今日は朝の10時に顎の手術医に予約が入っていた。
だから、サンフランシスコへ行って来た。
が!1月から健康保険を変えたので、
それに伴いプライマリー・フィジシャンの推薦書が
いる事が判明・・・だからみて貰わないで帰って来た。
だって、そのまんま受診したら、
保険で5ドルの所が150ドル以上かかるからだ。
まんずはJ先生の所へ行って、
オーソライズして貰う事が先決なのだぁー。面倒臭いなぁ。
が、致し方ない。
で、とっとと帰る事になったのだが、
そこでぶーがやってらんねぇーよなぁー、という感じで言った。
「あのおっさん、あんなちょぼっと診るだけで
150ドルも取りよるんかい、ぼろい商売じゃ」
更に続けてこうも言った。
「しかも、おっさんは火曜日一日と水曜日の午後しか
働いてないねんで、ほんまにぼろい商売やんなぁー」
実を言うと、とてもレアな事なんだけど、
ぶーと私の手術医とは相性が全く合わない。
ぶーは別に好きでも嫌いでもない、と言うのだが、
私が思うに、手術医はぶーの事が嫌いだと思う。
それは、とても手術をされる側の私としては都合が悪い。
私の足りない英語力を補う為に駆り出されている旦那が、
そうとは知らずに暴言を吐く事度々だからだ。
私は充分に尊敬しているし、有り難いと思っているが、
ぶーにその意識があるのかないのか、
妻の立場としての私にも不明瞭な事この上ないから、
きっと手術医はもっと頭に来ているに違いない。
寝台に寝かされた私を真ん中に立った大男達が
目をギラギラさせてアーギュメントをする事も何度かあった。
私はオドオドとした気持ちになり、
「黙っとけ、ジジィ!」とぶーを蹴り倒したくなる。
もしかして、ドクターは
「この女の夫は実に気に食わん。
だから、この女の顔を猪木にしてやろう」とか思うかもしれん。
そんな事になったら、どないすんねん、えっ!?
ぶーにはいささか変わった性癖があり、
私が「そこは思いっきし突っ込んどいてくれ!」と思う場面では
知らぬ存ぜぬを決め込んで黙りこくるのに、
「ここは黙って頷くとこじゃっ!」と思う所で、
なんだか頑強に自分の意見を放出しまくるのである。
そうして、絶対に引かない。
言わせて頂くなら、この場合は、
私の手術医、多分、カリフォルニアでは知らない人はいない、
もし歯科医で彼を知らなければ潜りだ、
と言われる程の権威である。
だが、夫はそのおっさん・・・あ、いや、ドクターに
決して怯まず、頑固に自分の意見を通したりするのだ。
しかも、その意見はどことなくどうでもええ事じゃないか、
ドクターの言い分で当たってるじゃないか、と言う様な事だ。
私は降りるエレベーターの前で立ちながら、
夫の「ぼろい商売論」を聞いている内に、
どうしてドクターはこの男の事が嫌いなのか、
突然にして思い当たった。
この私の夫には、全くと言って良い程のリスペクトがない。
白髪の、どう贔屓目に見ても、長年、大学病院の中で
切磋琢磨してきたとしか見えない医者に対しての敬意がない。
だから、私は口を開いて異論を唱えた。
「何を言ってるんだか。
先生は火曜日と水曜日しか働いてなくても、
きっとあんたの100倍は苦労してきてはるで。
だいたい、学校だけでも何年行ってると思ってるん?
あんたの倍は行ってるんやで。
ほんで、長年人の口の中切り開いて、
顎の骨ボキボキ切って、そらお金貰わなやってられへんやん。
それを何十年もやって来てはるから、
やっと今、火曜日と水曜日だけの外来でOKになったんやん。
そこに到るまでの苦労があんたに見えんみたいやな」
すると、私の夫は、即答で
「うん。そんな苦労、見えた事ない」と言いよった。
うむ。そうであろう。見えてたら、意見なんてせん。
「先生は、あんたから尊敬の念が感じられへんから、
それで意地悪になるねんて。絶対やわ」
すると、ぶーは、
「そう?意地悪?」
私は夫という人間のあまりにもの強行なポジティブに
腰砕けになりそうだった。く、く、空気が読めてないねんな。
そりゃ、ええこっちゃ。
「だからな、ええねん。先生は火曜日と水曜日だけで。
それに、一回150ドルや。文句無しやと思うで」
「ふぅーん、そうなんかぁ。そういう風に考えた事なかった」
「だからね、次回先生に会ったら、絶対に口を開くなよ」
「はいはい、分りました」
私は、考える。
波長の合う人、合わない人、必ずいる。
私も波長の合わない人は苦手である。
だけど、どうしてこの人はこうなんだろう?
と想像力を膨らませて考える時、
ふと自分が相手の立場に立っている事も、
少ないけれど、時々ある。
すると、これまた時々だけれど、共感できるような事もある。
「私も彼(女)の立場だったら、そうなったかもしれない」
そう思うと、「苦手でいいやんな」と「嫌い」にまで
行ってしまう事は少ない。
顎の手術医も、決して私は相好崩して、「好きだ!」と
言える様な医者ではない。
でも、私が彼の立場だったら、もっとお天狗様になっていたかも
しれないな、と思ったら、彼の言う事に素直に耳を傾けて、
「はい、はい」と従順に言う事を聞くのが心地良い。
しっかし、我が夫を見ていて思うのは、
世の中、色々な人間がおるなぁー、という事である。
なんだか、「波長が合う」とか以前の問題である。
嫌われていても、あんまり分っていないし、
「僕の事を嫌っている」と思われても仕方のない言動を
しておいて、「向こうも僕の事を嫌いではないし、
僕も嫌いではない」と言える超楽観主義には脱帽である。
脱帽だけど、絶対に奴にはなりたくない。
まるで、見世物小屋の見せ物の如くに、普通でない、と思う。
・・・と、夫を物珍しそうに何十年も見るだろう私である。
ちょっと、悲劇・・・あ、喜劇か。

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