今回はコンクリート打放し(以下、「打放し」)について少し。
2003年の冬、東京三田の慶応義塾大学の校舎「萬來舎」の取り壊し・一部移築保存に際しての一般公開のときに、二種類の打放しの特徴を見ることが出来ました。50年程前の建築で、現在よく見る打放し(塗料をコーティングした合板型枠によって出来る、目地のピッチの広い、平滑・繊細なコンクリート面)とは少し趣が違います。
建築設計は谷口吉郎さん(ちなみに前回お話した法隆寺宝物館の設計者、谷口吉生さんのお父上です。宝物館は吉郎さん設計の東京国立博物館東洋館に向き合うように建っています。)、庭園、彫刻、談話室の室内装飾はイサム・ノグチさんです。外観は工場のようにシンプルですが間違いなく学び舎の雰囲気が漂い、談話室の柔らかな光やかわいらしいスツールなどと見所いっぱいの建築でした。(1951年の作品(おそらくは設計年)「谷口吉郎の世界 モダニズム相対化がひらいた地平」彰国社編より)
その打放しのまず一つ目は、玄関ホール吹き抜けにある、円弧を描き頭上に昇る階段の上げ裏の打放しです。小幅板の木目や目地を表わし、一見荒々しいのですが、ツルツルと光るような肌合い・素材感がやわらかさを生んでいました。外光の白い光がほんのりと反射して見えるのは、床の割石の黒、壁・天井の白い面、窓の配置のそれぞれが、コンクリートの灰色を生かす絶妙なバランスになっているからでしょうか。なんでもない蛍光灯の光までが不思議な薄緑で上げ裏に映っていました。硬い材料のみで構成されたホールが、静かなやわらかい表情で話しかけてくるようです。
二つ目は庭園にある彫刻のうちのひとつ、パーゴラ(藤棚)を支える彫刻です。こちらはざらざらしていて、埃も吸い、雨に当たって多少は風化の影響を受けているのでしょうか、荒々しい肌合いでした。当初からこの荒々しさを狙っていると思います。仮に建物本体にスリットをあけても、このように向こう側が外部にならないのでスリット内側に奥行き感が出ないでしょうし、窓にしてしまうとどうしても枠が廻るので、材料にあたる光と陰の対比が甘くなりそうですから、これは建物にはなかなか現れない濃くくっきりした陰だと、あらためて思います。垂直面に直接当たる光も、階段上げ裏に水平に展開する間接光と対照的です。
この二つのコンクリートは保存されるようです。移築保存工事は、見学当時の予定では2005年に完了するように聞いています。機会を逃さずまたこの二つのお手本をぜひ見てみたいと思っています。
※保存の試みについてはこちら
http://www.keio.ac.jp/news/030308.html 「萬來舎およびイサム・ノグチ作品保存の試み」(慶応義塾ホームページより)
※萬來舎、ノグチルームの詳しい情報、すばらしい写真!パノラマムービーはこちらから見られます。
http://www.art-c.keio.ac.jp/Noguchi/index-j.html (慶應義塾大学アート・センター ノグチルーム より)

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