ブッシュと同じリパブリカンでいながらにして、
あのアホのイラク戦争立て直し作戦に
ただ一人反対の意を表したセネターをご存知だろうか。
NHKニュースでも報道されていたから、
今や日本国民の皆様にもその顔、名前が知られる事に
なっただろうヘイゲルさんだ。
チェイニー氏がCNNのインタビューで、
「テロリストにアメリカは戦う根性がない、と
言われているのが我慢ならん」的発言をしたのに対し、
ヘイゲル氏は、
「ほんじゃ死んだ3000人以上の兵士に根性が
なかったと言えるのか?」と徹底抗戦したのでも話題になった。
今朝、Newsweekのヘイゲルさんに関する記事を読んでいて、
私は文句無しにヘイゲルさんの言い分に、
チェイニーさんの言い分の100倍、理が通っていると思う。
自分の思っている事を、ストレートに表現する彼の姿勢は、
私の良しとする所だ。
何年も議会で生きてきて、それがどういう意味をもたらすか、
彼自身それを知らない訳ではないだろう、とも思う。
アメリカに長く住んで思うのだが、
アメリカ人という国民は、意見の相違で人の好き嫌いを
判断する傾向が強いと私は思っている。
夫の働く世界で、私はただ意見が食い違うだけで、
レイオフされた何人もの人を見てきた。
反対意見の中に、何かしら光るかもしれない、
言わばダイヤモンドの原石がある、とは考えられないのだ。
反対意見を唱える存在は、確かに鬱陶しい。
自分が上の立場にある時、そういううざい存在を淘汰するのは、
いかにも簡単な事だと思う。が、その人にもその組織にも、
二度と再び、再生する力は生まれない。
夫のアメリカ人上司に、私の敬愛する人が一人いたが、
彼は夫と度々プロジェクトの進め方で議論を
戦わせねばならない事があったが、
しかし、言い合いをした後に相手の言い分を
反芻する能力のあった人で、落ち着いて考えた結果、
夫の言い分に良しを認めた時には、それを正直に
「あなたがやっぱり正しかった」と言える人だった。
が、アメリカ人にはそれを言える人が少ない。
言えるどころか、反芻する能力のある人からして少ない。
自分と反対意見を、たとえ穏やかに唱えたとしても、
すぐに感情的になって、相手は敵になってしまう。
自分で働きながら、そういう場面も沢山見てきた。
悲しい事に、上になればなる程、そういう人間が多かった。
果たして、アメリカで出来る人間というのは、
一体どういう人間の事を言うのだろうか、と、
深い疑問を抱く事も沢山あったし、今尚、疑問に思う。
そういう体質の中でのヘイゲル氏の生き方は、
私の目には非常にストイックに映るし、
魅力的だし、しかし、反面、怖い位に正直だとも思う。
「正直」をモットーにする私がたじろぐ程の生き方だ。
心の中で、ヘイゲル氏に賛成しているリパブリカンも、
私は、沢山いるのだと思う。
だけど、それを表立って公にしないのは、
自分がその仕事で生きて行く事を計算しているからだ。
それを狡いとは、私は思わない。
人間にはその人に与えられた度量があるのだから、
その範疇で物事は上手く進めて行くべきだ。
「正直」に生きたい私とて、
人との摩擦を回避すべく、
嫌いな人を表面的に迎合する事もある。
そんな自分を嫌だな、と思う自分もいるが、
事を荒立てる事もないじゃないか、
と、それも上手く生きて行くための術だ、と思ったりもする。
しかし、ヘイゲルさんは違う。
ヘイゲルさんは、戦争経験者としてヒアリングでバッチリ言う。
「セネター100人全員がもっと真剣にこの事
(注:ブッシュの新ストラテジーに関して)について
考えるべきだ。安全な仕事をしたいんなら(注:自分の
政治生命への危機感を危惧して、安易にブッシュに賛成の意を
唱える事を暗に揶揄していると思われる)、靴でも売ってろ」
体の中に稲妻が走るように思った。
私の「上手く生きて行く術」は、間違ってはいないだろう。
それは、私自身の問題で、私から先に出て、
他の誰かに致命的な問題を投げかける事ではないからだ。
しかし、ヘイゲル氏が言うのは、
一体人の命の重みとあなたの政治家としての命の重みと
どちらに天秤を揺らせるのだ?と聞いているのと一緒だ。
それは、決してイーブンにはならないだぜ、と叫んでいる。
チェイニーも、ブッシュの側付きも、
みんなみんなホワイハウスでは、ヘイゲルを目の敵にしている。
しかし、ヘイゲルの言葉にこそ、
本当の真実が含まれているように思う。
その言葉には、
「セネター100人全員、一回前線に行ってみろや。
安全な仕事ばっかりしてたいんだったら、靴でも売ってろ」
の意味も、私には含まれているようにさえ感じる。
アメリカがダメなのは、これだからだ。
反対意見を反芻する力がない。
民主主義の国として、それはとてもおかしい現状だ。
ヘイゲル氏を巡る騒動は、それを鮮やかに示唆しているように、
私には思えてならない。

0