○「食育」という部分だけなら、妻夫木先生の破天荒な企てより、生徒の父親で料理店を営む大将が肉をさばきながら息子に言った内容の方がよっぽど重みがある。その父親を家庭科の調理実習の講師としてまねき、肉を裁きながら生徒に父親の経験談を伝えた方が効果絶大と思ったのである。

 みなさんもぜひ映画をみてこの父親の言葉を聞いてほしい。

○自分はこの映画のよさは「食育」ではなく「子供のぶつかり合い」「子供の葛藤」「子供の成長」であると思う。

○出演している生徒役の26人の演技が素晴らしい。自分たちが決めたことでも相談されたことでもないのに突然ブタを飼うはめになり、「食べようと思います」と宣言したはずの妻夫木先生に、「さて、どうする?」とか「あと卒業まで〇○日しかないよ」などと言われ、食べるか食べないかの究極の選択を迫られたときの学級会での迫真の演技は涙なくしては見れない。

○映画の監督は、大人の俳優にはセリフ付きの台本を渡していたが、生徒役26人には学級会での討論のシーンは白紙の台本であったという。映画の撮影が始まる前に、26人は養豚場や食肉センターを見学、ブタの飼育まで経験した上での台本なしのマジ撮影だったのだ。

○この議論の過程で、当初自分と異なる意見にまったく聞く耳を持たなかった生徒も、徐々に相手の意見に耳を傾け、かといって自分の意見は変わらないが、とにかく意見を聞こうとする態度の変化がいい。

○そして行き詰まった時に、打開策をみつけようとするまとめ役が出てくるところも、彼らの成長がうかがえる。

○この白熱した議論の最中、生徒を静かに見守り極力口をはさまない妻夫木先生の態度や表情もいい。「食育」に関して自分は「?」の妻夫木先生であるが、その他の面では小学6年生の生徒をひとりの人間としてリスペクトしており非常に好感がもてる。自分も見習わなアカンと反省して、できるなら最後にもう一度担任をしてみたくなった。

〇要するに、クラス内での意見の違いはあって当たり前で、それを解決するために議論や話し合いという場がある。当然、言い合いも喧嘩もあるかもしれないが、それを恐れて避けてばかりの集団は結局まとまりに欠けるのかもしれない。そういう意味で、あまりにも大きすぎる一石を投じた妻夫木先生は、大物ともいえるし、若さゆえの非常識ともいえる。

○これ以上、あれやこれやと論じたら完全な「ネタバレ」になってしまう。とにかく小学校の先生を目指している生徒がいたら、ぜひ見てほしい作品である。

(追伸1)魚や鳥を飼っている小学校はよくあるが、神戸市立妙法寺小学校は70年前に一般市民から寄付された2ヘクタールの裏山で羊2頭を飼っている。生徒のアイドル的存在で、5年生が世話をするのがきまり。「食育」という概念はないが、羊とのふれあいを通じて生き物の大切さを学んでいる。

(追伸2)この映画のロケ地は東京の北区赤羽。小学校のグラウンドにはトラックのコースが描かれており、「赤羽東小学校」で撮影された。

 すこし北に行くと「荒川」が流れており、川を渡るとそこは埼玉県で、なんと『キューポラのある街』の舞台である川口市となる。主人公ジュンが通っていた中学校のロケ地が「川口市立南中学校」。「なんちゅう偶然!!」「なんか運命的なものを感じる」と興奮しているのは、当然自分ひとりだろう。

(追伸3)ブタを探す生徒が学校正門を出て神社を走るシーンがある。神社には定番の鳥居や灯篭(とうろう)、手水舎(ちょうずや)などには、いつ作られた、なんで作られたなどの文字が刻まれている。この映画のテーマとはまったく関係がないが、どうしても自分はそこに目が行ってしまう。

 なんとその神社の灯篭に「併合記念」とあり、近くの鳥居は「昭和二年四月」の文字が刻まれている。「併合記念」とは1910(明治43)年の「韓国併合」のことだろう。そして1923(大正12)年9月の関東大震災で鳥居が倒れ、その後、氏子たちがお金を出し合って1927(昭和2)4月に鳥居が再建されたと想像される。

 また、黒ずんだ「八幡宮」という石柱が地面に埋まっているので、この神社は「○○八幡宮」というのだろう。空襲でやられたのかもしれない。近くにJRらしき電車が走っていたので、地図で確認すると間違いなく「若宮八幡宮」であることが分かった。

 次のシーンでは、境内のノボリに「武芳稲荷」(たけよしいなり)とある神社で生徒がブタを探す。伏見稲荷ほどではないが赤い鳥居がずらっと並んでいる。ネットで確認したら豊島区雑司ヶ谷(てしまくぞうしがや)の「武芳稲荷神社」であることが分かった。

 ということは、以下のような位置関係となる。

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 JR赤羽駅近くにある「赤羽東小学校」からブタが逃げて生徒が手分けして探す。「若宮八幡」まで生徒がいく。地図上で距離の計測は「Yahoo Map」がめちゃくちゃ便利。「赤羽東小学校」から「若宮八幡」まで「約1.3km」とでた。小学6年生にすればまあまあの距離である。

 一方、「赤羽東小学校」から「武芳稲荷」まで探しに行ったグループもあった。計測すると「約6km」もある。かなりの距離で柴島高校から梅田よりも遠い。「武芳稲荷」へ行った小学6年生のグループは、オリンピック選手並みの走力と持久力があるということか。さすがのブタもそこまではいかんやろ。


 ネットの発達により、鳥になったような気分で地図を自在に操作できるのが社会科教師として本当にうれしい。そのおかげで上記のような馬鹿げた妄想も可能となった。

 「若宮八幡」だけでなく、わざわざ6km離れた「武芳稲荷神社」もロケ地に選んだのは、監督の思い出の場所なのかもしれない。



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