「この世界に残されて」(Akik maradtak:Those who remained)
2019年 ハンガリー(シンカ) 88分 映倫:G
監督:バルナバーシュ・トート 製作:モニカ・メーチ/エルヌー・メシュテルハーズィ 原作:ジュジャ・F・バールコニ 脚本:バルナバーシュ・トート/クラーラ・ムヒ 撮影:ガーボル・マロシ 音楽:ラースロ・ピリシ
出演:
カーロイ・ハイデュク(アルダール・ケルネル[アルド])/アビゲール・セーケ(クララ)/マリ・ナジ(オルギ)/カタリン・シムコー(エルジ)/バルナバーシュ・ホルカイ(ペペ)
上映館:新潟市民映画館シネ・ウインド
採点:★★★★☆
【ネタバレ注意】
時代は第二次大戦終了直後の1948年。16歳の少女、クララは初潮が来ないことで叔母に連れられて産科医のアルドの所にやってきます。ホロコーストで両親を失ったクララはアルドを父親のように感じ、アルドの家に泊まるようになります。
アルドも同じ様に妻子を失ったトラウマを抱えており、2人の間には親子とも男女ともつかぬ愛情が生まれます。
しかし、ロシアの支配が日増しに厳しくなる時代であり、公園での2人の睦まじい様子をクララの教師に見咎められ、危険を感じたアルドは自分の診察した患者の中から1人の女性を選び、付き合うようになります。
一方クララも同世代の男子と付き合い始めます。3年が過ぎ、アルドの誕生パーティーにはみんなが集まり、何事もなかったかのように一時を過ごすのでした。
この映画は42歳と16歳の歳の差のある男女の恋物語と見ることも出来ますし、お互いに大切な家族を失った者同士が孤独を共通項として触れ合う事を描いたとも取れます。
私は2人の間には確かに恋愛感情は有ったと思います。深夜共産党員がアパートの隣人を連行していったと思しき描写があり、その直後にアルドは早急にパートナーを選びます。その電話を掛ける直前にも、医院の看護士から急に消息の知れなくなった人の話がされています。
アルドはクララとの関係があくまでも親子のような関係であることを装う必要が差し迫ってあったということです。
アルドはクララから何度も嘘つきだと指摘され、彼もそれを敢えて否定しようともしません。あの時代、ユダヤ人が生き残るためには正直ではいられなかったのでしょう。
表面的には歳の差のある男女の淡い恋物語のように装った映画ですが、見方によっては恐ろしい、一歩間違えば命さえ失いかねない危険な状況を描いた映画です。
クララ役のアビゲール・セイケは22歳ですが、ちょっとイングリッド・バーグマンを思わせるような魅力的な女性です。この映画の魅力はひとえに彼女によるところが大きいと思います。
アルド役のカーロイ・ハイデクはポーランドのベテラン俳優だそうで、感情を押し殺した渋い演技が素晴らしいと思いました。
(202128)
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