「アンダーグラウンド」(デジタルリマスター版)(UNDERGROUND)
1995年 フランス/ドイツ/ハンガリー(マーメイドフィルム) 171分
監督:エミール・クストリッツァ 製作総指揮:ピエール・スペングラー 原作:デュシャン・コバチェヴィッチ 脚本:デュシャン・コバチェヴィッチ/エミール・クストリッツァ 撮影:ヴィルコ・フィラチ 美術:ミリアン・クレカ・クリアコヴィッチ 音楽:ゴラン・ブレゴヴィッチ
出演:ミキ・マノイロヴィッチ(マルコ)/ミリャナ・ヤコヴィッチ(ナタリア)/ラザル・リストフスキー(クロ)/スラヴコ・スティマチ(イバン)/エルンスト・ストッツナー(フランツ)/スルジャン・トドロヴィッチ(ヨバン)/ミリャナ・カラノヴィッチ(ベラ)
上映館:新潟シネウインド
採点:★★★★☆
カンヌ映画祭のパルムドール受賞作品というのは、毛色の変わった作品が多いですが、この作品も一筋縄ではいかない作品です。ユーゴスラビア連邦の第二次世界大戦中、冷戦期、そしてチトー没後の内戦の三部構成でその渦中にあったマルコ、クロ、ナタリアの三人の運命を描きます。なんだかんだ言っても、この作品の中心はこの二人の男の友情と、その二人が同時に愛したナタリアという女優の愛の映画でもあるのですが、そこにユーゴスラビアの辿った複雑な歴史を織り込んだちょっとファンタジックな作品でした。
ファンタジックな作品としたのは、1995年という、まだ内戦が継続中のユーゴスラビアを描くにあたって、直接的な表現は難しかったという面もあると思います。第二次世界大戦のレジスタンスを描いた作品としては、アンジェイ・ワイダの「地下水道」を初めとする作品ややロベルト・ロッセリーニの「無防備都市」なども思い浮かびますが、この映画でも、とくに「地下水道」を意識した作品であるようにも思えます。
現在進行形の内戦を扱ったことから、当時政治的な側面からいろいろな攻撃を受けたということです。特にセルビアを攻撃する国連軍の描き方が標的となったのでは、と思われます。当時の欧米での世論はセルビアが一方的な悪役になっていました。
しかし、この映画では、第二次世界大戦ではナチスから空爆され、その後連合軍からも空爆され、内戦では国連軍から空爆されているというセルビア人の通常の感覚を描いているにすぎないと思います。
友人の一人クロはセルビア軍の指揮官となり、一方の友人マルコとその妻となったナタリアがドイツ車に載った武器商人になっていて、まるこ、しばらくぶりにあった実の弟に撲殺され、ナタリアも、昔の恋人とは知らぬクロの命令で処刑され、遺体は焼かれます。
二人の遺品から身元を知って呆然とするクロ、イエス像の崩れ落ちた十字架の周りを火だるまになった車いすに乗った遺体がぐるぐる回るシーンはとても印象的です。
エンディングはクロの息子イバンの結婚式のイメージショットとなり、主人公たちが祝宴を開く中、大地が避けて人々は漂流を始めるシーンで、分裂してゆくユーゴスラビアの象徴となっています。「許す、しかし忘れることはない」というセリフが重く響きます。
「昔、あるところに国があった」戦争で祖国がばらばらになって行く監督の痛切な思いを感じます。いたるところで奏でられるけたたましい音楽と、コミカルな表現にかえって監督の思いを感じる映画でした。

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