「華氏119」(FAHRENHEIT 11/9)
2018年 128分 アメリカ(ギャガ)映倫 G
監督:マイケル・ムーア 製作:マイケル・ムーア/ カール・ディール/メーガン・オハラ 製作総指揮:バーゼル・ハムダン/ティア・レッシン 脚本:マイケル・ムーア 撮影:ジェイミー・ロイ/ルーク・ガイスビューラー 編集:ダグ・エイベル/パブロ・プロエンザ 字幕監修:池上彰
(ドキュメンタリー)
上映館:TOHOシネマズシャンテ−2
採点:★★★★★
マイケル・ムーア作品を観るのは、実は初めてです。すみません。現在アメリカで、世界で、何が起こっているのかを明確に解き明かして行くこの作品は、最近観た映画の中で最も面白い作品でした。ドキュメンタリーをこんなに面白く観たのは、多分「阿賀に生きる」以来かも知れません。
映画は2016年のアメリカ大統領選挙の当日から始まります。勝利を確信していた民主党のヒラリー・クリントン候補やマスコミが、徐々に票数を詰められ、そしてまさかの逆転負け。ドナルド・トランプが第45代大統領に就任します。
映画はなぜこのようなことが起こったのか、解き明かして行きます。そして投票数では常に多数派の民主党が大統領に成れない大統領選挙の仕組みや、リベラル派の民主党も実際には巨大企業からの巨額の献金を受け、共和党と差がない存在になっていること、マスコミが泡沫候補のトランプを大きく取り上げることで一躍有力候補にのし上がって行った過程を分かりやすく描きます。
そして現在の状況をヒトラーが台頭した当時のドイツの状況と引き比べて行きます。実際には存在しない危機を煽り、民族浄化を謳って人種差別政策を実施、次第に独裁的な権力を確立して行く手法はそのまま現在の状況にぴったり当てはまります。
ただ、トランプ大統領の誕生は、静かに進んでいたこうした状況を白日の下に曝したという効果もあるとも言えます。ミシガン州フリントの水道汚染問題は企業経営者出身の州知事による最悪な事例として描かれます。黒人系の最下層の人々の住んでいる地域の水道が、それまでのヒューロン湖からの水道が工業排水で汚染されたフリント川からの取水に切り替えられたため、住民に健康被害が拡大しました。
しかしこの地を訪れたオバマ大統領は改善を期待する住民の前で水道水を飲む振りをするパフォーマンスまでして水道水の安全性をアピールしたのです。
その後フリントはある日突然米軍の予告なしの演習の標的となり、住民が生命の危険にさらされるという事態にまでなりました。まるで近未来SFのような事態が現実に起こっているとは大変驚きました。
これらのことは、民主党のオバマ政権下でのことであることに留意すべきです。しかし若い世代にも問題意識を持つ人たちが現れており、中間選挙に向けて民主党候補者の無風区に若者代表が立候補する流れも出てきました。ムーア監督が、「私たちの世代がこうした若い世代を育てたことは喜ばしい」と言うと、若者は「いいえ、私たちを育てたのはSNSよ!」と言い切ります。政治に無関心な人が増えれば増えるほど、独裁者には都合が良いわけで、SNSこそが将来の救いとなるかもしれません。
とても残念なのはこのような素晴らしい作品が、アメリカでもさほど観られていないという事実です。新潟でもわずか一週間で上映が終わってしまったようです。お近くで上映中の劇場があると言う方は、速やかな鑑賞をお勧めします。
https://gaga.ne.jp/kashi119/

0