■「あだち充」の「革命」
「今は昔」の1980年代初期。70年代の「巨人の星」や「あしたのジョー」の
「スポコン全盛期」は過ぎたものの少年コミックの主人公には「男らしさ」
がまだまだ必須条件でした。
そんな時代に「いやいや、男子は選ぶんじゃなくて、選ばれるんでしょ」と
リアルな青春像を描いたのが「ラブコメの巨匠」あだち充氏。「陽あたり良
好!」、「みゆき」そして大ヒット作「タッチ」...際立ったキャラ造形、
絶妙なストーリー運び、特に会話の「間」の使い方が絶品。正に「革命」
でした。
■「クロスゲーム」の「進化」
日曜朝のアニメを見たのがきっかけてあだち氏の最新作「クロスゲーム」を
コミックを読み始めてしまいました。その「巧さ」は「タッチ」から30年近
くたっているのに陰りが見えるどころかさらに「進化」。恐るべき磁力で既
刊コミック全15巻を一気読みしてしまいました...
マイペースなお調子ものの主人公、樹多村 光(きたむら こう)、近所に住
む幼馴染の月島家の四姉妹。光と同い年で「本気になったら日本一のピッチ
ャーだって夢じゃない」と言っていた月島家の次女、若葉は小学5年生の夏、
不慮の事故でこの世をさってしまう...まるで「タッチ」の裏返しですが、
全く古さを感じさせません。「タッチ」のかっちゃんの「呪縛」のように
若葉の「思い出」が実にうまく物語を「縛って」います。毎度のことながら
あだち氏の伏線の折り込み方は水際立ってますね。
■来てます、「新キャラ、東」
月島家の三女、青葉は男子もびっくりの剛速球を投げる野球少女。ついつい
光に憎まれ口をたたく彼女がふとした瞬間に見せる表情がとても愛らしい。
これまでの「あだちワールド」に存在しなかった「新キャラ」が、東 雄平
(あづま ゆうへい)。光が新学する星秀学園高等部の野球特待生で「長打率
8割」というスラッガー。端正で凛々しい顔だち、「昔からどうでもいいやつ
の顔は覚えない」と監督に言い放つ傲慢ぶり、果てしなくバット振り込むス
トイックさ、そしてその裏に隠された兄への思い...
これまでのあだち作品のライバルキャラたちがどこか甘さをあったのに対して
東はサイコーにクール。コミック史上でも屈指のキャラクターですね。すっか
りまいってしまいました。
アニメも少年サンデー連載中の原作もまだまだ当分楽しめそう。光、青葉、そ
して東にどんな展開が待っているかじっくり味わいたいと思います。
※「おとゲー」2009/9/11号掲載

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