「ある精肉店のはなし」
2013年 108分
監督:纐纈あや プロデューサー:本橋成一 撮影:大久保千津奈 編集:鵜飼邦彦 音楽:佐久間順平 製作統括:大槻貴宏 録音:増田岳彦
(ドキュメンタリー)
上映館;新潟市民映画館シネウインド
採点:★★★★☆
牛を育てて、屠畜し、解体して食肉として販売する、そういう小さな精肉店を丁寧に描いたドキュメンタリーです。このところ「銀の匙」「夢は牛のお医者さん」と劇映画とドキュメンタリーで家畜についての映画を観たことから、人間が命を頂いて暮らしているということを強く意識させられています。
大阪府貝塚市の北出精肉店。古くは岸和田藩の支配下にあって、岸和田城も近く、だんじり祭の地元でもある。家族の中には自分で牛の皮をなめして祭りの太鼓の皮を張る仕事もしています。
そして長年にわたって差別に苦しんだ歴史も。精肉店のご主人は一方で差別問題に関する講演を地元教師に対して行っています。以前奈良県の田舎にある国宝の神社を訪れたとき、周囲に剥製店やなめし革を扱った店が並んでおり、昔の被差別地域の名残か?と思ったこともありました。
獣の皮をはぎ、肉を加工する部民は、都市にとってはなくてはならない存在である一方、血の穢れや悪臭ということから差別を受ける存在でも有り、文献によれば室町時代あたりまでさかのぼることができるそうです。彼らは差別されつつも、必要不可欠な業務を独占していたため、経済的には豊かな存在であったようです。
明治になって、建前上四民平等となると、経済的な独占は失われ、しかし差別は依然として残るという状況になり、それが水平社宣言など部落解放運動へとつながっていきます。部落問題は関西と関東でかなり状況が違うので、私などは学生の頃そういう知識は全くなく、司馬遼太郎のエッセイなどから徐々にそういう問題の存在を知る程度でしたが、関西では未だに大きな社会問題となっているようです。
この映画は、まず、飼っている牛を屠畜場に連れて行ってハンマーの一撃で牛を倒し、家族総出で解体していくシーンから始まります。それは確かに残酷ではあるけれども、職人の技であり、ある種の神々しささえ感じられます。長男のお嫁さんが、「牛を屠畜するまでが怖い、牛が暴走するかもしれないし、暴れるかも知れない。その後は解体していくだけなので大丈夫なのです」と言うのが印象的でした。
自分たちが普段美味しく食べている肉も誰かが屠畜しているんだという事実。言われ無き差別を受けてきた人たちの歴史、そうした、普段直視してこなかったものに、正面から、しかし粛々とカメラを回している、そんな映画です。
一家の孫に部落出身ではないお嫁さんが来て、岸和田城で結婚式を挙げるのがこの映画のひとつのクライマックスであり、そして、利用者がこのお店だけになり、廃止されることになった屠畜場での最後の場面がもうひとつのクライマックスです。
途中ちょっと眠気を催すところがあって、★ひとつマイナスです。
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