「母と暮せば」2015年 松竹 130分
監督:山田洋次 企画:井上麻矢 プロデューサー:榎望 脚本:山田洋次/平松恵美子 撮影:近森眞史 美術:出川三男 編集:石井巌 音楽:坂本龍一 照明:渡邊孝一 録音: 岸田和美
出演:吉永小百合(福原伸子)/二宮和也(福原浩二)/黒木華(佐多町子)/浅野忠信(黒田正圀)/加藤健一(上海のおじさん)/広岡由里子( 富江)/本田望結(風見民子)/小林稔侍(復員局の職員)/辻萬長(年配の男)/橋爪功(川上教授)
上映館:ユナイテッドシネマ新潟SC1
採点:★★★☆☆
井上ひさしの戯曲「父と暮せば」は2004年に黒木和雄監督が原田芳雄、宮沢りえ、浅野忠信の出演で映画化した秀作があります。それは戦争に生き残ったことを悔いたひとりの女性を、原爆で死んだ父親が新しい人生に踏み出していくきっかけを与えるために幽霊となって娘の元に現れるという作品でした。
今回山田洋次監督は医学生の息子を失った母親と、息子の婚約者の話に置き換えたのですが、結果として、婚約者の新しい人生の出発は婚約者の母を死に追いやるという結末となり、後味の悪いものとなっています。
最近の山田洋次の作品には、こうした、ある種後味の悪さを感じます。それは、監督が映画を作る動機が、ひとに感動を与えようというものではないから、とも思えます。
「小さいおうち」では戦前の中流家庭の暮らしのディティールを丹念に描写していた感じですし、この映画でも、大学の講義の際、インク壺を開けてつけペンでノートを取る様子、蓄音機によるメンデルスゾーンのレコード演奏、復員局への列車の旅、もらった小豆の選別、年越しについた餅で作った鏡餅、というようなディティールをこそ描きたかったようにも感じられます。
新しい人生に旅立つ娘さんの婚約者が「父と暮せば」と同じ浅野忠信が演じているのはかの作品へのオマージュでしょうか。しかしこの作品での彼は、南方での戦闘で左足を失っています。復員局の職員の小林稔侍も左手の指を失っています。そうした描写にははっとさせられるのですが、全体の構成に無理があるので、見終わった後に喉の奥にとげが刺さったような感覚が残るのです。
吉永小百合は御年84歳にはとても見えません。せいぜい60歳くらいでしょうか。どんな役をやっても吉永小百合は吉永小百合以外の何者でもありません。そういう意味では高倉健と双璧でしょう。
黒木華は相変わらず素晴らしい。女学生、小学校の先生、婚約を伝えに来る硬い表情、きちんとそれぞれの演技ができています。
二宮和也はまあまあ良かったと思います。ちょっと演技が唐突なところもありますが、幽霊役なのでその辺もかえってらしくてうまいです。
俳優の演技としては「父と暮せば」は、二人の俳優のがっぷり四つに組んだ芝居で、セリフだけで原爆の悲惨さを表現した秀作だったのに対して、この作品はそういうことを目指していないのだと思います。
じゃあどこを目指しているのか。それこそがこの映画の最大の弱みかもしれません。観客の涙を目指しているのなら十分目的は達している水準であることは間違いないのですが。
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