「ローマの休日」(ROMAN HOLIDAY)
1953年 アメリカ(PAR)118分 映倫 G
監督:ウィリアム・ワイラー 製作:ウィリアム・ワイラー 原案:ダルトン・トランボ 脚本:イアン・マクレラン・ハンター/ジョン・ダイトン/ダルトン・トランボ(クレジットなし)撮影:フランク・F・プラナー/アンリ・アルカン 衣装デザイン:イーディス・ヘッド 編集:ロバート・スウィンク 音楽:ジョルジュ・オーリック
出演:
オードリー・ヘプバーン(アン王女)/グレゴリー・ペック(ジョー・ブラッドリー)/エディ・アルバート(アーヴィング)/テュリオ・カルミナティ(将軍)/パオロ・カルリーニ(美容師)/ハートリー・パワー(ブラッドレーの上司)/マーガレット・ローリングス(ヴィアバーグ伯爵婦人)/ハーコート・ウィリアムズ(大使)/クラウディオ・エルメッリ
上映館:Tジョイ新潟万代SC8(午前十時の映画祭)2019/08/29
採点:★★★★★
午前十時の映画祭もあと半年で終了だそうです。この企画で観た映画は、「昼下がりの情事」「ティファニーで朝食を」「麗しのサブリナ」「パリの恋人」って全部オードリー・ヘップバーンじゃん!つまり私にとってオードリ祭りだったこの企画、今日は無名のオードリー・ヘップバーンが一躍スターになった名作映画「ローマの休日」です。
映画と言うものは、どんな名作であっても、人によって好き嫌いが分かれるものですが、この映画に関しては観る人を選ばないと思います。この映画が面白くないと言う人は、よっぽどのへそ曲がりか、深い悩みを抱えた人ではないでしょうか。
まず開巻のニュース映像でイギリスとベルギーを訪問したことを伝え、この王女は両国の人ではありませんよ、あくまでも架空の国ですよと伝えます。そしてローマ大使館でのレセプション。王女の靴が脱げてしまい、将軍がさり気なくダンスに誘って急場をしのぐエピソードで、王女のお茶目な性格を活写します。
この辺の侍従達の演技もなかなか面白い。後で出てくるタクシードライバー、美容師やらブラッドリーの大家さんといった脇役ひとりひとりがどれも個性豊かで素晴らしい。
王女は大使館を抜け出して街へ出かけますが、睡眠薬を注射していたのでベンチで寝ていたところを通りかかったブラッドリーに見咎められ、ブラッドリーは彼女を家に返そうとしますが、結局自分のアパートに連れて行きます。部屋に入ったアンが「ここはエレベーターですか」と聞くところは笑えます。
酔っ払いにしては着物も上等だし、言葉も超ハイクラスの話し方。パジャマに着替える時も手伝えと来たもんだ。これはよっぽどのお嬢様だよ。長椅子に寝るように伝えたのにコーヒー飲んで戻って見れば俺のベッドに寝てやがる!なんとか彼女を長椅子に移してやっとベッドで寝ることが出来た。
ところが目が覚めたら昼の0時。王女の記者会見が11:45だってのにすっかり寝過ごしちまった。あわてて会社に飛んでって会見に行ったと嘘をつくが、すぐにバレてしまう。それもそのはず、王女は急病でスケジュールは全てキャンセル。「ちゃんと早起きして新聞ぐらい読むんだな!」と支局長に言われて新聞を見てたまげた!王女と昨日の女は瓜二つじゃないか。
急いで大家に電話してまだ女が部屋にいることを確認したブラッドリー。支局長に王女に独占インタビューできたら5000ドルもらうことで手を打った。
アパートに帰るとアンはまだ長椅子で寝ていた。試しに耳元で「王女様」と声をかけたら「なあにドクター?」と生返事。やっぱり本物だ!しかし長椅子で寝かしてたなんて具合が悪いな、とアンを抱きかかえてベッドへ移してたところでようやくアンも目が覚めて来たようだ。
「ねえ先生。夕べ変な夢をみたの。ベンチで寝ていたら、とっても背の高い、意地悪な男の人がいたの。」
ふとアンが天井を観ると、そこにはギリシャ彫刻ではなく、見にくい暖房用配管が。不思議に思ってよく見れば、そこに立っているのは先生ではなく、見知らぬ長身の男。「先生はどこ?」「先生なんかいないよ」
ようやくアンは正気に帰り、自分が見知らぬ男の部屋にいることに気づきます。「あなたがここへ連れ込んだの?」「いや、どちらかというとその逆かな」事態が飲み込めたところでようやく二人は自己紹介。「ジョー・ブラッドリーです。」「ええっと、私はアーニャと呼んでください。」ここ、「You may coal me Anya.」が可笑しい。アーニャと呼ぶことを指し許す、みたいなニュアンス。
長くなるのでこの辺で止めますが、細部に至るまでよく描き込んでありますよね。でも実は昔の映画ってこれくらいは当たり前なんですよね。今日の発見、と言うか、忘れていたのは、船のダンスパーティで秘密警察に負われたアンとブラッドリーがボートの倉庫を逃げていくシーン、手前の横木の上に白黒の猫がちょこんと座ってました。そんなことする必要性全くないのに、そんな遊び心が好きです。
24時間の冒険を経て、アンが人間的に成長して、「責任の事であれば何も言わなくて結構です。責任を考えないのであれば私は今ここにいません。今後も無用に願います」って言うところは心打たれます。
最後の記者会見のシーン、ブラッドリーを見つけたアンは全てを知り、激しく動揺しますが表面には出しません。動揺しているのにそれを表さないと言う難しい演技です。ヨーロッパ情勢への質問に対し、お仕着せの回答に「国の関係も人と人との関係同様信頼が一番大切だと思います」と付け足したアンに、ブラッドリーが「社を代表して王女の希望が実現されることを希望します」と答え、アンに記事にしないことをほのめかします。そして、記者ひとりひとりに挨拶をして最後にとっておきの笑顔のカット。監督がオードリーを抜擢したのはテスト撮影時に緊張からほぐれた一瞬の笑顔に惚れたからと言われていますが、まさに王女の笑顔でした。
会見が終わってひとり会場を立ち去るブラッドリーでエンディングですが、アンは確かにブラッドリーを愛したと思いますが、ブラッドリーはどうだったのでしょう。会見の間のブラッドリーは常に曖昧な笑顔を浮かべ続けて、あまり感情を表していません。純粋なアンの心を商売に利用しようとした激しい悔恨が心を占めていたのでしょうか。それとも、やはり恋心を心の底に沈めようとしていたのでしょうか。
「ローマの休日」は昔から人気は高いけれどもいざ名画座でかけると客は入らないとよく言われる作品でした。しかし今日は意外にも平日の朝にもかかわらずそこそこ客は入っていました。やっぱり大画面で観たいと思うひとはそれなりに居るんですねえ。こうした旧作の上映、何らかの形で続けて欲しいものです。

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