「ミリキタニの猫」THE CATS OF MIRIKITANI
監督:リンダ・ハッテンドーフ 製作・撮影:リンダ・ハッテンドーフ/マサ・ヨシカワ 編集:出口景子 音楽:ジョエル・グッドマン
2006年アメリカ 配給:パンドラ 上映時間:74分 カラー・スタンダードサイズ
出演:ジミー・ツトム・ミリキタニ/ジャニス・ミリキタニ/ロジャー・シモムラ
上映館:新潟シネウインド
採点:★★★★★
すべては2001年1月、ニューヨークの路上で猫の絵を描く一人の老人に出会ったことから始まった。監督のリンダは路上生活者のこの日系人がアメリカ生まれにもかかわらず戦時中に収容所に入れられ、市民権を放棄させられ、姉の家族もすべて広島の原爆で失ったことを知る。絵の報酬は撮影すること。老人は収容所の絵や原爆の絵を描き、アメリカに毒づいた演説をする。
2001年9月、近くのツインタワーに旅客機が突っ込む。老人はその様子もいつもと変わらぬ様子で描き続ける。しかしビル崩壊の浮遊物で当たり一帯は汚染され、路上から人の姿は消えた。リンダは彼を自分のアパートへ招き入れる。
アメリカの社会保障を受けるようにすすめるリンダに老人は「アメリカのパスポートなど屑だ!」と強く言い放ち、庇護を受けようとはしない。しかし一緒に暮らすうちに徐々に打ち解けた老人はようやく社会保障による庇護を受け入れる。そしてかつて自分の居た収容所へのツアーに参加し、気持ちの区切りをつける。
ドキュメンタリーというと、対象にある距離を置いて、作家は記録者に徹することが多いが、ここでは監督自身が積極的にミリキタニ老人にかかわり、それにより彼の気持ちが伝わり、変化を遂げていく過程が映されていく。あるものを撮る、というだけではなく、被写体に積極的にかかわっていくというのは「阿賀に生きる」もそうだったけれども、観客をたんなる傍観者にはせず、より被写体の人物の内面を描くことに近づく。それは諸刃の剣であり、ある種の危険性もはらんではいるのだが、優れたドキュメンタリーは作家の意識をはっきりと描き出すものであり、この作品も見事に仕上がっているのだ。

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