「ディア・ドクター」
2009年エンジンフィルム=アスミック・エース 上映時間127分
監督・原作・脚本:西川美和 プロデューサー:加藤悦弘 企画:安田匡裕 撮影:柳島克己 美術:三ツ松けいこ 編集:宮島竜治 音楽:モアリズム 音楽プロデューサー:佐々木次彦 衣裳デザイン:黒澤和子
出演:
笑福亭鶴瓶/瑛太/余貴美子/井川遥/松重豊/岩松了/笹野高史/中村勘三郎/香川照之/八千草薫
上映館:ワーナ・マイカル・シネマ新潟南(スクリーン2)
採点:★★★★★
西川美和監督の前作「ゆれる」は厳しいテーマに正面からぐいぐい迫っていく映画だったけれども、今回はある意味“ゆるい”映画だ。けれどもそれが返って映画としてはより魅力あるものに仕上がっていると思う。「ゆれる」はもう一度見るのはシンドイと思うが、この映画ならもう一度見たいと思う。
扱っているテーマも重いし、内容もエンタテインメントなものではないにもかかわらず、そう感じるのは何よりも主演の笑福亭鶴瓶の魅力と言えるし、八千草薫の良さもある。みんながなんらかの嘘をかかえつつも絶妙なバランスでなりたっている世界、その微妙さがこの映画のツボである。その微妙さは冒頭の老人が食べ物を詰まらせて死に瀕している場面に表れている。老人の命を救おうとする医師に対して、家族は暗黙のサインで救命措置を望まない。微妙な空気。その微妙さを察してあからさまな救命をせずに老人を抱きかかえる医師。さりげなく背中を叩いて詰まったものを吐き出させ結果として命を救ってしまう。生き返ったと喜ぶ(ふりをする)家族。絶妙である。映画はそうしたあやういバランスの上で進んでいく。瀕死のけが人が担ぎこまれた場面でも、緊急性気胸という難しい症状を看護士の暗黙の指示に従って胸に針を刺して命を救う。がんを知られたくない未亡人との関係も非常に微妙である。そうした物語を、役者の微妙な表情のみで描いていく。この監督の手腕、並大抵のものではない。

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